国家と多国籍製薬企業の関係: 製薬探索のコペルニクス的転回とは? ・・・についていつも考えること

気の置けない同業者(医療経営など)と一杯やると、いつも私がぶち上げるネタがあります。酒のネタだけだと忘れてしまうのでそれでいいのですが、いつか将来(いつだ?)、根拠やロジック、現状調査はともかくアイデアとして置いておこうかなあと思いましたので、夢物語としておつきあいください。

 21世紀に入りすさまじい勢いで高齢化が進み、医療費の高騰が問題になっています。但しこれは高齢者(特に後期高齢者)の増加が主因というよりは、医療技術の発達、高度な医薬品の開発による上市価格の高騰といったことが主因であると考えられています。例えば昨年5月、コロナの緊急事態宣言で話題性的には隠れていましたが、ノバルティスファーマ社の「ゾルゲンスマ(脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療薬)」には、1億6,707万円という薬価がつきました。

 薬価の決定方式をここでつまびらかにできるほどのリサーチは本稿では行いませんが、製薬企業としてはやはり、研究・開発の原価回収と同時に、上記の疾患の患者数(有病率など)を考慮したうえで、どれほどの売上が見込めるかを綿密にシミュレーションして単価を決めて行っているものと思われます。

 薬の開発は「千三つ」ではないですが、候補探索、安全性探索、有効性探索、と長期間をかけて段階的に行い、かつその長い道のりの途中で断念していくものも少なくなく、傍から見たら博打としか思えないような地道な探索作業が続いているものと見られます。そうした経営リスクを回収するリターンとしても、高額な薬価収載は是認されていると思われます。

 その一方で、各製薬会社のCEOは何億円というリターンを個人的に得ており、その原資は、庶民の社会保険料と公費、若年層被保険者から徴収された後期高齢者医療負担金から「薬剤費」として民間企業である製薬会社に吸い上げられていることを思うと、少し複雑な気もするのが事実です。

 しかし目を転じてみると、薬学に関する研究機関はなにも製薬会社だけではなく、全国の大学医学部や薬学部で、特に候補物質の基礎研究や探索、実験というものは日常的になされていると見られています

(私は2021年4月より医学系大学院に在籍しているので、基礎医学系の講義の教授のお話で、薬理学や感染症、病態学や遺伝子治療など、新規ペプチド発見の裏話、俺は昔ノーベル賞受賞の研究者と共同研究したんだぞ、というお話しを聞いて、ふーん、おもしろそう、と思っているだけですが)。

 要は、製薬会社の新規薬品探索のパイプライン機能探索の事業部を政府または国立大学法人機構などが買収し、そこ(大学等研究機関)で作用機序や安全性までの実験を完了した新薬候補物質を、国家的なオークションにかけて製薬会社が入札・買い上げ、そこから買収した製薬会社が製品化へ至るというのはどうなのでしょうか(正確な新薬開発プロセスはいずれきちんとモデル化・図示化したいと思っています)。

 製薬会社は、パイプラインをゼロから開発するという経営リスクを極力減らして、製品化・上市のリターンを享受できますので、ハイリスク・ハイリターンというモデルではなく、ローリスク・ミドルリターンという形になるでしょうし、大学法人などの研究機関においては、研究成果が特許だけではなくオークションとしてキャッシュ化できれば、モチベーションの上昇にもなるのではないかなと思ったりします。

 もちろんこうした構想は、企業の準・国有化に近い発想であり、いわゆる「社会主義」的施策ですから、「民間資本による自由経済」とは少し相いれないところもあるかと思います。しかし時代は21世紀。環境問題をはじめとして「市場の失敗」は多々明らかになっているところであって、中華人民共和国などをはじめとした国家主導の開発経済や、国家経済を凌駕する規模のメガファーマ(ネットビジネスのGAFAMや、それこそ国際製薬企業)が、「株主主権」を錦の旗印に、自由自在にタックスヘイブンで節税したり、苦しい国家財政から超高額な薬剤費を吸収し、株主や取締役に超高額な配当や報酬をもたらしていくのは、ちょっと違うのではないかなあ、と思ったりするわけです。

 私は、いちおうノンポリの中道自由主義者ではありますが、国家税制が国際的税務アドバイザーの力を得たメガファーマに競り負けていくような「主権国家」の落日をみるにつけ、21世紀は、こういう国家重商主義的な対応をしていかないと、国民の健康も守れないと思うのです。

 今回のコロナ禍において日本の製薬企業はコロナウイルス開発で完全に出遅れ、その結果、我が国の宰相が外国の製薬企業CEOに対して執念で頭を下げてまでコロナワクチンを確保したという、主権国家がメガファーマに屈したという姿は、忘れてはならない国辱的事件だと思います。

 「民間企業の自由競争」を宗教のように守っているだけでは、国家財政も守れない時代ではないのか。そんなことを、知り合いと酒を飲むといつも串カツ屋〇中の隅で力説しているわけです(で、翌日には忘れるというのがここ4,5年のパターン)・・・。

 国民を幸福にする「新・社会主義」とは。製薬企業の新薬開発リスクとは。メガファーマと国家の相剋(これは1990年から2000年代に政治学・政治経済学の世界で、「多国籍企業論」として喧々諤々議論されていました)、大学・研究機関における新薬開発と、製薬企業における開発のオーバーラッピング、新薬候補のオークション制度とはいかにあるべきか、そうした制度を採用した場合の、ある新薬の薬価収載価額は、現行制度とどの程度、国家財政・保険財政へのプラスまたはマイナスの貢献度があるのか、、、それぞれ政治哲学者、医療経済学者、医薬経済学者、行政学者、大学制度の専門家、、、それぞれでPh.Dを持つプロの研究者が5人くらいチーム組んで2,3年はかかりそうなテーマですね、、、てか、そもそも論文になるのかな・・・。3,4億くらいの科研費がついたらなんとかチームが組めるかも??。。。

 厚生労働省というより、内閣府のなんとか新産業タスクチームの「官房機密費」でも出してもらえませんかね、というか、チームを組むためには僕が博士号とらないと相手にしてもらえないのか、何年かかるのやら。

というわけで、これくらいしかオチが思いつきませんが、今日はこの辺で。



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