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多摩地区の安定給水に向けた送水管ネットワーク~多摩南北幹線の整備~

1 はじめに ~多摩南北幹線とは~
 こんにちは、私は入都4年目で、水道局に所属する土木職です。
 私は、これから紹介する多摩南北幹線のように、口径の大きい水道管を新設する、大規模工事の現場監督をしています。

  多摩南北幹線とは、令和4年度末に完成した、東村山浄水場から拝島給水所までを結ぶ口径2,000㎜、延長約15.7㎞の送水幹線です(図-1)。
 全線にわたりシールド工法(図-2)を採用し、また、東村山浄水場で作られた水道水を、給水所へ送るための「美住増圧ポンプ所」等の築造も合わせて行いました。
 口径2,000㎜の多摩南北幹線の中を流れる水の量は、約16.8万㎥/日※1であり、これはなんと25mプールが約5分でいっぱいになる水の量です。
※1 計画一日最大送水量(通常運用時)

図-1 多摩南北幹線の全体図

 多摩南北幹線は、多摩地区の水道において極めて重要な施設であり、一日も早い完成を期待されていました。私は、この工事が始まった平成24年にはまだ学生でしたが、縁あってこの完成に立ち会うことができ、本事業に携わった数え切れないほどの関係者の苦労を想像すると、感慨深い思いが込み上げてきました。

今回は、この多摩南北幹線について、ご紹介していきます。

◎ シールド工法とは
シールド工法とは、シールドトンネルの起点及び終点に、立坑と呼ばれるシールド機を発進・到達させるための巨大な縦穴を掘り、発進立坑から到達立坑に向かってシールド機でトンネルを掘る工法です。トンネル内では、シールド機が通過した後ろに壁(セグメント)が組み立てられていきます(図-2)。
水道工事では、掘進が完了したシールドトンネル(写真-1)の内部に、水圧に耐える構造を持った水道管を配管し(写真-2)、その中に水を流します。

図-2 シールド工事の縦断面図
上記QRコードは、東京都公報映像「シールド工事の進め方」のYouTubeへのリンクです。 シールド工法や立坑についてもっと詳しく知りたい方は、参照してみてください。
写真-1 シールドトンネル内の様子
写真-2 シールドトンネル内に口径2,000㎜の水道管を配管する様子

2 多摩地区の水道 ~多摩南北幹線の整備効果~
 まず、多摩地区の水道の現状についてです。
 多摩地区では、かつては市や町ごとに水道事業を運営していたため、市や町を超えて融通する水道施設はあまり必要とされていませんでした。都営水道に一元化された現在は、効率的な運営のために広域的な水道のネットワーク化を進めています。
 多摩南北幹線が完成する前の送水管ネットワークでは、災害・事故時の送水能力が十分とは言えず、さらには老朽化した送水管を取り替えるためのバックアップルートも不足している状況でした。多摩南北幹線の整備目的は、これらの課題を解消することでした。

 令和4年(2022年)度末の多摩南北幹線の運用開始をもって、平成26年(2014年)度から運用している多摩丘陵幹線(拝島給水所から聖ヶ丘給水所まで)を含めると、約50㎞にわたる広域的な送水管ネットワークが構築され、多摩西南部地区(図-1中に記載)の約170万人の給水安定性が向上しました。
 多摩地区で都営水道を使用している26市町の給水人口は約400万人※2ですから、約170万人は、この4割以上に当たります。いかに効果が大きいか分かっていただけるかと思います。
※2 令和4年版事業概要(東京都水道局 令和4年9月)

3 多摩南北幹線の施工方法 ~工期短縮と立坑用地の確保~
 次に、多摩南北幹線の特徴的な施工方法についてご説明します。
 多摩南北幹線は、延長約15.7㎞を、図-3に示す6つの工区に分けて施工しました。
 また、東村山浄水場で作られた水道水を、給水所へ送るための「美住増圧ポンプ所」のほか、No.1~6まで6か所の立坑も築造しました。

図-3 多摩南北幹線の詳細図

 これらの工事は、安定給水のために一日も早い運用開始が求められる中、立坑用地の確保や工区間の工程調整などの多くの課題に対して、様々な工夫により、工事開始から完成まで約10年間に及ぶ工事を無事に完了することができました。ここでは、代表的なものを2つご紹介します。

(1)二方向同時掘進による工期短縮
 美住増圧ポンプ所築造工事及び第1・2工区では、次の2点の「立坑用地の取り合い」問題が発生しました。

①No.1立坑を発進立坑とした場合、第1工区のシールド工事(トンネル内の水道管の配管含む)の完成まで、美住増圧ポンプ所築造工事に着手することができない。
②No.3立坑用地は1,000㎡程度と狭く、シールド機を二方向に発進する両発進立坑とすることができない。このため、No.3立坑を発進立坑とした場合、第2工区のシールド工事(トンネル内の水道管の配管含む)の完成まで、第3工区のシールド工事に着手することができない。

 これを解消するため、第1・2工区のシールド工事は、中間のNo.2立坑(用地面積約5,100㎡)を両発進立坑とし、二方向同時掘進により施工することで、工期の大幅な短縮に成功しました。
 二方向同時掘進の方法としては、写真-3のとおり「発進立坑内でシールド機の位置をずらし、同時に掘進する方法」を採用しました。
 通常は、写真-4のように1つの立坑をシールド機1台で使用するため、立坑や作業用地を複数業者で共有し、二方向同時掘進するシールド工事は、水道局で初めての試みでした。このため、設計段階において、複数パターンの施工方法を慎重に比較検討しました。結果として、綿密な設計・施工管理と徹底した安全管理によって、無事成功させることができました。

写真-3 第1・2工区のシールド機を2台設置立坑(No.2両発進立坑)
〔シールド機外径:約3m、立坑直径:13m、地上から立坑の床面までの深さ:約35m〕
写真-4 一般的なシールド機1台の立坑(No.6発進立坑)
〔シールド機外径:約3m、立坑:12m×7.8m、地上から立坑の床面までの深さ:約18m〕

(2)地中接合の施工管理
 次に、第4・5工区についてです。
 第4・5工区は、合計延長が約4.4㎞と比較的長く、この区間に立坑用地がないことから、到達立坑を設けず地中でドッキング(接合)することとしました。
 地中接合においては、受入側シールド機(第5工区)を先に到達させ、貫入側シールド機(第4工区)は、受入側シールド機の位置に合わせて貫入します(図-4)。このため、各シールド機の位置確認が極めて重要でした。
 測量での位置確認を徹底した結果、左右偏心量17㎜、上下偏心量7㎜という非常に高い精度で、地中接合を完了させました。地中を約2㎞進んだ上でこの誤差は、土木技術者の技術力の高さの証明でもあると思います。

図-4 受入側シールド機が到達してから、貫入側シールド機と地中接合するまでのフロー

6 おわりに
 今回は、多摩南北幹線の特徴的な工法についてご紹介しました。

 東京都水道局では、本事業のように、大規模かつ高度で、公益性の高い仕事に携わることができます。
工事が完了するまでには、長い時間がかかる上、設計の想定と異なる現場条件への対応といった、様々な苦労がありますが、都民の皆さまの命の水を守っているというやりがいを実感することができます。

 東京都水道局には、工事監督以外にも計画や設計など様々な仕事があり、我々職員は関係機関と協力しながら、都民の皆さまに安全安心でおいしい水道水を安定して給水するため、全力で取り組んでいます。

 水道事業には終わりがありません。
 将来にわたって、安定給水を維持するためには、若い技術者の力が必要です。
 本稿をお読みいただいたことによって、少しでも東京都水道局の土木職の仕事に興味を持っていただけたら幸いです。