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2030年カーボンハーフの実現に向けた   省エネ・再エネ住宅普及促進の取組

0 なぜ、住宅の省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用が必要なのか

          <省エネ・再エネ住宅のイメージ>

※ 省エネ基準:建築物省エネ法で定められる断熱性能、設備の省エネ性能等の基準

1 はじめに
 東京都は、2030年までにCO2排出量の50%を削減(2000年比)するカーボンハーフを目指していますが、この達成のためにはCO2排出量全体の約3割を占め、2020年時点で2000年から唯一増加している家庭部門の取組が喫緊の課題となっています。
 そのため、住宅政策本部は「脱炭素社会の実現に向けた住宅市街地のゼロエミッション化」を目標に掲げ、省エネ・再エネ住宅の普及促進に向けた施策を推進しています。
 今回は、今年度新たに開始した2つの取組についてご紹介いたします。

2 東京都 省エネ・再エネ住宅推進プラットフォーム
2-1プラットフォームの設立
(1)背景
 省エネ・再エネ住宅を普及促進させるためには、新築だけでなく、キッチン周りのリフォームや耐震化などあらゆる機会を捉えた既存住宅のリフォーム、そして省エネ・再エネ住宅が評価され、選ばれる住宅市場の形成が必要となります。
 そのため、それらを包括的に推進するための仕組みとして、令和4年6月に住宅関係団体と連携して「東京都 省エネ・再エネ住宅推進プラットフォーム」を設立しました。
          <住宅ストックのフロー>

(2)住宅関係団体への参加呼びかけ
 新築からストックまで包括的に取組を推進するためには、住宅に関係する様々な団体との連携が欠かせません。
 そのため、住宅事業者団体、リフォーム事業者団体、省エネ・再エネ設備団体、地域工務店団体、不動産・建築士団体と住宅に関係する様々な団体に参加を呼びかけ、設立当初40団体に参加いただきました(令和5年2月末時点の会員団体は46団体)。
           <会員団体(一部抜粋)>

(3)キックオフ会議
 プラットフォームの設立に当たっては、知事や関係局、参加団体が出席のもとキックオフ会議を開催しました。
 これまで関係局が縦割りで実施していた東京都の施策に横串を刺し、住宅関係団体と連携して、省エネ・再エネ住宅の普及促進に取り組む決意を共有しました。
           <キックオフ会議の様子>

2-2プラットフォームの運営
(1)連絡協議会・分科会
 プラットフォームでは、会員団体と情報共有・連絡協議するために連絡協議会・分科会を開催しています(各年4回程度)。
 会議の開催に先立って、まず各団体事務所に直接出向き、ざっくばらんに活動状況や課題、ニーズ等を意見交換し、会議の内容に反映しました。
 連絡協議会は、全団体が知っておくべき建築物省エネ法や東京都環境確保条例の改正、省エネ・再エネ住宅関連補助金などをテーマに開催しました。
 団体には、それぞれの分野(窓・断熱材・太陽光パネルなど)を専門にする事業者が集まっていますが、専門以外の分野については、意外と知識が不足していることもあります(太陽光パネルを屋根に設置する際の建築構造の検討など)。また、各分野の技術や製品は日進月歩で進歩しています。
 そのため、分科会では「再生可能エネルギー」及び「建材・設備(サッシ・断熱材)」などをテーマにそれぞれを専門とする団体から知っておくべき知識や最新の技術などを発表いただき、団体間で共有しました。

(2)情報発信(ホームページ)
 東京都は部署毎に事業を実施していますが、消費者から見れば「すまい」はひとつ。このため、プラットフォームでは、関係局と庁内横断的に連携して、補助金情報などを一元的に発信しています。
 また、ホームページは、外部専門家の意見を反映しながら、伝える相手(住宅関係団体・事業者)を意識してコンテンツを作成しています。
 例えば、「省エネ・再エネリフォーム事例」は、団体・事業者目線で、建材や設備の種類、施工方法、施工工程、工事の経過が分かるタイムラプス動画を掲載しています。

       <トップページ>        <省エネ・再エネリフォーム事例>

(3)住宅関係団体の取組支援
 団体による省エネ・再エネ住宅普及促進に向けた取組(①都民への普及啓発②消費者向け相談窓口等の設置③事業者の技術力向上)を支援するため、新たに補助事業を立ち上げました。
 立上げ後は、各団体事務所に出向き、活用事例(マンションの省エネ改修を提案するYouTube動画作成、赤外線カメラを利用した最新の断熱診断方法を紹介するセミナー開催など)や具体的なケースにおける補助の可否を説明するなど、より多くの団体に活用いただくよう取り組んでいます。

3 不動産事業者の省エネ・再エネ意識向上の取組

3-1 背景
 建築物省エネ法の改正によって、令和6年を目途に省エネ性能表示が努力義務化されることになりました。
 都内では、年間約13万戸の新設住宅が建てられていますが、そのうち、約半数の6.6万戸が賃貸住宅です。今後、都民と住まいをつなぐ不動産事業者の省エネ・再エネに対する意識の向上が益々重要となります。そこで、都は、国に先駆けて、不動産事業者向けの新たな取組の検討を開始しました。

3-2 取組内容
 令和4年度は、都内全ての不動産事業者(中小含む約3万社)に対して、省エネ・再エネ住宅について理解を深めるための動画研修を実施することにしました。 

【取組内容】
①都と不動産関係団体が連携して、WEB研修を実施
 研修受講証明として、研修受講済みステッカーを発行

②事業者は、リーフレットを使いながら、顧客へ省エネ・再エネ住宅を説明

             <研修内容概要>

3-3 研修に向けて
(1)研修動画の作成準備
①研修講師との調整
 研修講師として、学識経験者と住宅情報関係者の方々に、研修の意義を説明して、出演してもらいました。事前に打合せを行い、研修の内容や組み込むべき視点について、様々なアドバイスや意見をいただきました。ネットや文献を調べるだけでは得ることのできない現場の声や、日本の住宅の省エネ事情など、非常に興味深く貴重な情報を得ることができました。

②物件探し及びスケジュール調整
 実際の物件を使った実演形式で行う「物件チェック編」では、不動産事業者で取扱うことの多い、戸建住宅・マンション・賃貸住宅の3物件を探しました。条件の合う物件を探し出し、交渉を重ねた結果、工務店、買取再販業者、賃貸住宅事業者に御協力いただきました。
 撮影本番前には、物件の下見や、企業へのヒアリングも実施しました。また、省エネ設備やポイントを効果的に視聴者へ伝えられるよう研修動画の構成をイメージし、撮影当日使用するフリップなどもオリジナルで作成しました。
           <手書きのフリップ>

(2)撮影・編集
 対談編の収録では、都が作成した概略やシナリオ、パワーポイント資料のもと、研修講師がその場で簡単な打合せを行い、収録開始となりました。原稿なしのフリートーク状態で、テレビ番組のような対談がすぐに成立してしまうプロの対応力と豊富な知識に圧倒されました。

              <対談編>

 物件チェック編の収録では、都職員自身が省エネ・再エネ住宅を学ぶ都民として出演するシーンがありました。担当した職員は、研修講師から演技やセリフ指導もしていただき、何とか役をこなすことができました。「こうしたセリフを入れた方がいいのではないか」など、現場にいることで生まれる様々なアイデアを盛り込み、予定にはなかったセリフの収録も行いました。

            <物件チェック編>

 収録後は、撮影した動画を一つのまとまった研修動画とするため、修正を何度も重ねつつ編集作業を行いました。こうして約5か月間をかけて、研修動画を完成させました。

(3)リーフレット、ステッカーの作成
 研修動画作成と同時並行で、リーフレット及びステッカーを作成しました。利用する事業者や消費者に、よりわかりやすくなるよう複数の案を作成して、研修講師や広告会社のクリエイティブディレクターの厳しくも的確なアドバイスを受けながら、何度も改良を重ねました。

 <省エネ・再エネ住宅説明用リーフレット>   <受講済ステッカー>

3-4 研修動画の発信
 不動産関係団体と調整しながら案内・周知方法の検討を行い、団体の法定研修へ組み込むための段取りや案内・周知方法の検討を行い、令和5年2~3月に法定研修として不動産事業者が視聴できる体制を整えました。

3-5 今後に向けて
 省エネ・再エネ住宅普及促進に向け、来年度以降、更にステップアップした研修の内容としていく予定です。この研修が、不動産事業者だけでなく、その先にいる都民の省エネ意識向上へと繋がり、環境にも人にも優しい省エネ・再エネ住宅が当たり前となる社会になることを願います。
 
4 おわりに
 いずれも新規事業のため、手段が確立しておらず、スムーズにいかないことが多かったですが、関係部署で助け合いながら、「誰に向けて」「何のために」仕事をしているのかを意識して、取組を開始することができました。
 今回ご紹介した事業以外にも、住宅政策本部では、マンションや戸建住宅の省エネ診断・設計・改修に対する補助事業など省エネ・再エネ住宅の普及促進に向けた幅広い取組を実施しています。
 省エネ・再エネ住宅の普及促進には、都民、事業者、団体、行政と住宅に関係するあらゆるプレイヤーの理解と行動変容が必要となります。
 今後も、多様な主体と連携し取組を進めることで、省エネ・再エネ住宅の普及促進、その先のカーボンハーフを実現していきます。
                    (住宅政策本部 民間住宅部)