見出し画像

環境局は高度な技術で都民生活を陰ながら支えています!!<排水処理場の耐震補強工事>

 長く謎めいたタイトルですが、分かり易さを厳密さに優先して説明していきますので、ぜひ最後までお付き合い下さい。

1 処分場と排水処理場の役割

 さて、みなさまは東京23区にお住まいの方が出したごみが最終的にどこに行き着くかご存じでしょうか。・・・朝、収集場所に出すとごみ収集車に積み込まれ清掃工場に運ばれる・・・くらいまでは目にされているかもしれません。清掃工場等に運ばれたごみはその後どうなるのでしょうか?
 実は、清掃工場で焼却した灰や、不燃ごみ処理センターで破砕されたごみは、まずはリサイクルに回され、それでも余ったものについては、お台場の南に位置する埋立地、『東京都廃棄物埋立処分場』(以下「処分場」という)に埋立されています。
(東京2020大会におけるカヌー等の競技会場といった方がなじみがあるかもしれません)

写真1 東京都廃棄物埋立処分場

 ごみは埋立により「これにて一件落着!!」とはなりません。埋立後も継続的な対応が必要です。
 処分場はざっくり言うと重箱のような形状で、ごみを埋立後、飛散しないように土を盛って覆っています。従って雨が降ると雨水はどんどん地中に浸透します。この浸透雨水(専門用語で浸出水)はごみ層を通過するので汚水となります。浸出水が処分場の容量を超えると海にあふれてしまいますが、前述のとおり汚水であるため、そのまま海に放流することはできません。即ち浸出水は集めて浄化する必要があります。この役割を担うのが『排水処理場』です。浸出水は集水管や集水池で集めて排水処理場に送り、生物処理や化学処理で一定程度浄化した後に下水道へ放流しています。

図1 処分場断面図
図2 浸出水フロー

 ここで、皆様にご理解頂きたいことが2つございます。
 一つ目は、処分場は有限であるということです。現在の処分場が東京港内最後の処分場で寿命は50年以上と言われていますが、限りある空間に変わりありません。貴重な処分場をできる限り長期間有効利用していくため、みなさまにもごみの減量化にご理解、ご協力を頂きたいと存じます。
 二つ目は、廃棄物処理法に基づき、処分場は埋立完了後も浸出水の浄化を継続していく必要があるということです。浸出水は降雨の度に発生するため、その水質が浄化不要なレベルに達するまで処理は続きます。
 ここまでの説明で、処分場や排水処理場の役割と重要性についてお分かり頂けたでしょうか。次からは、いよいよ耐震補強工事についての説明をしていきたいと思います。

2 耐震補強工事の計画

2.1 排水処理場の概要

 当処分場の排水処理場は以下の2つから構成されています。
【第一排水処理場】
 完  成:昭和54年9月(1979年)
 処理水量:4,500㎥/日
 処理方法:生物処理・凝集沈殿法

図3 第一排水処理場フロー

【第三排水処理場】
 完  成:平成  9年5月(1997年)(一期工事)
      平成12年5月(2000年)(二期工事)
 処理水量:11,500㎥/日
 処理方法:生物学的脱窒素処理・凝集沈殿法

図4 第三排水処理場フロー

2.2 耐震診断①(線形解析)

 排水処理場について、線形解析(※1)による耐震診断をしたところ、いずれの排水処理場もレベル1・2地震動(※2)に対して耐震性能が不足していることが判明しました。この結果に基づき排水処理場の全施設について耐震補強を実施した場合、工事費は数十億円と試算されました。
※1 地震発生時、構造物に加わる力とこれにより生ずる歪みは比例
   (=線形)すると仮定した計算手法
※2 【レベル1地震動】
    施設を使用している間に1~2度発生する確率の高い地震動
    (≒震度5)
   【レベル2地震動】
    施設を使用している間に発生する確率は低いが、想定される最大の 
    地震動(≒震度7)

2.3 耐震補強施設の限定

 試算された工事費用が莫大となったため、コスト縮減の観点から、被災時においても最低限の処理機能を維持するために必要な施設に補強箇所を限定することにしました。これにより工事費を半分以下に圧縮することができました。

図5 耐震補強施設

2.3 耐震診断②(非線形解析)

 更なる工事費削減のため、線形解析でレベル2地震動に対しNG判定(=耐震補強が必要)となっていた箇所について非線形解析(※)を行いました。これにより工事費を更に数億円圧縮することができました。
※ 構造物に加わる力と歪みの関係は実際には比例関係より小さくなる
  (=非線形)。これを厳密に適用することで、線形解析でNG判定とな
  っていた箇所のいくつかはOK判定(=耐震補強不要)となる。

2.4 計画期間

 工事期間中も浸出水は発生し続けるため、排水処理場の運転は継続する必要があります。そこで工事を大きく3分割し、令和3年度から約10年を掛けて耐震補強を実施することにしました。

3 設計・積算

 排水処理場は下水処理場に構造が似ていることから、下水処理場の基準や単価を用いて設計・積算を行いました。満を持して工事を発注しましたが、残念ながら応札者が無く、契約不調となってしまいました。不調原因をつきとめるべく入札参加者にヒアリングを行ったところ、「発注規模が小さいので採算が合わない」ということが判明しました。確かに都内の下水処理場に比べると、排水処理場の施設能力は桁一つ程度小さくなっています。このままでは再度発注しても契約が見込めないので、採算が合わない要因となっている価格差の大きなものについては、価格の見直しを実施しました。
 このような工夫により、再発注の結果、晴れて契約が成立しました。

4 施工

 一期工事については、「工事あるある」ではありますが、汚染土壌、資材(鋼矢板等)入手困難、槽形状が設計想定と異なる等の様々なトラブルに見舞われました。安全、コスト、工期、品質等のバランスを取りながら、これをどう収めていくかが監督員の腕の見せ所です。受発注者間はもとより排水処理場の運転担当者、更には経理担当者とも調整しつつ知恵を絞り、非開削(内面被覆)工法の採用や二槽同時施工等の工夫を行うことで、大幅な工期延伸となることなく無事工事を完了することができました。
 一期工事で得た知見を次期工事にフィードバックさせ、今後はより一層円滑に耐震補強工事を進めていきます。

写真2 非開削(内面被覆)工法_施工前(左)後(右)
写真3 汚泥濃縮槽_配筋状況
写真4 汚泥濃縮槽_耐震補強完了(白色部)

5 最後に

 東京都廃棄物埋立処分場は普段都民のみなさまの目に触れることのない施設ですが、都民生活に不可欠かつ高度な技術を要する社会インフラです。このため、処分場を管理する廃棄物埋立管理事務所には事務、土木、建築、機械、電気、環境検査等の多様な職種の都職員に加え多くの委託事業者も従事しております。一同、都民生活を陰ながら支えるという高い使命感を持ち、一丸となって、処分場の安定的な運用に日々努めています。
 ここまでこのブログにお付き合い頂いた皆様には、日常生活においてごみを捨てる際に、このようなインフラもあることに少しだけ思いを馳せて頂けると幸いです。更に、これを機に我々と一緒に処分場を運営したいという熱い志を持つに至った方がいらしたなならば、幸甚の極みです。

          (環境局 資源循環推進部 廃棄物埋立管理事務所)