「雇われ」パートナー

コンサルティング業界の小噺。

コンサルティングファームではプリンシパルやパートナーになると人事部からプロジェクトにアサインされることはなくなり、自らが能動的に動き提案活動をし仕事を依頼されプロジェクトのデリバリーの品質保証をすることが求められる。

ただ当たり前だけれどなかなか仕事を依頼されるようになるのは難しい。そのため現実的にはシニアパートナーが持っているクライアント企業との関係性の中から生まれる提案の種を引き取り提案書を書き、依頼されるプロジェクトの品質を保証するといった形になることが多い。特に大口のクライアント企業ではさまざまなコンサルティングのテーマが議論されており、シニアパートナーからすると「手が足りない」ことが多いため空いているパートナーやプリンシパルにも声を掛けて手が回っていないテーマを担当しもらうことが多い。手の空いているパートナーやプリンシパルも一定の稼働は必要であり、また安定したクライアントを担当することは重要であるためその話に乗るのである。

以前にあるプリンシパルはこの状態をやや皮肉を込めて「雇われパートナー・プリンシパル」と呼んでいた。確かにこのようにシニアパートナーがクライアントとの関係性を持っていると若干、「高級リソース」っぽくなりあまり面白くないことが多い。特に大口クライアントを担当するコンサルティングファーム内のチームも良くも悪くも統率が取れているためプリンシパルやパートナーの自由度が低くあまり好き勝手できないのである。また社内での調整も色々と発生し単純に面倒なことも多いのである。

一方で自分が直接クライアントから声を掛けられ提案しプレジェクトのデリバリーの責任を持つと非常に自由に仕事ができるため楽しいのである。必要に応じて「重し」としてシニアパートナーを巻き込む場合もどちらかというと「自分がシニアパートナーを雇っている」状態になるため面倒な調整も発生しない。いうまでも原則として「雇われ」ではない方が望ましいし、何よりも楽しいのである。

この「独立パートナー・プリンシパル」は非常に楽しいのだが、実はこれにも問題があると思っている。それは小さくまとまりコンサルタントとしての学びが限定されてしまうことにある。基本的に自分が主となり必要に応じて業界や機能知見のあるパートナーやシニアパートナーを巻き込むという動き方をすると、確かに働きやすくはあるがこれではプロジェクトのデリバリーを超えたコンサルティング活動全体が自分自身のコンサルティングスタイルの幅に限定されてしまうため、どうしてもテーマが偏ってしまったり社内での学びが少なくなってしまうのである。やはりシニアパートナーがシニアパートナーであるには理由があり、そこからパートナーやプリンシパルは学ぶことは多いのである。(またシニアパートナーですら更にシニアな人と一緒に働き「色々と学びが多かった」みたいにいうこともある。)これによってコンサルタントとしての幅と厚みが増すのである。また瑣末なことではあるがこの働き方だとあまり多くのシニアパートナーと働かないため社内での評価が上がりにくいといった現実的な問題もある。

実際問題としてコンサルティングが産業として日本よりも成熟しているアメリカやドイツなどの働き方を見ているとほぼ間違いなく大口クライアントごとに統率のとれたチームが形成されている。おそらくコンサルティングファームの組織としてのあり方はそれが最適解なのであろう。

そのため現実的には「雇われ」「独立」の状態をうまくバランスさせることになる。半分から7割くらいの時間は「独立」で活動し、残りは「雇われ」で働くのがいいと思っている。特に「独立」で稼動も問題なく仕事ができてしまうとそれが楽しいためなかなか「雇われ」になりたいと思えないのが自然である。しかしせっかくファームにいるならば少し長期的な目線に立って理性的に「雇われ」の状態になってみるべきだろう。もしもそれがあまりにも楽しくないなら「独立」に戻ればいいしそれで社内の評価が下がるのであれば最悪、本当に独立してもいいのである。

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