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道路を守り、都民を守る                     ~道路災害防除事業の紹介~

 写真は、平成3年の台風12号の大雨に伴い、奥多摩周遊道路で発生した土砂崩れです。
 今回は、こうした災害から道路を守り、都民の命と暮らしを守る、道路災害防除工事などについて紹介します。

1 はじめに

 道路は、都民生活や社会経済活動を支える重要な社会基盤です。
 とりわけ、多摩や島しょ地域の山岳道路は、他に代替ルートが存在しないことも多く、災害時の避難、救援活動、緊急車両の通行等に重要な役割を果たす、地域の生命線です。
 一方、山岳道路は、大雨や地震などが原因で、斜面崩落等が発生し、通行止めとすることを余儀なくされることがあります。
 建設局では、こうした事態を可能な限り発生させないため、法枠(のりわく)や擁壁などの道路災害防除工事、航空レーザ測量などを活用した斜面点検の高度化などを推進しています。 

2 山岳道路で発生する災害の特徴

 山岳道路で発生する災害には、様々なタイプがありますが、典型的なものは以下の3つです。

① 土砂崩れ

 山岳道路は、道の両側が斜面であることが多く、大雨などの際に、その斜面が崩れてしまうことがあります。
 写真1は、平成20年4月の大雨の際に、都道201号(あきる野市)で発生した土砂崩れです。幸い、人的被害などは無かったものの、被災後に4日間、7世帯は完全に孤立してしまいました。
 また、写真2は令和3年に、青梅街道(奥多摩町)で発生した土砂崩れです。この際、雨は降っておらず、地震もない中で発生しました。土砂崩れのメカニズムは、まだ不明な部分も多く、後述する斜面点検を高度化しなければならない背景となっています。

② 落石

 写真3は、日原街道(奥多摩町)、写真4は湾岸通り(小笠原村)で発生した落石です。高い場所からの落石は非常に大きなエネルギーを持っており、通行車両に当たってしまった場合、深刻な事態を引き起こします。

③ 洗堀、出水

 写真5は、令和元年の台風19号(東日本台風)時の日原街道(奥多摩町)の写真です。道路下の川の水位が上昇し、洗堀が発生したことにより、道路が寸断されてしまいました。
 写真6も同じ台風の時の檜原街道(檜原村)における写真です。沢から道路上へ水と土砂が溢れ出し、道路が大規模に冠水し、土砂が堆積してしまっています。

3 道路災害防除工事

 前節で示したような災害が発生した場合、建設局では関係職員が一丸となって、早期の交通開放を目指し、復旧業務に取り組むことになります。
 ただ、こうした災害による被害は、生じさせないことが理想であり、点検等の結果を踏まえ優先度の高い斜面から、災害を未然に防止する対策(道路災害防除工事)を進めています。実施にあたっては、地形や地質、想定される被災形態などが異なることから、各現場の状況に応じた対策を実施しています。

(1)対策の種類

① 法枠やグラウンドアンカー等の整備

 写真7は奥多摩周遊道路(奥多摩町)において施工した法枠工です。すべり面が深い場所に想定されることから、すべり面より深い部分まで船の碇のようなものを差し込む図1に示すようなグラウンドアンカー工を併用しています。また、景観等に配慮するため、植生の回復のための植生種子の吹き付けなどを実施しています。

② 落石防止網や落石防護柵の設置

 写真8は、日原街道(奥多摩町)において施工した落石防止網です。この網で上部からくる落石を止めます。落石を防止する対策としては、この他に落石防護柵などがあります。図2及び表1は、落石のリスクと勾配の関係について整理したものであり、一般的に斜面の勾配が45°を超えると落石が強く懸念されます。

③ 道路の流失防止や土砂流入防止の強化

 写真9は、陣馬街道(八王子市)において、河川の護岸と道路の擁壁を兼ねる構造物を強化した事例です。
 山岳道路においては、水の処理が非常に大切であり、斜面に存在する沢などからの土砂が流入してしまうタイプの災害を防止するための土石流対策なども実施しています。

(2)経年劣化対策

 写真10のとおり、これまで整備してきた施設の中には、設置から数十年の年月を経て、経年劣化が課題となっているものがあります。特に、グラウンドアンカーについては、アンカー部の浮き上がりや飛び出しなど、全国的に損傷事例が確認されたため、調査を行い、アンカーの増し打ちなどの対策工事に着手しています。さらに今後は、法枠、擁壁等へ対象を拡大していく予定です。

4 斜面点検の高度化

 斜面の状況は、降雨等に伴い変化するものであり、その安全性を評価するためには、その変化を的確にとらえることは大切です。このため、建設局では、日々の道路巡回による確認に加え、五年に一度、斜面点検を行っています。
 さらに、現在、より的確に斜面の状況を把握するため、斜面点検の高度化を進めています。
 これまでの斜面点検では、航空写真をもとに現場踏査を行い、斜面の状況を把握してきましたが、航空写真の撮影の際に樹木等が支障となるため、地形の詳細な把握が困難な場合がありました。このことから、新たに航空レーザ測量を導入し、樹木などを含まない地形レベルの三次元点群データにより地形を高精度に把握することで、効果的に対策を講じる取組を進めています。
 さらに、三次元点群データは計測時期の異なるデータを容易に比較できるため、法面の変化などを反映したリスク抽出などについて、検討を進めています。

5 おわりに

 今回紹介させていただいた道路災害防除事業は、自然を相手にした取組であり、技術的に難易度が高い事業です。しかし、都民のいのちに直結した大切な事業であり、建設局では、新たな技術も積極的に活用し、斜面管理の高度化を図っていきたいと考えています。