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【Last Season Essay 2022 #1】 MKG 岸さとみ

中学生の頃に一度、お正月の東京ドームに連れていってもらったことがあります。たまたまいただいたチケットで見に行ったライスボウル。それがアメフトとの出会いでした。当時は、アメフトの楽しみ方もわからず、経験者の父にルールを教えてもらいながらぼんやりとフィールドを眺めているだけでしたが、会場にやけに体の大きい人たちばかりだったこと、そしてフィールド上で繰り広げられる激しいぶつかり合いに呆気にとられてしまったことを覚えています。


あれから7年。今年の9月、私はあのときと同じように東京ドームのスタンドでアメフトの試合を見つめていました。あのときと違うのは、観客ではなく、東京大学運動会アメリカンフットボール部の部員として立っているということ。フィールドで戦っているのは自分が所属するチームの選手たちです。7年後、まさか自分がアメフト部の一員として、お客さんを迎える側で東京ドームに立つことになるなんて、中学生の私は想像もしなかったでしょう。思い返すと、なんとも不思議な縁だなあと感じます。


マーケティングスタッフは、協賛企業さんとの窓口やグッズの作成、メディア対応、試合での集客やイベント企画など、さまざまなアプローチでWARRIORSの価値を高め、多くの人たちから応援してもらうことを目標としています。長期的な目線で見ればチームを環境面から底上げする、そんな仕事だと自負してはいますが、ではいま目の前の勝利のためにできることは何か、と聞かれると明確な答えが出せない自分がいます。他のスタッフのように、勝ち方を選手とともに探ることも、選手の身体のケアをすることも、毎日の練習の助けになることもできません。外部の方々とチームをつないでいく仕事は性に合っていると感じるし、やりがいもあります。けれど、チームの一員として、目標の「日本一」に貢献できているのか、森HCの言う「チームの柱」となれているのか、引退を意識するようになったいまでも考え続ける日々です。


でも、そんなときに決まって思い出す光景があります。2019年、WARRIORS初のTOP8でのシーズン最終戦。撮影のためにあがったスタンドの光景に、目を奪われました。想像以上のお客さんでスタンドが埋まっていたのです。いつもお見かけする保護者やOBOGの方々のほかに、部員の友人であろう学生たちや、制服姿の高校生など、普段あまり目にすることのない方々の姿もありました。試合が始まると、選手の一挙一動に歓声やため息が聞こえてきます。そして、東大の勝利を告げるホイッスルが鳴った瞬間、スタンド全体から湧き上がる歓声と鳴りやまない拍手。フィールド上の選手と同じように、抱き合って喜ぶ観客の姿。フィールドとスタンドが一体となって喜びを分かち合うあの光景が、目に焼き付いています。


WARRIORSの勝利を喜んでくれる人たちがこんなにいる。WARRIORSのプレーが、こんなに多くの人たちの心を動かしている。このチームに入ってよかったと思えた瞬間でした。


昨年には、イヤーブックの取材で、部を創設した1期生の方にお会いする機会もありました。部の創設にまつわる貴重なお話をたくさん伺いましたが、最後にくださった言葉は、「現役の子たちには何よりも勝ってほしい、勝利を見せてほしいね。」時を超えてもなお、現役部員と同じように勝利を願う思いに触れて、日本一を目指す自分の覚悟を問われたような気持ちになりましたし、このような方々の思いを現役部員は知らなければならないと感じました。


一心に勝利を目指すチームの姿が多くの人の心を動かす。支えてくださる方々の勝ちを願う思いが部員に届く。そして、みんなで勝利の喜びを分かち合う。曖昧な言い方にはなりますが、そんな「思い」の大きな流れを作り出せたら、あの横浜スタジアムの景色を超える光景を作り出せたら、チームを目の前の勝利に一歩近づけることができるのではないか。自己満足にすぎないのかもしれませんが、そんな思いがいまの私の原動力です。


マーケティングスタッフとしての活動を通して、「日本一のチーム」とはつまり、「日本一応援されるチーム」なのではないかと思うようになりました。

チームが結果を出せば、応援してくださる方も増える。その応援がさまざまな形でチームに還元されて、さらにチームが強くなる。この循環を繰り返しながら、チームは強くなっていくのだと思います。

結果を出すことそのものに直接貢献できないのなら、応援してくださる方を増やすことで、循環のアクセルになる。そのために、ひたむきに努力する部員たちの姿をたくさんの方々に知ってもらうこと、そして部員たちにも自分たちがいかに多くの人たちの支えで活動できているかを伝え、その方々の期待に恥じないチームをつくっていくこと。その橋渡しをするのが、マーケティングスタッフの仕事なのだと思います。


今シーズン初戦の、東京ドームでの中央大学戦。1000人を超えるお客さんが会場に足を運んでくださいました。試合時間残り19秒で逆転のタッチダウンが決まったとき、響いたスティックバルーンの音に、あの日の横浜スタジアムの光景が蘇りました。4年目にしてあの日を超えたと思える時間を味わえたし、チームの勝利に少しでも貢献できたと思えた瞬間でした。一方で、桜美林大学戦での敗戦後、少し浮かない顔で会場をあとにするお客さんの顔や、悔しさなのか喪失感なのか、真っ白になっている選手たちの顔を見たとき、自分の取り組みの甘さを思い知らされました。

ありがたいことに今年はあともう少し、試合を戦うことができます。必ずもう一度、このチームで、スタンドいっぱいのお客さんと一緒に勝利の喜びを分かち合いたい。あの日の横浜スタジアムも、初戦の東京ドームも超える景色を作り出したい。残された時間はわずかですが、そのためにできることはすべてやっていきたいです。


少しでもWARRIORSのことが気になった方がいらっしゃったら、ぜひ一度、試合に足を運んでみてください。経験の差を泥臭い努力と集中力で埋めようと練習に励み、強豪校相手に必死に立ち向かう選手たち。選手たちに負けない、いや、ときには選手以上の熱量でそれぞれの道で戦うスタッフ。誰よりも真剣でまっすぐな姿がそこにはあります。


最後に、残り1か月を過ごしていく同期のみんな。そしてこの先のWARRIORSを担っていく後輩たち。4年生として最後にできることを考えるとき、そしてこれから先、後輩たちに頑張り続ける理由を見失う瞬間が訪れたとき。私たちと同じくらい、もしくはそれ以上にWARRIORSの勝利を願ってくれる人たちがいる、そしてみんなのプレーがその人たちの心を動かしているという事実が何かの助けになりますように。そんな気持ちを込めて、Last season essayを締めたいと思います。(4年 MKG 岸さとみ)

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