昼食代とミッションと行動規範
先日、当社では従業員の昼食代は金額を問わず、原則として全てファームで負担することとなった。この結論だけからは、この取り組みはある種の福利厚生の一環にも映るかもしれないが、この決断に至るまでに従業員と非常に良質な議論ができたと考えている。その理由はこの取り組みは当社が大切にするミッションと行動規範と密接に結びついているためである。そこで本エントリではこの結論に至った背景と思想を述べていきたい。(当社のミッションと行動規範については下記参照。)
https://note.com/tokyo_harbor/n/n3e15f042ad59
そもそも当社はこれまでは代表である筆者が従業員と昼食を食べる際には全て当社が負担してきた。最初にこれをやり始めたときは、正直なところあまり深い考えはなく、気付いたら習慣化していた、というのが実態であり、それによって特に大きな問題は生じていなかった。一方で徐々にファームの従業員が増えてくると、一度に全従業員が入れる店が少なくなり、また仕事の都合などから、全員で昼食に行ける機会が減ってくるようになった。そうすると従業員の観点からは、筆者と昼食をするグループに入った場合は昼食代は無料だし、そうでない場合は有料になる、という事態が発生するようになった。
これ自体も些末かもしれないが、全く同じ仕事をしていても(筆者と昼食をするか否かで)昼食代を負担する場合と負担しない場合が理論上は生じるようになり、それは理屈の上ではある種の不平等が生じるようになったと捉えることもできた。そのため、一部の従業員からそれを是正するために昼食代を全てファーム負担にして欲しいという声も挙がるようになってきた。そのとき初めて、ある種「真面目に」昼食代の位置づけを考えるようになった。そして結論としては従業員間で昼食をするときは金額を問わず全てファーム負担とすることとなった。(また従業員が一人でテイクアウトしデスクで昼食をする場合もファーム負担となったが、それに関しては別の考えがあるものの本エントリでは割愛する。)
この取り組みの目的は「従業員間で昼食をとることを金銭的な便益を通じてファームとして推奨することによって、当社の二つのミッションであるクライアントインパクト、あるいはプロフェッショナルとしての成長、に寄与すること」にある。これは一見当たり前に映るかもしれないが、見方を変えるとこの取り組みは福利厚生(Wikipediaによると「企業が従業員に対して通常の賃金・給与にプラスして支給する非金銭報酬」)の一環ではないといえる。これは従業員に対する報酬ではなく、ミッション達成のためであり、この取り組みはあくまでも(従業員ではなく)ファームのためであるといえる。(またそもそも当社の考えとしては報酬はキャッシュ(給与・賞与)を通じて支払うことを原則としている。)
この取り組みは(法的には休憩時間である)昼食時に従業員同士が時間を過ごすことによって、自然とプロジェクトや提案活動、研究開発活動、すなわちクライアントインパクトにつながる事項、あるいは個々人のプロフェッショナルとしての成長に関する議論が生まれる可能性が高いとファームとしては考えており、そのためにその費用を負担することによってその活動をファームとして推奨していると捉えることができる。
実際に人数が増えてからは従業員が数名で昼食ととり、その中で互いのプロフェッショナルとして次にどのようなことに取り組むべきか、といった話をしていることもあり、また担当していないプロジェクトの概要も知ることができるため、理屈だけでなく実態としてもファームの二つのミッションの達成に従業員間の昼食は寄与していると考えている。
またこの際に上限値も特に設けなかった。プロジェクトの打ち上げや1 on 1的な位置づけのような昼食をするのであれば少し落ち着いた場所で実施することが適切であると考えられるため、一律1,500円などとは設定せずに、従業員たちが自信を持って「1万円のランチであることが適切であった」と説明できるならば、いくらであっても構わず、それは個々人としてのプロフェッショナルの判断に委ねるようにしている。これは当社の行動規範の一つである「ルールではなく価値観に基づいて行動する」という思想に基づいたものである。もちろん現実的には昼食代に対してレシートさえ残せば、特に報告をすることも求めることはしない。そのためもしも従業員間で昼食に行って全ての時間をクライアントインパクトとプロフェッショナルとしての成長と無関係の話題に費やしたとしたら、それは従業員が「本取り組みの目的に相応しくないために、チャージしない」という判断をすることを前提としている。(また将来的には上限を設けることで、本稿で述べているような思想を知らずに「昼食代を1,500円ぴったりに納めるゲーム」という本質的でない行動が生じることを防ぎたかった。)
一方で昼食時間という業務時間外にクライアントインパクト、あるいはプロフェッショナルとしての成長につながる議論をするのであればその費用を出す、という理屈が成り立つのであれば、同様の議論を夕食や週末の昼食・夕食で実施した場合もやはり費用負担をファームとしてするべきではないか、という理屈も(理論上は)成り立つ、とも考えらえる。これに対しては「平日出社が原則の当社としては昼食時間はオフィスで発生するのに対して、平日の夕食、あるいは週末はオフィスで発生することはない」という考えも成り立つ。そのため、もちろん従業員同士が平日の夕食や週末にファームのミッションにつながる活動をするのであれば、それはファームとしては喜ばしいものの、昼食ほどは自然に発生するものではないためにそこまではファームとしては推奨はしない、という考えも成り立つために、その費用は負担しないこととした。
これらのコストは一人年240日、1回1,500円とすると年間36万円になり10人分を負担するとなれば年間360万円となり絶対額としては決して小さくはない。ただ実際、従業員同士で昼食時にかなり建設的な議論をしている(と見られる)ことに鑑み、ファーム経営の観点からも十分に費用対効果は正当化できると考えている。(実際、この議論そのものも従業員との昼食を通じて生まれたものである。)
ただこの取り組みにあたっては当社の従業員には上記の思想を理解した上で、適切にチャージして欲しいと考えており、またそれらを周知するための努力はしていこうと考えている。特にファームのメンバーが増え上述の思想を共有が疎かになってしまうと、人によっては「昼食代が浮いてラッキー」くらいに軽く捉えられるようにもなりかねないために、かなり丁寧に説明しようと考えているし、そのための仕掛けも重層的に構築しようと考えている。
当社はミッションと行動規範を何よりも大事にしており、「昼食代ファーム負担」という一つの取り組みにも上記のようにそれらとロジカルに繋げることがその浸透のために重要だと考えている。細かな施策でもこのような思想的な整理を常にしていきたいと考えている。
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