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下水道界をリードする技術開発

※本稿は、令和3年1月、都庁内に配信したブログ内容です。

◇国内最大規模の施設を有する東京下水道
 下水道局では、国内最大規模を誇る約1万6000km以上の下水道管、88か所のポンプ所等(年間揚水量9億m3以上)、20か所の下水を処理する施設(年間処理水量20億m3以上)を管理しています。(下水道管延長は東京からシドニー間を往復する距離に相当し、年間処理水量は23区の面積で水深3mに相当します。)

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 これらの膨大な下水道施設を明治時代から整備し、絶え間なく日々維持管理してきた東京都は、これまで多岐にわたる課題に直面してきた際も、自ら新技術を開発して課題解決を図ってきました。さらに、公共下水道は市町村の事務であるため、下水道局が開発した技術を全国に展開することにより日本の下水道技術をリードしてきました。
 具体的には、都市部での老朽化した下水道管を非開削でリニューアルする更生工法(図1)や震災時に液状化現象による過剰な水圧をマンホール内に逃がして浮上を抑制する工法(図2)など、様々な技術を全国に先駆けて開発してきました。

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 これらの新しい技術を開発してきたのが、当局が全国の地方自治体に先駆けて下水道技術を研究開発する専管組織として昭和45年に設置した技術開発課です。下水道局の技術開発の体制や、今まで開発をしてきた代表的な技術について紹介します!


◇技術開発の推進に向けた体制づくり
 下水道施設を建設、維持管理するためには、土木・建築、機械・電機、環境検査など幅広い職種の職員が必要となります。現場での業務を遂行する中で、それぞれの専門分野の視点から現場の課題を発見し、現場職員の工夫や技術開発によって解決を図ってきました。
下水道局での技術開発の当初は、建設技術と処理技術を対象としてスタートしましたが、水質技術や電機技術、汚泥処理技術が加えられるなど組織の充実が図られてきました。
 現在の技術開発グループは土木職、機械・電気職、環境検査職の混成で組織され、技術開発担当部長(土木)を筆頭とし、課長級(環境検査)1名、課長代理級(土木、機械、環境検査)7名、主任・主事級(土木、機械、電気、環境検査)4名で業務を行っており、それぞれの職種間でも連携して事業を進めています。
 また、当局は国内最大規模の下水道施設を管理運営する中で直面する課題及び将来を見据え、民間企業や大学の下水道以外の様々な分野とも連携を図り、技術開発に取り組んでいます。

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◇現場を活かした技術開発
 ここで、下水道局の技術開発の経緯についても簡単に紹介したいと思います。技術開発は局職員が主体的に研究に取り組んできた歴史があります。また、当局は自ら水再生センターの維持管理を行ってきたことで水処理における課題も認識しており、新たな技術の研究開発を古くから行ってきました。  大正15年には、三河島汚水処分場(以後、水再生センター)にて活性汚泥法の導入に向けたパドル式エアレーション法の実験に取り組んだ記録が残っています。この研究成果をもとに三河島水再生センターでは、昭和初期にパドル式活性汚泥法を採用しました。その後は、芝浦水再生センターや砂町水再生センターに実験専用のヤードを開設して局職員による研究を実施した時期を経て、平成20年以降は、砂町水再生センターに開設した下水道技術研究開発センターが研究の拠点となっています。令和元年5月には下水道技術研究開発センターをリニューアルオープンしています。下水道局では今後も当センターを活用して、下水道界が抱える課題を解決するとともに、下水道界全体のサービス向上に貢献していきます。

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◇代表的な開発技術について                                                                               これまでに開発を行い日本国内や海外にも展開している技術の代表的なものを3つ紹介します。
 1つめは、地面を掘らずに、古くなった下水道管をよみがえらせる方法である『SPR※工法』です。下図のように、既設の下⽔道管内⾯に塩化ビニル製プロファイルをらせん状に巻き⽴てることにより下⽔道管を更⽣する⼯法です。


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 明治17年の「神田下水」に始まった東京の下水道は、今日では、経年変化により老朽化が進行し、下水道管に起因する道路陥没も発生しています。そこで、下水道局では将来にわたって安定的に下水を流す機能を確保するため、下水道管の再構築を進めています。この工法は、道路を掘らずに下⽔を流しながらの施⼯が可能で、円形管、⾺蹄形渠、矩形渠等様々な断⾯形状に対応できるため、都心部で、水道、電気、ガス、地下鉄など多くのインフラが埋設しており、地面を掘る工事が困難な場所にある下水道管を再構築するのに大変有効な工法の一つとなっています。
 本技術は、グッドデザイン賞受賞(2013年)、⼤河内記念賞受賞(2013年)、第1回ものづくり⽇本⼤賞経済産業⼤⾂賞受賞(2005年)などの名誉ある賞を受賞しています。

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 『SPR工法』は、海外へも展開されており、2020年3⽉末現在、アジア、北⽶、ヨーロッパなどで累計約159㎞施⼯しています。



 2つ目の技術は、『水面制御装置』です。⾬天時に合流式下⽔道※から河川などに流出するごみを抑制する装置です。

※合流式下水道とは汚水と雨水を同じ一本の下水道管で流すものです。衛生環境の改善と雨水排除の両方を同時に達成できる一方、一定量以上の雨が降った時には、市街地を浸水被害から守るために、汚水混じりの雨水が川や海に放流されます。区部の約8割の区域がこの方式です。

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 ⾬⽔吐室の汚⽔が流出する管の⼊⼝に、⽔⾯制御板を設置するとともに、越流堰の前⾯にガイドウォールを設置することで、渦巻き流を誘発させ、この渦がごみ等を下流側に流出する管へ導きます。この装置では、下⽔中のゴミを7割以上除去することが可能です。また、取付けが容易で、可動箇所がないことから維持管理も容易です。さらに、動⼒を必要としないため安価であり、省エネ対策にも寄与します。
 ⼟⽊学会賞「環境賞」(2020年)や第4回国⼟交通⼤⾂賞<循環のみち下⽔道賞(特別部⾨)>(2011年)を受賞し、下⽔道技術海外実証事業(WOW TO JAPANプロジェクト)(2018年)にも採択されています。『水面制御装置』も海外へも展開されており、2020年3⽉末現在、ドイツをはじめとしたヨーロッパなどに34か所設置されています。

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 3つ目は、嫌気・同時硝化脱窒処理法です。下水中の窒素とりんを効率的に除去する技術です。
 水再生センターでは、微生物の塊である活性汚泥に送風機を使って空気(酸素)を送ったり、逆に空気を吹き込まずにかき混ぜたりして、微生物の力で有機物を分解したり、東京湾の赤潮の原因である窒素やりんといった栄養塩類の除去を行っています。

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 送風機から送られた空気は散気設備から槽内に供給され、その力で槽の中に旋回流を作ります。赤い←の方向から槽の赤点線の断面を見たのが右の図です。水色の酸素が濃い部分(好気領域)ではアンモニアが酸化されて硝酸になり(硝化)、黄色の酸素が少ない部分(無酸素領域)では硝酸から窒素がガスとして大気中に放出されます(脱窒)。
 実はこれまでは、好気領域と無酸素領域がそれぞれ独立した槽になっていました。この技術は、1つの槽の中で2つの領域をうまく作るための空気吹きみのコントロールが難しいという弱点がある一方で、2種類の槽の働きを好気槽1つにまとめたことでシンプルな構造になり、その分設備類も減り、電力も少なくて済む処理法です。得られる水質もこれまでのものに近く遜色ありません。
 これまで水処理の維持管理を行ってきた中で、微生物には槽内の酸素濃度によって窒素やりんの除去に能力を発揮する種類がいることが分かってきた知見を技術開発に結び付けました。
 この処理法は、平成26年に日本経済新聞社が主催する「2014年日経地球環境技術賞」で優秀賞を、令和元年に一般社団法人日本産業機械工業会が主催する 「第46回優秀環境装置表彰」で経済産業大臣賞しています。

◇これからの技術開発
 人口減少社会において、建設業の担い手も減少傾向にあり、さらには働き方改革が推進されるなど、職場を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。当局はそうした状況だからこそお客様の快適な生活を支えるため、より技術開発を推進していかなければならないと認識しております。具体的には、施設の老朽化が進む中で、これまで点検が困難だった高水位、高流速等の下水道管の調査を安全かつ効率的に実施するためのドローンや船型ロボットを活用した技術開発に取組んでいます。
 技術開発にあたっては、こうした社会の変化に合わせると共に現場の課題解決にむけ、進歩の著しいICTを積極的に活用していくこととしています。
 今後も日本の下水道界をリードして行く下水道局の技術開発にご期待ください。

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