コンサルティングファームを起業

先般、幾らかの年数を勤務してきた経営コンサルティングファームを退職し、ビジネスDDに特化したコンサルティングファームを立ち上げた。このファームのコンセプトは「戦略コンサルティングファーム並みの品質を会計ファームよりもリーズナブルなフィーで提供する」というシンプルなものであり、ウリとしては「大手経営コンサルティングファームのPE担当パートナーがデリバリーにもフルコミットする」という点が挙げられる。筆者自身は前職では恐らく日本支社の何十年かの歴史の中で最もビジネスDDを担当したと思われる人間であり、ビジネスDDは好きだし、それなりに得意だと思っており、ファームに所属するよりもそれに特化したファームを自ら立ち上げた方がより自分の強みを直接的に活かせるという考えから今回の決断に至った。

目標としては立ち上げたファームがビジネスDDの分野における第一想起になること、言い換えるとこの分野での「カテゴリーキラー」になることが挙げられる。プロフェッショナルサービスの分野ではIRコンサルティングならIRジャパン、企業価値算定ならプルータス・コンサルティング、成果報酬型コストカットならプロレドパートナーズといった具合に、カテゴリーキラーが存在しており、当社もまたビジネスDDの分野でそのような地位を築きたいと考えている。

少しマクロ的な視点に立つと、この起業は日本の事業承継のトレンドに載ったものであると考えている。統計的に見ても日本のミッドキャップ・スモールキャップのM&Aは増えており、その根底には事業承継がある。このトレントを上手く捉えた、さらに言えばトレンドを作り出したのは日本M&AセンターやMACPなどのM&A仲介会社であり、その受け皿の一つとしてPEファームがあると思っている。実際にミッドキャップ・スモールキャップのM&Aを見ていると優秀な創業者が高齢化に伴い引退を考えた際に、従業員に対する承継はケイパビリティ的に難しく、かといって競合には売却したくなく、またIPOするほどの規模でもないといった時にPEへの譲渡は一つの有効な選択肢になっているという事例が多い印象である。創業社長が事業売却を考えたときにPEと初期的な議論をすると、恐らくは「この人たちはちゃんと自分の会社を『経営』をしてくれそう」ということを直感的に感じるのではないかと筆者は推察している。ミッドキャップ・スモールキャップのバイアウトの対象となる会社の多くでは社長や副社長などの1〜2名の特定の人物に経営機能を担っており、組織として経営するという体になっていないことが多い。そしてこの特定のメンバー以外の人達は営業や製造といった特定オペレーションは担えても、経営という別の機能を担えるかというと、そのような視点で仕事をしてこなかったためになかなかできない、というのが実態であるように見える。一方でPEファームは投資とバリューアップを生業としているために、創業者長が事業承継の文脈でPEファームと対峙すると、PEファームが有する経営支援機能に価値を感じるのだと考えている。

筆者は日本の企業の多くではプロフェッショナルマネジメントという概念が広まっておらず、それがために様々な弊害が生まれていると考えている。逆にプロフェッショナルマネジメント機能を企業、特に中小企業に埋め込むことができれば更なる飛躍ができると信じており、PEは(一義的には会社に投資をして売却することでリターンを生み出すことが目的であるものの)マクロ的にはプロフェッショナルマネジメントの移植を担うことで直接的・間接的に社会に対しても貢献していると考えている。そして筆者自身が立ち上げたファームもまた、プロフェッショナルマネジメントの普及に間接的に貢献することが出来るので、単なるお金以上の意義が一定程度あるのではないかと信じている。

これまでのところは幸いなことに主にPEの方々から幾らかの依頼が来ており、今のところは想定以上に順調な滑り出しであり少し安心をしているというのが本心である。特にミッドキャップ・スモールキャップのPEファームはこのようなサービスに対するニーズは想像以上にあり、また構造的に大手戦略コンサルティングファームは手がけることが難しく、また誰でもが参入できるという領域ではないため事業立地的にも悪くはないと考えている。なお、今のファームの律速条件は既に案件数ではなく筆者自身のキャパシティになっているために、採用も行っている。イメージとしては20代のプロフェッショナルファームに所属している職人気質的な人物を想定しており、報酬は少なくとも戦略コンサルティングファームよりは遥かに高い水準を出す予定でいる。戦略コンサルティングファームよりも高い給与水準を出すということ二つのことを意味している。一つ目は戦略コンサルティングファームで平均的以上のパフォーマンスの人しか採らないということであり、二つ目はそれはファームとしては急激な成長は目指さない、ということである。当たり前であるがトップノッチの人材の採用は簡単ではなく、ということはその分、成長は期待できないということを意味する。筆者自身は急激に成長させて質を落とすということは絶対に避けたく、目指すはあくまでも古き良き徒弟制のギルド的なファームである。規模は小さくても高い質のコンサルティングを提供することで業界内でリスペクトされるファームを作りたいと思っている。

色々と書いたがこのような考えの基で質の高い仕事をしていきたいと思っている。ただ結局のところ立場こそ変わったもののやっている仕事の中身はこれまでと大きくは変わっておらず、ブログの内容も引き続き「経営コンサルティングの現場から」をコンセプトに雑感を描いていきたいと思っている。

今後も本ブログをよろしくお願いします。

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