戦略コンサルティングファームのサービスライン

マッキンゼー、BCG、ベインをはじめとするいわゆる戦略コンサルティングファームは2010年頃までは提供しているサービスラインに大きくは差はなかった印象である。主要なサービスラインとしては戦略、オペレーション、コーポレートファイナンス、セールス&マーケティング、組織、ITが挙げられ、特に大手ファームであれば少なくともホームページ上ではあまり違いは分からなかったと記憶している。

ところが2010年代以降、上記の伝統的コンサルティングサービスとでも呼べるサービスラインの枠を超えたものが多く出てききたと見られる。そこで本稿では主要のコンサルティングファームのホームページ上で確認できるサービスラインを比較し、そこから浮かび上がる意味合いを考察したい。

以下にいわゆるMBB(マッキンゼー、BCG、バイン)、カーニー、ローランドベルガー、ストラテジー&(旧ブーズ)、CDIの合計7社のファームのホームページ上に掲載されているサービスラインをまとめている。順番はいずれもホームページに記載の順である。これらを比較するだけでも各社、いくつかの特徴が浮かび上がってくる。まずは各社の特徴について筆者なりにコメントをする。

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【マッキンゼー】
サービスラインはアルファベット順で表示されている。この中で非伝統的サービスラインとしては、アクセラレート、デジタル、リスク&リジリアンス、サステナビリティ、トランスフォーメーションが挙げられる。つまり10あるサービスラインの内の半分は非伝統的サービスラインであると見ることもできる。アクセラレートはホームページを見る限りはトランスフォーメーションに近いサービスであると見られる。サステナビリティが一つのサービスラインとして独立していることも、それだけクライアント企業で重要なテーマになっていることを示唆していると考えられる。

また以前は戦略&コーポレートファイナンスに含まれていたM&Aが別のサービスラインとして括りなおされているのは面白い。その背景にはM&Aがより重要になっていることに加えて戦略よりのサービスであるM&A戦略・デューデリジェンスとオペレーションよりのサービスであるPMIを一気通貫で提供したいという意図が背景にはあると推測される。


【BCG】
BCGもマッキンゼー同様に多くの非伝統的サービスラインを提供しているが、加えて他ファームであれば他のサービスラインに含まれることの多いテーマがいくつか独立している点は注目に値する。まずはプライシング・レベニューマネジメント。これは価格政策の最適化などのサービスラインであると考えられ、通常であればこれはセールス&マーケティングに含まれるが、これが別出しされているということはそれだけ、このサービスのニーズがあることを示している。(同社はかなり昔から成果報酬型で当該テーマに取り組んでいたとOB/OGから筆者は聞いたことがある。)

顧客インサイトも同様に通常であればセールス&マーケティングに含まれ、また製造もオペレーションに含まれることが多いが、これらが独立していることもまたクライアントニーズの強さを示していると考えられる。

ゼロベース予算が独立したサービスラインになっていることは非常に興味深い。筆者の経験上もZBB (ゼロベース予算)はうまく実行できれば大きな成果が期待できる一方で、クライアントの組織内だけで実行するのは決して簡単ではない特徴があるために、コンサルティングファームと親和性が高いと考えられる。またこれはコンサルティングファームにとって一つのサービスラインとしやすいということも背景にはあると考えられる。

非伝統的サービスラインはマッキンゼー同様にデジタルやトランスフォーメーションはあるが、加えてパーパス、ダイバーシティ&インクルージョンがあるのは面白い。このあたりは「イマドキ」のテーマであるといえ、それにしっかりと対応していると考えられる。

【Bain】
同社もサービスラインはアルファベット順で表示されている。非伝統的サービスラインとしてはアジャイル、チェンジ・マネジメント、カスタマー・エクスペリエンスはやや特徴的である。NPSは同社が開発したプロダクトであるためにしっかりとサービスラインになっているのは面白い。

またプライベートエクイティがサービスラインになっているのは少しユニークである。本来、プライベートエクイティは機能ではなく業界であるはずであり、PEのBDDならばM&Aないしはコーポレートファイナンスになるし、PEのポートフォリオ支援ならばオペレーションになるはずであるが、業界を敢えてサービスラインにしているところには意図が感じられる。同社の場合はPEのリングフェンスグループを抱えており、当該領域に力を入れていることが垣間見える。

またコスト・トランスフォーメーションというサービスラインもトランスフォーメーションやオペレーションとは独立して存在していることも面白い。他のサービスとの重複も多いようにも感じられるが、それだけコストがテーマとして重視していることの現れであると考えられる。

なおコスト・トランスフォーメーション、フルポテンシャル・トランスフォーメーション、デジタル・トランスフォーメーション、と全て「トランスフォーメーション」をサービスラインに付けていることは意思が感じられる。

【Kearny】
同社の場合、調達が最も上に表示されていたことには意図が感じられる。同社は調達関連のサービスが強いことは有名であるが、サービスラインの並びもまたそれを示している。またデジタル関連のサービスラインは4つ存在している一方で、MBBと異なりトランスフォーメーションのサービスラインが存在していないことは面白い。この辺りはMBBの方がサービスが一歩進んでいることを示しているようにも思える。

【Roland Berger】
同社のサービスラインが4つしかなく、特にその中に戦略に関するサービスラインが独立して存在していないことは驚きであった。同社はしばらく前にロゴを変更し、ロゴから「Strategy Consultants」という表示を無くしたことからも、戦略以外の分野、具体的にはデジタル領域に力を入れていると推察される。東京オフィスは近年はデジタル分野での外部アライアンスをいくつか発表していることもそれを傍証している。(ただし、それなりの数の戦略プロジェクトは今でも実施していると筆者は聞いている。)

【Arthur D Little、Strategy&, CDI】
これら3社はサービスラインとしては比較的、伝統的サービスラインが中心であるように見える。特にトランスフォーメーションに関しては少なくともサービスライン上はいずれのファームも取り組んでいない印象である。またStrategy&およびCDIの海外戦略が一つのサービスラインになっていることからローカル色が見える。

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このように改めて主要戦略コンサルティングファームのサービスラインを比較すると案外、各社によって差があり、ファームの特色がぼんやりと浮かび上がる。ただ筆者として最も印象に残ったのはMBBとそれ以外のファームとの差である。MBBはいずれも明らかに非伝統的サービスラインが充実しているのに対して、その他のファームはデジタルなどの一部の領域は取り組んではいるものの、MBBと比較するとやはり差があると見られる。

デジタルとトランスフォーメーションはここ10年間のコンサルティング業界の二つの明らかな潮流であると筆者は理解しているが、一方でこれらはいずれも一定のファームの規模がないとなかなか提供できないサービスであると考えられる。デジタルもトランスフォーメーションもより実行に携わることが求められ、更には従来型のコンサルタントとは異なる能力を持った人員が必要であるり、更にプロジェクトのデリバリーには伝統的な体制よりもはるかに大きな規模が必要であり、結果としてファームとしてそれらを提供するためには一定の規模が求められる。つまり産業として見たときにコンサルティング業界は規模が効かない業界から規模が効く業界へと進化したと考えられる。

もちろん伝統的なアドバイザリーは消えることはないと考えられるが、業界の成長ドライバーはデジタルとトランスフォーメーションにあると考えられる。もしそうであれば今後はMBBとその他のファームでは差が開いていくことになるかもしれない。

過去にはBoozがPwCに、モニターがデロイトに買収されるなどの動きがあったが、今後、もし仮に上記の考察通り規模がより重要になると再び戦略コンサルティング業界の中でM&Aが起きることもあるのではないかと考えている。

各社のサービスラインを見てこのようなことを考えた。

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