伝統的コンサルティングを超えて

経営コンサルティング業界の始まりは1886年に設立されたアーサー・D・リトルであると言われており、業界全体はマッキンゼーの中興の祖であるマービン・バウワー氏やBCGの創業者であるブルース・ヘンダーソン氏が1960年代以降に牽引し、今では一つの産業になったといえるだろう。一般論としては一つの業界は成熟とともに顧客のニーズを細かく拾い上げるためにサービスが細分化することが定石であり、経営コンサルティング業界もまた同じであると私は考えている。

個人的な印象としてはここ20年くらいでかなり経営コンサルティング業界は変わってきており、それを受けて「ビジネスモデル」も多様化してきていると理解している。(例によって本来的にはプロフェッショナルサービスはビジネスではないため、あくまでもカッコ付きの「ビジネスモデル」と表現している。)従来はプロジェクトの期間とチームの規模で固定的な報酬が発生することが多かったがこれを以下では伝統的経営コンサルティングと呼ぶ)、ここ20年間で成果連動型など非伝統的経営コンサルティングも増えてきた。更に経営コンサルティング出身者が経営コンサルティングの手法を活用しながら新しいビジネスを展開した例もある。そこで本エントリでは少し伝統的経営コンサルティングを超えた「ビジネスモデル」について述べていきたい。なおここで考察する内容はあくまでも「ビジネスモデル」であるため、一般的に認識されている経営コンサルティングファームが必ずしも手掛けている訳ではなく、「ビジネスモデル」によっては一般的には他の業態と認識される会社も多く含まれることは予め述べておく。

伝統的経営コンサルティングに最も隣接しているものは成果連動型報酬である。これはクライアントの視点で考えると非常に受け入れやすい。失敗したら報酬はゼロなので、その場合の損失はそのプロジェクトに掛けた工数のみであり、逆に成功すればクライアント企業が受ける経済的便益の一部が報酬として支払われるので、理論上はほぼアップサイドしかないのである。ただしこの成果の評価が技術的に必ずしも簡単ではなく、上手く設定しないと利益相反に近いことは起きうる。成果の測定方法は経営マターではないものの、現実的な問題としては存在する。とはいえ成果連動型報酬はクライアント視点では圧倒的に納得度が高いために、今後もこの方式は増えると個人的には思っている。

ただしこの成果連動型も厳密には二種類があると思っている。一つはプロジェクトでの支援範囲を絞り成果を特定の指標に限定する方式で、もう一つは成果を全社に関わる指標を用いる方式である。前者で分かりやすいのは購買費削減プロジェクトにおいて購買額の削減額である。後者は全社のEBITDAの改善額、フリーキャッシュフローの改善額、時価総額の増加額などであり、後者であれば全社の改善にコミットしているといえるだろう。特に独自の指標ではなく財務諸表上のEBITDAやフリーキャッシュフローの改善などコンサルティング報酬が連動していれば、それは経営者としてはかなりフェアに映るだろう。このように一口に成果報酬型といってもいくつかの型があると思っており、またこれらに関しては各ファームが様々な取り組みを行っているもののまだ進化途上であると認識している。

また報酬を株式(ないしは疑似的な株式)で貰う形も存在する。これは大手経営コンサルティングファームではほとんど実施していないと理解しているが、より小さいファームやコンサルティングファーム出身者が立ち上げた新興ファームなどではある程度、耳にする。これも経営者からすると「同じ船に乗っている」といえるために、フェアであるといえるだろう。更にはコンサルティング報酬を株式で貰うだけでなく増資などのスキームを通じてファームがお金を出してクライアント企業(もはやクライアント企業と呼ぶことが適切かどうかの議論の余地はある)の株式を取得する場合もある。場合よっては一定の報酬はキャッシュで貰いつつ、増資などで逆にキャッシュを振り込むという両方向の流れが発生する場合もある。特にスタートアップ企業を対象に株式を取得するとともに、いわゆるハンズオンサポートをしながらコンサルティング報酬を得ている形態を小さいファームがやっているケースは見られる、

ここまでは「ビジネスモデル」には違いはあれど、あくまでも経営コンサルティング(実際には経営コンサルティングよりも広い支援が通常ではある)というサービスを提供し、その対価を何らかの形で得るという意味ではこれらを提供しているファームは経営コンサルティングファームであるといえるが、経営コンサルティングから派生した「ビジネスモデル」もある。

分かりやすいのは一部のプライベートエクイティ(PE)である。PEの多くは投資銀行出身者によって設立され、また今でもジュニアからシニアまで多くは投資銀行出身者が主体ではあるが、ベインキャピタルなどのように経営コンサルティングファームが出自のPEも存在する。また大手のコンサルティングファームがPE部門を立ち上げるという噂もたまに報道されたりする。腕に自信があるコンサルタントたちであれば、投資評価およびバリューアップにコンサルティング的な手法を持ち込んでコンサルティングの報酬以上のリターンを出そうとする「ビジネス」をしようと考えるのは個人的にはとても自然な発想ではあると考えられる。またPE(含むPIPES投資)によっては投資後のバリューアップの段階では経営指導料を投資先企業から得ているPEも存在するため、これはある意味でコンサルティング「ビジネス」であるともいえる。ただそのような場合であっても、PEはあくまでも「ビジネス」としては投資に対するリターンと運用手数料を得ることを生業としているために、コンサルティング的手法はあくまでもそのための手段の一つに過ぎず、ファンドにもよるとは思うが、経営指導料も利益のためというよりはどちらかというとコストを補うためのものであり、本丸はあくまでも投資でリターンを上げることだろう。

エンゲージメントファンドやアクティビストファンドも同様である。これらもやはり投資銀行出身者が多いが、中には経営コンサルタント出身者によるファンドも存在する。しかしこれらもやはりあくまでも投資によるリターンを上げる「ビジネス」であり、そのための手段として経営コンサルティング的発想を一部に用いているのであり、これらはあくまでも投資業である。またVCも同様であり、コンサルティング報酬は得ないものの、コンサルティングファーム出身者がかなりハンズオンで支援をしているファンドもあるようである。

なおPEのコンサルティング的なバリューアップやエンゲージメントの成果に関しては否定的な意見もあると認識している。PEでいえば「ホームラン級のリターンにはバリューアップも必要かもしれないが、結局のところはPEのリターンはレバレッジや株式市場全体の影響の方がバリューアップよりもはるかに大きい」といった見方も良く聞く。エンゲージメントに関しても「昨今のスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードなどの時流に合致しているために投資家からお金を集めやすいが、実際のエンゲージメントにより株価まで影響することは極めて少ない」といった考えもある。このあたりは証明が必ずしも簡単ではなく神学論争的な側面があるといえるだろう。

ここまでは経営コンサルティング的手法を投資にも活用した「ビジネスモデル」について述べてきたが、異なり切り口でエグゼクティブサーチもまた挙げられる。比較的有名なあるエグゼクティブサーチ(アソシエイト/VPレベルではなく本当の意味でのエグゼクティブを紹介するファーム)の代表とずいぶん昔に会ったときには、この代表は「コンサルティングとエグゼクティブサーチは今後は融合する」といった意見を持っていた。確かにこれは一つの理屈としては成り立つと考えられる。経営者として何らかの課題を解決する際に、傭兵的にコンサルティングファームを活用する選択肢もあれば、外部からその課題の解決を担当する人材を登用するという選択肢も理論上は存在する。またこの理屈とはやや異なるが、大手のエグゼクティブサーチファームの中にはエグゼクティブの紹介による手数料だけでなく、人材に関わるコンサルティングサービスの提供も強化し、そのためにコンサルティングファーム出身者を採用している。(ただしこれは経営コンサルティングから派生したというよりは、エグゼクティブサーチからコンサルティングに派生したと見るべきだろう。)またもっと小さいファームでもコンサルティングと人材紹介の両方を実施している小さいファームも私が認識しているだけでも何社か存在する。結局のところ企業が直面する課題を解決しようとすると、多くの場合は人材がネックになることが現実的には大きいため、特に中堅企業などではこの方法は一つの型としてあり得るといえるだろう。

また人材関連でいえば、研修サービスとコンサルティングを融合している例もある。これもいくつかの型がある。一つは研修サービスはどちらかというとコンサルティングを提供するための「営業」の一環として実施しており、研修サービスでまずは関係を構築するといったパターンである。また別のパターンとしては研修が主体であるが、より座学ではなく実際の会社の課題を扱って実践するという発想の基にコンサルティングプロジェクトを研修受講生とともに実行するパターンである。もちろんこのパターンであればコンサルティングの方が「儲かる」という計算が背景にはある。これは特に個人で比較的実施しやすいためにファームを独立した人がやっている印象がある。日本企業の場合は課長クラスが予算の事実上の意思決定を行える企業が多いことも、研修との相性の良さの一つの理由であると考えている。

このように伝統的な経営コンサルティング「ビジネス」は相応の広がりがあり、恐らくここ20年くらいでかなり多様化と発展してきていると思っている。この進化を見るのは、業界関係者の一人としては面白いと思っている。私自身はコンサルティングはライフワークであり、今のファームから離れても何らかの形でコンサルティングは続けると確信している。そのためこのような伝統的なコンサルティングを超えた在り方は少し意識的に見るようにしている。

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