Safari_デスクトップピクチャ_

愛犬オカメの死を漫画にしたことについて。悲しいだけじゃないから大丈夫。

本を出しました。「いとしのオカメ」「いとしのギー」という、犬との暮らしを描いたエッセイ漫画です。超端的に言えば、「いとしのオカメ」はオカメを里親会からもらってきてから6年後に死んでしまうまでの話で、「いとしのギー」は1年半前に同じくもらってきた、人なれしていない元野良ギーと、家族になっていく話です。

画像1

(ダックスのオカメ)

画像2

(元野良犬のギー)

今日は、ギー本じゃなくてオカメ本の話をします。オカメの死を描いたということについて、すごく話したいことがあるので。

画像3

「泣きすぎちゃいそうだから、オカメの方は読めない」という声が、たくさん届いています。読んじゃったら、愛犬の死を想像したり、思い出したりしそうで、怖いのだろうなぁと思います。夫にも友人にも言われていましたし、オカメのファンだとおっしゃってくれる方々にさえ言われました。まぁ、そりゃあそうか…仕方ないよなぁ…と、この間まではそう思っていたんですけれども。

だんだん、じわじわと、悲しそうで読めないと言われるのが、悲しくなってきてしまった。オカメは、私が、もしかしたら自分より大切にしていたかもしれない犬です。オカメとの日々を描いた本を、悲しい物にしたくないと1番思っているのは、絶対に私です。だから、大丈夫。私はオカメが死んだ時、悲しいだけじゃなかったから、悲しいだけの漫画は描きませんよ。

オカメが死んだのは、1年前です。9月28日、午後4時20分でした。10歳で癌になって、腕の中で逝きました。悲しくて、悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて悲しかったけれど、よーく、よーーーく自分の気持ちを見つめてみたら、悲しさの向こう側に、強さを感じました。それは、オカメと私が持っていた強さです。一緒に終わらせたという強さと、これからも終わらないという強さでした。それを思い出と呼ぶのでしょう。

終わった、と、終わってない、が、あの日からずっと私の中にあります。犬の死にはちゃんとその後があって、私はその"その後"をちゃんと持っています。私が漫画の本文で、「生きものは素晴らしいと今日で5万回目くらいに思う」と描いたのは、そういう気持ちです。オカメが私に残したものは、"終わる"ということよりも"終わらない"ということでした。

画像4

愛犬の死が、自分を弱くしてしまっている方。強さはポジティブなこととは違うと、私はいつも思います。強さは、考え続けることとか、思い出し続けることとか、後悔することもそうだと思います。自分を責める気持ちは弱さじゃなくて強さだし、泣くことも、泣けないことも、夜が来るのが怖いままでいることも。元気だけが強さだと思ったことは、私、1度もありません。35年生きて、1度もです。

だから、「いとしのオカメ」を読んで元気になってほしいなんて、ぜんぜん思っていません。誰だって、そのままでいいと思っています。そのまま、それぞれの"その後"を続けてくれればいいと思うんです。それが涙に明け暮れる"その後"であれ、清々しい感謝で満たされた"その後"であれ、それが犬の命の続きなんだから。

私は、私のことを、強いと思っています。でも、オカメと出会う前は、弱かった気がします。子どものいない私たち夫婦に、『自分より大事かもしれない』という気持ちを持ってきてくれたのは、オカメです。会いたい、会いたい、会いたいけれど、それよりも。会えて良かった、という気持ちの方が大きいです。

だから、大丈夫。私は、悲しいだけの漫画は描きません。「いとしのギー」を読むと、私が犬の可愛さだけを描かないようにしているのが、伝わるんじゃないかと思います。それと同じように、「いとしのオカメ」は、死の悲しみだけを描かないと決めて描きました。悲しい、苦しい、寂しい、怖いだけで、読んだ方々の心が埋まらないように、一生懸命考えました。だから、読んで。読んで下さい。あれは、2冊で1つの作品です。

私は、オカメのおかげで、死ぬのがちょっと怖くなくなりました。あと、老いることがちょっと怖くなくなりました。自分よりも誰かを大事にした思い出がある。それは、最期の最期、私に幸せをくれそうです。夫にもくれるでしょう。それが、全部、オカメの"その後"です。

大丈夫、大丈夫です。「いとしのオカメ」は悲しいだけの漫画じゃないから、大丈夫。どうか、私の可愛い可愛いオカメに、ページをめくって会ってください。

画像5

→「いとしのオカメ」「いとしのギー」特設サイト

Amazon「いとしのオカメ」

Amazon「いとしのギー」

【著者紹介】
おおが きなこ
漫画家・イラストレーター
1984年生まれ。SNSやWEBを中心に様々な漫画を発表している。人の心の些細な葛藤をしつこく掘り下げていくのがスタイル。座右の銘は「嘘を描くな」。現在は、元野良犬の「ギー」と新たに加わったシーズーの「マル」の2匹と一緒に暮らしている。著書に『今日のてんちょと。』がある。

Instagram @kinakonoe  @oogakinako
Twitter @kinakobon (どれも「おおがきなこ」で検索すれば出ます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?