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東大島幹線及び南大島幹線工事    ― 地下駅及び共同溝直下の残置杭をDO-Jet工法で切断撤去!―

はじめに

 都市化の進展により雨水が地中にしみ込みにくくなるなど、下水道に流れ込む雨水量が増加しており、浸水被害が発生しています。このような状況を踏まえ、安全・安心な暮らしを実現するため、東京都下水道局では浸水対策を推進しています。
 図-1に示す江東区大島及び江戸川区小松川周辺においては、小松川第二ポンプ所や延長1.4kmの南大島幹線、延長3.9kmの東大島幹線等の施工により浸水対策を進めています。
 今回は、東大島幹線及び南大島幹線をシールド工法により施工し、シールドマシンから地盤改良及び地中支障物を除去した事例について紹介します。

図-1 江東区大島及び江戸川区小松川周辺の浸水対策事業の概要

工事概要

 今回紹介する工事は、江東区大島及び江戸川区小松川周辺の浸水対策事業のうち、図-2に示す東大島幹線0.7km及び南大島幹線全線1.4kmの合計2.1kmの区間を泥土圧式シールド工法で整備するものです。土被り25m~40mの大深度を、都営新宿線及び共同溝の直下を横断等しながら掘進し、管きょを敷設しました。
 本工事では、都営新宿線及び共同溝の横断部において、地中に残置された複数の杭が支障となることが想定されました。しかし、その支障物の直上には構造物が存在し、地上からの地盤改良及び支障物撤去が困難であったことから、シールドマシンから地盤改良及び地中障害物の撤去が可能なDO-Jet工法を採用しました。
 以下に工事概要を示します。
 工事場所:東京都江東区大島五、八、九丁目、江戸川区小松川一丁目
 工  期:平成22年10月~令和4年9月
 施工内容:管きょ工 特殊泥土圧式シールド工法 施工延長2069.95m
      東大島幹線 仕上内径6,000mm 延長 705.25m
      南大島幹線 仕上内径4,500mm 延長 1364.75m

図-2 東大島幹線及び南大島幹線の工事概要


DO-Jet工法とは

 DO-Jet工法とは、超高圧ジェットシステムをシールドマシン等に搭載し、非開削・非接触によりマシンから地中支障物の探査や超高圧地盤改良、切削除去を行う工法です。
 支障物の撤去切断工は、シールドマシンに搭載された超高圧噴射ノズルを活用し、「前方探査」、「超高圧地盤改良」、「支障物切断」の順で施工し、排泥口より排出可能な大きさに切断するものです。その後、切断された支障物は、掘進に伴い掘削土砂と共にチャンバー内に取り込まれ排出されます。
 はじめに行う「前方探査」は、支障物の直前でカッターヘッドを回転させながら超高圧ジェット水を噴射させ、反射音を解析することで支障物の位置を特定します。探査結果に基づいて、切断計画を策定し、「超高圧地盤改良」の範囲や、切断線の位置を決定します。
 次に切断作業中及び撤去後の周辺地盤の安定、既設構造物の防護を目的として、「超高圧地盤改良」を行います。超高圧噴射ノズルより地盤改良材(セメントミルクと珪酸ナトリウム溶液の混合材)を超高圧ジェットにより噴射することで、改良体を造成します。
 その後、切断ノズルより切断材(ガーネット入りの研磨材と珪酸ナトリウム溶液の混合材)を超高圧ジェットにより噴射させながら、移動式切断ノズルを移動させたり、カッターヘッドを低速で回転させたりすることで、「支障物切断」を行います。
 図-3に、DO-Jet工法による支障物の切断・撤去作業フローを示します。

図-3 DO-Jet工法による支障物の切断・撤去作業フロー

DO-Jet工法を用いた支障物の撤去

  本工事では、都営新宿線及び共同溝直下で掘進の支障となった仮設残置杭(PIP杭等)の地中支障物をDO-Jet工法により切断・撤去しました(図-4参照)。
 これまでDO-Jet工法で切断・撤去の実績があるのはH鋼や鋼矢板といった鋼材単体の支障物のみであり、鋼材の周りをモルタルで覆われたPIP杭の切断・撤去工は本工事が初めてでした。

図-4 都営新宿線及び共同溝直下でのDO-Jet工法による支障物撤去・切断縦断図

 図-4に記載のとおり、当該支障物想定エリアの施工において、最初に「壁状支障物」に遭遇しました。
 この「壁状支障物」に対して、DO-Jet工法の前方探査システムによるシールド前方探査結果を図-5に示します。
 前方探査結果から、図中に示す範囲に支障物が存在することが確認されましたが、壁状に連続した支障物の仕様(材質、支障杭本数)については明確な判断ができませんでした。
 

図-5 壁状連続支障物の前方探査

 そこで、既往工事の設計図面に基づいてφ600mmのPIP杭が壁状に配置されているものと想定し、図-6のとおり切断片が420mm程度になるよう網の目状に裁断する計画を立案して施工を行いました。
 現場にて、図-6に示すとおり支障物切断を実施した後にシールド掘進を開始しましたが、カッタートルク値が上限管理値を超えたため、このままの状態での掘進継続は困難であると判断し、対応策について検討・協議を行いました。 

図-6 壁状連続支障物の1回目切断図

 検討の結果、支障物の対象がこれまでに切断・撤去実績がないPIP杭であったため、モルタルに拘束されたH型鋼の切断抵抗が大きくなってカッタートルクが上昇したものと判断し、図-7に示すように切断片を放射方向210mmピッチに細断するよう計画の見直しを行いました。
 また、支障しているφ600mmPIP杭の芯材はH-400であり、事前調査結果より1回の切断では切断が困難であることが判明していたため、切断後シールドを300mm掘進した後で2回目の切断を行う計画としました。

図-7 壁状連続支障物の2回目切断図

 その結果、DO-Jet工法による2段階切断・掘進により壁状支障物の切断・撤去を無事に完了することができました。
 壁状支障物切断・撤去時に回収された支障物切削片の一部を写真-1に示します。

写真-1 壁状連続支障物の切断・回収片

 上述で、「壁状支障物」に対する切断・撤去の実績を示しました。本工事では、このほかΦ450mmPIP杭を15本、Φ600mmPIP杭を7本、DO-Jet工法を適用して切断・撤去しながら掘進し、地下鉄駅及び共同溝直下を通過しました。
 本稿では紹介しきれませんでしたが、支障物の切断・撤去のほか、急曲線の施工や内径の異なる東大島幹線と南大島幹線を一台のシールドマシンで施工するための親子分離など、様々な制約条件を乗り越え、令和4年1月にシールド機を到達させることができました。

写真-2 シールド到達状況

これまでの実績

 本工事において、地上部の制約条件から「DO-Jet工法」を採用し、シールド機内から地盤改良や支障物の切削撤去を行った実績などについて、シールド技術の発展に大きく寄与したとして高く評価され、令和4年度における「土木学会賞・技術賞」を受賞いたしました。
 

写真-1 土木学会賞盾
写真-2 土木学会賞賞状

おわりに

 本事業は、現在も東大島幹線の布設等施工を継続しています。
 これからも、厳しい制約条件下の工事であっても創意工夫を凝らし、都民の皆様の安全を守り、安心で快適な生活を支えてまいります。