経営者の仕事

筆者は経営者の仕事とは結局のところ、(企業価値向上を目的とした)変化を起こすことだと思っている。このブログでも何度か書いているが、企業の組織は「昨日やったことを今日もやり、明日もやる」構造になっていると認識している。一方で事業環境は刻々と変化をする。顧客のニーズが変化するかもしれないし、競合が新しい製品やサービスを提供するかもしれないし、原料調達が難しくなるかもしれない。あるいは工場の稼働が上限に達するかもしれない。このように市場・競争環境、あるいは内部環境が変化している中で、組織のオペレーションが変化しなければ、過去では最適であったかもしれない当該企業のやり方が最も優れたものではなくなる可能性がある。またより未来志向に考えれば、今日では現在のオペレーションが最適であるかもしれないが、将来を見据えると変化が必要な状況もあるかもしれない。また事業環境が現在も将来も変わらなかったとしても、企業のオペレーションにはより良くする機会が残っているかもしれない。

このように企業は絶えず変化を起こす必要性に迫られる。そしてこのような状況においては経営者以外(以降は本稿では「現場」と呼ぶ)であっても一定程度の変化は起こすことはできる。営業のやり方は担当者レベルでも部長レベルでも変えることはできるし、顧客ニーズに合わせた開発もできる。トヨタは「絶え間ない改善」を掲げており、現場では絶えず変化を起こしている。ただそれでも現場で起こせる変化には限界がある。工場の稼働が上限近くに達したときに、新たな工場を作るなどといった投資が必要な判断は通常であれば経営者にしかできない。間接営業から直接営業に切り替えること、海外進出を決めること、事業撤退なども同様である。これらはいずれも経営資源の分配であり、それらは一般的にも経営者の仕事であると言われているが、本稿で述べる経営者が担うべき変化は必ずしも経営資源の分配に掛かる意思決定だけとは限らない。通常は現場の仕事とされることであっても、その程度が劇的であれば経営者の仕事となる。例えば著しい価格政策の変更や開発アプローチの大幅に変えることはなどは、その程度によっては現場ではできないことであり、それは経営者の仕事の範疇となる。

このように考えると経営者の仕事はその企業の事業ステージによっても異なるし、同じ業種の同じ事業ステージにいる会社であってもオペレーションとそれを担う組織に構造が違えば当然異なる。そのため結局のところは経営者の仕事は個別論であり、一般化することは難しいのである。もし一般化する必要があれば、これまで述べたように「現場では起こりえない変化を起こすこと」という概念的な説明しかできないのではないかと筆者は考えている。

ただこのようにいささか概念的な定義であっても行動に結びつくことはできる。経営者が「当社はどのような変化を起こすべきか?そのうち自分が決断しなくても起きるであろう変化は何があるのか?そして自分にしか起こしえない変化は何があるのか?」といった観点で自社を俯瞰すれば、何らかの行動の指針は浮かび上がるのではないかと思っている。

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