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ローカル5Gを活用した新しい農業技術の開発

東京型スマート農業プロジェクトの推進と連携協定
 日本の農業従事者の数は減少し、65歳以上の高齢者の割合は増加を続けており、労働力不足と高齢化が全国的な問題となっています。それらの解決のために、スマート農業の推進政策がとられ、無人トラクターやドローン、ロボットを活用する研究や実証が全国的に進められています。
 一方、東京都の農業は、労働力不足と高齢化は同様に課題となっているものの、小規模の土地で多品目を栽培する特徴を持っており、大規模で単一品目向けの全国的なスマート農業機器を導入することが難しい状況となっています。そこで、東京都の政策連携団体である(公財)東京都農林水産振興財団(以下、農林水産振興財団)では、東京に向いたスマート農業を推進するため、東京型スマート農業プロジェクトを展開しています。
 その様な中、令和2年4月には、農林水産振興財団と、東日本電信電話株式会社及び株式会社NTTアグリテクノロジーの三者は、ローカル5Gを活用した最先端農業の実装に向けた連携協定を締結しました。当プロジェクトでは、次世代通信であるローカル5Gや超高解像度カメラ、スマートグラス等の先進テクノロジーを活用し、遠隔からの高品質かつ効率的な農業技術指導や、データを基にした最適な農作業支援の実現等、新しい農業技術の実装を目指しています。


東京フューチャーアグリシステムの整備
 研究の推進にあたり、農林水産振興財団の研究部門である東京都農林総合研究センター(以下、農総研)が開発した「東京フューチャーアグリシステム🄬」を、調布市にあるNTT中央研修センタの敷地内に建設しました。東京フューチャーアグリシステムは、温室(東京ブライトハウス🄬)と養液栽培システム(東京エコポニック🄬)と環境制御機器等の付帯設備で構成されている太陽光利用型の植物工場です。東京ブライトハウスは、太い骨材を利用することで総骨材数を減らし、多くの日照をハウス内に取り込めるようにしていること、ハウスのフィルムを2重にして空気の断熱層を作り、暖房コストを削減できること、などの特徴があります。東京エコポニックは、余剰の養液を下部に貯留し、吸水シートで培地へ再供給させることで、肥料と水が必要最低限で済み、廃液も出ず、環境負荷が小さいシステムです。付帯設備も農総研が開発した簡易な暑熱対策技術や企業と共同で開発した機器等を多く採用しています。
 本プロジェクトでは、東京フューチャーアグリシステムで大玉トマトを栽培しながら、遠隔からの農業技術指導や農作業支援の実証試験を行います。

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 通信設備と最新機器整備
 ハウス内にローカル5Gのアンテナを設置しました。ハウス内の機器から送られたローカル5G帯域の電波(今回は28GHz帯)に乗ったデータはアンテナに受けとられ、アンテナに接続された光ファイバーを介して専用回線(VPN)で農総研のL5Gコミュニケーションラボに送信しています。今回のローカル5Gは、大手携帯電話キャリアの提供するパブリック5Gがユーザーのダウンロードの帯域を優先しているのに対し、動画のアップロードをスムーズに行うことができる機能の将来的な導入を加味したシステムを選定しています。
 ローカル5Gの導入により、4Kカメラや走行型カメラ等の最新機器からの高精細な動画を農総研へストレスなく送ることができます。4Kカメラは、水平方向に360度回転可能で、5台設置(ハウス天井に4台、ハウス外に1台)されており、ハウス内のほとんどの箇所の高精細動画を送信することが可能です。さらに、4K画質で光学12倍ズーム可能なため、カメラから離れていてもハウス内のトマト細部を高精細に見ることができます。走行型カメラは、ハウスから約20㎞離れた農総研から遠隔制御できるため、設置してある4Kカメラの死角となる位置まで走行させ撮影することができます。こちらも4Kカメラが搭載されており、画質は高精細です。さらに、スマートグラスは、現地の作業員が身に着けて、作業員が見ているものを農総研に送ることで、的確な遠隔での指導が可能となっています。

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遠隔での農作業支援の実証
 遠隔での指導・支援は、上記の機器を使用しながら行っています。調布市の東京フューチャーアグリシステムと農総研のL5Gコミュニケーションラボの専用回線が開通して、最初に驚いたのが4Kカメラから送られてくる動画の美しさでした。果実や花、葉、茎、生長点といった普段の観察が必要な部位がよく見えたため、これならば遠隔指導に活用できると手ごたえを感じました。研究員が毎日5~10分程度動画を確認することで、ハウス内の多くのことが遠隔からでも把握することが可能でした。実際に、現場の作業員よりも先に、農総研の研究員が葉に現れた微量要素障害に気付き、スマートグラス等を使った遠隔での指導により対処することができました。
 さらに、研究員が4Kカメラを観察していて問題に気づいた時や詳しく詳細を知りたいところがあった時にスマートグラスを付けた現場の作業員とやり取りをすることで、素早く問題を解決できました。国内では、4Kカメラやスマートグラスを個別にスマート農業の実証に使用している例はあるものの、両方を組み合わせている事例は無く、今回のプロジェクトで4Kカメラとスマートグラスを組み合わせの有効性が高いことがわかりました。実際に、現場の作業員は農家ではなく、ハウス内でトマトを栽培するのは初めてでしたが、農総研の研究員が月に1回以下の頻度でしかハウスでの指導を行っていないにも関わらず、トマトの出荷ができるようになり、果実は高品質の評価をもらっています。

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今後の計画について
 遠隔での指導・支援をより高度化していく予定です。現在はトマトの生育状況を手作業で測定していますが、撮影したものをAIによって自動的に分析する技術や、ハウス内のドローン利用などに取り組んでいきます。最新のテクノロジーの活用により、農作業支援する側が移動や分析に多くの時間を取られることがなくなり、支援に使う時間を増やせるようにしていきたいと思っています。