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第四話「怪人って言うけど、アレ田辺さんトコのお兄ちゃんじゃね?」

「ライオンは自分の事ライオンだなんて思っちゃいねぇよ!」

懐かしい映画が流れている。

何だったっけ?これ…。どれ位前のだっけ…?

まだ、「外にいた」時に観た記憶がある。


この部屋から出なくなって、もうどれ位の年月が経っただろうか。

何か「これ」と言う理由があった訳じゃない、でも僕はいつの間にか「部屋を出なくなった。」

正確には、家を出なくなった。時々は家族が寝静まってから、台所に行って飲み物なんかを拝借する。

欲しい物はメモにして置いておく。

特にコレと言った物欲はないが、「ポテチ食べたい。」「コーラ飲みたい。」みたいな簡単な物だ。

そのメモと引き換えに、頼んだ物が置かれているシステム。

カーテンを開ける事も殆どなくなり、みんなが寝静まってから活動を開始するから「夜なんだな」という感じで、時計の意味は随分と前からなくなっている。

友人はいる。

ネット上だが彼等との交流は、僕が人間なんだと認識させてくれる唯一のコミュニティかも知れない。

自分が変わっているのか、周りが変わっているのか、随分と前にその事について考えた事があったが、今は散髪と同じ様に「考える必要がない事」になった。

僕は何でもない。

親に付けられた名前はあるが、名前はただの名前ってだけで、何の意味もなさない。今ではその名前で呼ぶ人はいないし、ネット上では「@クロコゲ」で通っている。

真っ黒こげの「クロコゲ。」

「そうだ。僕はクロコゲだ。」

無意識に口にしていた。

何だろう。久しぶりに声を出したせいなのか、少し高揚感を感じた。映画の影響だろうか。しっかりは観ていなかったけど、妙な衝動がある。

「僕はクロコゲだ。」

名前に意味はないと言っていたのに矛盾しているが、その名前を口にした瞬間、口元が少し緩むのを感じた。


家族は皆寝ている。

…久々に外に出てみようか。そんな感情になったのは久々だった。

「クロコゲ」として外に出る。

久々の外は怖いから、護身用にカッターを持って行こう。誰かに襲われるかも知れない。何かの段ボールを開けた時に使った大きめのカッターナイフが目の前に転がっていたので、それを左のポケットに入れた。少し出てしまうが落ちはしないだろう。

最近ずっと同じスウェット姿だったので着替えようとも思ったが、暗くて着替えらしき物がよくわからなかったのでそのまま部屋を出た。

音を立てない様に静かに歩く。多分、これが自分が今出来る家族想いの行動の精一杯だ。

玄関には見慣れた自分の靴が隅に追いやられていた。並んだ革靴。踏みつけ、一番端のスニーカーに足を伸ばした。

カチャ…。

玄関の音が響いたが、誰かが起きる気配はない。

外に出た。

「やっぱりシャバの空気は美味ぇなぁ。」良くある台詞だが、確かに言われてみれば何となく「違い」を感じる。

何となく強くなった様な、闇夜を生きるヒーローの様な。

伸びた髪、パッとしないスウェット、ポケットにはカッターが入っている。その上名前は「クロコゲ」だ。

「ヒーローと言うよりむしろ怪人だよな。」

怪人。

自分が怪人寄りだという正しい感覚(?)はまだある。

クロコゲは闇に紛れた。


次回予告!

新たな登場人物、その名も「クロコゲ。」

怪人って書いちゃったから怪人なんだけど、どうやって弄って行こうかな!困ったら爆発させちゃうから大丈夫!(?)

次回、第五話「夏設定で書いてたのに一気に寒くなったからもう言葉出て来ないよ!」

東京に革命を!!(そもそもそう言う意味で付けた)


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