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東京の大気監視

 こんにちは。私は入都2年目で、職種は環境検査職です。現在、環境局・多摩環境事務所・環境改善課・大気担当で仕事をしています。

 今回のトピックは私の仕事である「東京の大気監視」です。「監視」というと、空を眺める仕事のように思えますが(私は最初そうイメージしていました)、そうではありません。実はかなりテクニカルで大切な仕事なのです。今回は、私が実際に行っている仕事の話を交えながらお話しします。

1 大気を監視する目的

千代田区霞が関祝田橋からの眺望(左:1970年代 右:現在)

 「大気汚染」といえば、もう過去の話でしょ、と思う方も多いかと思います。その認識でほぼ正解だと思います。昔は空が茶色といわれていましたが、現在は青空の下で犬と散歩したり、一人BBQをしたりできるのが当たり前の時代です。大気汚染が改善されたのは、「大気汚染防止法」という法律が制定され、大気汚染の発生源が規制されるようになったからです。
 大気汚染防止法の中には、「知事は、大気汚染の状況を常時監視しなければならない」という趣旨の条文があります。この条文に従って、私の仕事である「大気の監視」は行われているのです。

 「今は空がキレイなんだから、監視する必要あるの?」と鋭い意見もあるかと思います。大気の状況を監視するのは、①汚染状況の把握、②リアルタイム速報データ公表・注意報発令等による都民への情報提供、③汚染改善のための対策立案、④汚染改善効果の確認…など多くの目的があって行っています。

 昔に比べれば空気がキレイになったのは事実ですが、光化学スモッグ注意報は毎年発令されていますし、PM2.5(微小粒子状物質、大まかにいうと粒径が2.5μm以下の粒子のこと)という課題もあります。PM2.5は、非常に小さい粒子であるため、呼吸器の奥深くに入りやすく、健康に悪影響を及ぼす懸念があります。このように、大気汚染物質の濃度を監視することは、都民の健康を守るためにとても大切な仕事です。

2 大気測定局は汚染状況を測定する施設

 冒頭で述べたように、大気の汚染状況の監視とは、空を四六時中眺めてキレイか汚いか鍛え抜かれたセンスで判断するということではありません。大気測定局という施設で、汚染物質濃度のデータを24時間365日測定しています。

大気測定局都内配置図(上:一般環境大気測定局・立体大気測定局・檜原局 下:自動車排出ガス測定局)

 大気測定局は都内各地の84箇所(一般局:47(国設東京含む)自排局:35その他: 2(スカイツリー、檜原))に設置されています。私の家の近くにもありますが、この仕事に携わって初めて気づきました。実はみなさんが住んでいる近くにもある…なんてこともあるかもしれません。

 大気測定局は、大きく分けて一般環境大気測定局(以下、「一般局」といいます)と自動車排出ガス測定局(以下、「自排局」といいます)の2種類があります。一般局は、住宅地などの自動車の排ガスの影響が少ない一般的な環境を測定しています。自排局は、幹線道路沿道に設置され、自動車排ガスによる汚染状況を測定しています。

一般環境大気測定局(狛江市中和泉局)
自動車排出ガス測定局(新青梅街道東村山局)

 一般局と自排局のほかにも、高さ方向の汚染状況を測定する目的で立体局がスカイツリーの高さ150mと325m地点の2か所に、人為的な影響が少ない地域を測定する目的で檜原村にも設置されています。

立体局(スカイツリーの高さ150mと325mに設置)
檜原局

3 実際の仕事

 ここからは私の実際の仕事を紹介します。私の仕事は、大きく分けて①大気測定局の維持管理、②測定データの質の確保の2つがあります。

① 大気測定局の維持管理

測定局の内部

 まず、大気測定局の維持管理についてです。大気測定局の内部は、このように測定機がいくつも設置されています。これらの測定機の機械的なメンテナンスは外部の業者に委託していますが、すべて任せきりというわけではありません。私が携わっている業務を中心にご紹介します。

測定局の点検(測定機の確認)
測定局の点検(標準ガスの確認)

 都の職員は、毎月、各測定局を点検しています。その点検では、測定機に故障や動作不良が無いか、試料の採取量や流量などの測定条件は正常な数値か、校正に使っている標準ガスの使用期限は適正か、測定局の周辺に測定の妨げになるようなものは無いかなどを確認しています。

 測定条件を確認するためには、測定している大気汚染物質の化学的な特性や測定機が測定に利用している化学反応を把握し、測定機が示す数値の意味や部品の役割について理解することが重要です。その際、私の学生時代に学んだ化学の知識と実験の演習や研究室で多くの分析機器を扱った経験が大いに活かされ、より意義のある点検ができていると実感しています。

 また、委託業者とは毎週打合せを行い、主に、日々のメンテナンスで確認された測定の異常や、異常の兆候などについて話し合います。都の職員と委託業者の双方が技術的知識や経験を基に意見を出し合って議論を重ね、状況の理解や原因究明、対応策の検討を行っています。

② 測定データの質の確保

 続いて、測定データの質の確保についてお話しします。測定局で測定されたデータを半月ごとに異常な値がないか確認しています。測定機のコンディションや周囲条件が常に理想的な状態とは限らず、測定機が突然故障して、おかしなデータを出すこともあり得ます。異常な状況下で測定されたデータを見つけて対処するため、前後の時間との連続性や、近くの測定局の傾向と比較するなど、職員の目でデータをチェックします。

虫が付着したSPMろ紙

 この写真は、SPM(浮遊粒子状物質、”すす”や粉じんのこと)の測定箇所に虫が付着している様子です。SPMとは粒径が概ね10μm以下の粒子のことで、ろ紙上に捕集してβ線を照射することで測定しています。少し専門的な話になりますが、β線が持つ「照射された物質の質量が大きいほど多く吸収される」という性質を利用した測定方法です。
 虫が付着していると、虫も質量として測定してしまうため、SPM濃度が「実際よりも高濃度」ということになってしまいます。
 この時は、データをチェックしている時に、前後の時間に比べて測定値が異常に大きいことを見つけ、ろ紙を詳しく調べた結果、この写真のように虫の付着を発見し、「異常な測定」として処理(この場合はデータ無効)することができました。

 測定項目はSPM以外にも有り、例えば10項目を測定している測定局の場合、データの個数は、1日あたり240個、2週間で3000個以上、1年間では10万個単位のデータ量になります。一つの測定局だけで、これほどの量のデータを相手にしています。

 ここまでお話ししたもの以外にも様々な業務があり、例えば本庁では、光化学スモッグ注意報等の発令、測定局の整備工事、刊行物の発行などの業務を行っています。

 また、今後に向けた取組みとして、AIやRPAなどを活用した測定データのチェック方法の検討や、5G等、最新の通信技術を活用した測定データを誰でも利用しやすい形で公表する仕組みの検討などを行っています。これらの取組みによって、データチェックや大気汚染状況把握が、より効率的で、より質の高いものとなることが期待されます。

4 おわりに

 今回は、「東京の大気監視」というトピックで実際の仕事を交えながらお話ししました。今回の記事で私たちの仕事のイメージがなんとなくでもつかめていただけたならば幸いです。

 私自身、入都するまで大気については知識がほとんど無く、学生時代に学んだとはいえ、化学の知識についても胸を張って「任せてください!!」と言えるほどの自信もありませんでした。私の仕事に限った話ではないと思いますが、日々の仕事で学ぶことがほとんどであり、仕事をしていくうちにこれまでの知識や経験が意外な形で活きてくると実感しています。学生時代に、これを勉強していなければダメ、なんてことは全くないと感じています。

 私の仕事は、環境局の中ではもちろん、大気分野の中でも氷山の一角にすぎません。本記事で関心を持っていただければこれ以上喜ばしいことはありませんが、環境に関する仕事に興味がありましたら、環境局がどのような仕事をしているのか、是非調べてみてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

(環境局 多摩環境事務所 環境改善課)