スーパーアナリスト問題は本当か?

コンサルティングファームは究極的にはパートナーとノンパートナーに二分されるが、一般的には、アソシエイト/アナリスト、マネージャー、パートナーの三階層に分けられ、階層によって求められる役割が異なる。そのためたまに「スーパーアナリストであっても、必ずしもスーパーマネージャーではないし、スーパーマネージャーも必ずしもスーパーパートナーになるとは限らない」といったことが言われる。

この背景には結局のところ、アナリストやアソシエイトは自分の仕事だけをできれば評価されるが、マネージャーになると自分がプレーヤーとして仕事を回すだけでなく、上手く他のチームメンバーをレバレッジしながら仕事を回す必要がある、またパートナーは「営業的側面」(何度もこのブログで述べている通り、本来コンサルティングファーム は営業はするべきではないためあくまでもカッコ付き)があり、それはプロジェクトを回すマネージャーとは求められる能力が異なる、という考えがある。

これはこれで理屈は正しいと思うが、一方で私の周囲で早く昇進してきた人たちを見渡すと、あまりこの「スーパーアナリスト問題」に直面していなかったように見えるのである。アナリストやアソシエイトでパフォーマンスの高かった人はマネージャーでもパフォーマンスが高く、そのまま早々にプリンシパルに昇進し、更にはパートナーにもそれなりのスピードで昇進している印象なのである。逆にスーパーアナリストやアソシエイトではあったが、その後、マネージャーやプリンシパルで苦戦している、という人は印象としては私の知る限りあまり見かけないのである。結局のところ優秀な人はどの職位でも優秀なのである。優秀な人は昇進とともに新しい役割が求められたら、それに器用に対応しているのである。

もちろんスーパーアナリスト/アソシエイトであることはスーパーマネージャーやパートナーの必要条件であるとは思わない。中にはアナリストやアソシエイト時代は平均的なパフォーマンスであったり苦戦したりしたりしてもその後、マネージャーになってからは活躍し、そのまま更に昇進していったというパターンもある。ただスーパーアナリスト/アソシエイトであれば、マネージャーやプリンシパル・パートナーとしてもパフォーマンスが高いことが大半な印象であり、言い換えるとスーパーアナリスト/アソシエイトであることはそれ以降でも活躍する十分条件ではあるように思えるのである。

これはそもそも「スーパーアナリスト問題」が実は幻想であった、あるいはここ最近入社した人たちは昔よりも優秀になったということかもしれないが、私はこれはここ10-15年くらいで戦略コンサルティングファームの組織が日本において幾らか変わったことが理由ではないかと思っている。要するにシステマチックに育成できるようになってきたのではないかと考えている。

まずはここ20年の採用状況を考えてみる。日本においては2004年くらいから2009年まで(金融危機前まで)は各戦略コンサルティングファームは新卒採用を増やしており、その後、金融危機で数年、採用が減ったもののその後はまたすぐに採用人数を2004年から2009年までの水準に戻ったと理解している。この2004-09年の新卒入社組は日本でそれなりの人数(大手なら20-30人規模)が継続的に入社した初めての世代であると考えられる。逆にそれまでは2000年頃までは戦略コンサルティングファームに入る新卒は少数派であり、中途が主体であったのである。

コンサルティングファームはクライアントに高い品質の成果を届けるためにはノンパートナーの育成が必要であり、04年以降、新卒入社組が増えたとするならば、当然、それまでよりも新卒の育成に力を入れる必要が出ると論理的には考えられる。特に新卒であれば中途と異なり、一から育成する必要がある。そして結果として各ファームは働き方や育成方法の見直しをしたのではないかと思われる。またこの世代が入社してからは10-15年が経過しており、各社でこの世代でパートナーになった人たちがそれなりの人数出ているため、育成を仕切るマネージャーからパートナーまでが(中途入社組であっても)この育成方法見直し後の世代になったと考えられる。実際に私が所属するファームでも他のファームでも、昔は長時間労働、建設的でない罵倒などのパワハラ行為といった「古き悪き」働き方が何も疑問を持たれずにされており、それに堪えた人たちだけが残っていったようであるが、これが04年から10年くらいの間にかなり変わったと見られる。私もそれなりの年数、ファームにいるが幸いなことに私自身が直接、そのような「パワハラ上司」に直面したことはない。また社内での育成プログラムとしても「大きい靴に足を合わせろ方式」から、新しい職位と役割に就く際に上手く移行できる様々な仕組みや工夫ができてきたように思える。過去の自分自身の昇進に伴う役割の変化を思い出すとかなり自然にできたと思っているし、当時もファームや一緒に働いた「お兄さん・お姉さんたち」はかなり丁寧にサポートをして貰っていると思った記憶がある。

この「古き悪しき」働き方が変わったのは印象としては昨今のいわゆる「働き方改革」が言われるよりも前から始まったように思われ、それは結局のところは新卒が増えて相対的に社員育成の重要性が増したからではないかと私は思っている。コンサルティングファームの人たちはよく言われる通りそれなりに合理的思考をする傾向があり、そんな合理的な人種が働き方を変えているのだとしたら、それは「時代に合わせた」といった曖昧な理由では無く、もっと明確な考えがあったと考えるべきだろう。

このように新卒が増えてそれに合わせた育成方法に取り組んだ結果、より昇進による役割の変移が円滑に進むようになったのではないかと思っている。そしてこれは新卒入社組だけでなく中途入社組にも当てはまる。育成というと研修などがイメージされるかもしれないが、もちろんその意味(だけ)ではなく、コンサルタントが次の職位に変移するためのサポートの仕方をファームが組織として習得したためであると考えている。これは必ずしも明示的に文書化・体系化されたものだけではく(むしろそういったものは少ないかもしれない)、パートナーやプリンシパル、マネージャーが暗黙的に役割間の変移をサポートできる方法を身に付けたからであると思っている。次の職位に移る前の準備期間のようなものを設けたり、優秀なコンサルタントを更に伸ばすためのアサインメントやファーム内でのキャリアパス設計などに知見が溜まり、結果として昔よりもスムーズにこの変移ができるようになったのではないかと思っている。少し雑に表現すれば「育成方法を組織が体得した」と言えるのではないだろうか。これはファームによっても事情は多少は異なると思うが、少なくともどのファームも新卒/中途の比率がここ10-15年で変わったことは間違いないし、そうであれば育成方法の変更は求められてきたとは論理的には考えられるはずである。そして合理的に考えれば各ファームはそれに対応したと推測することは自然といえるだろう。

アナリストやアソシエイトの中にはこの「スーパーアナリスト問題」に不安を持つ人もいるかもしれない。これはスーパーアナリスト/アソシエイトに限らず、多くの人は新しい役割に移ろうとしている人も同じ不安を抱く人もいるだろう。もちろん職位によって求められる役割が異なるのは事実であり、絶えず自己変革をすることは求められるが、個人的には過度には気にせずにアナリストやアソシエイトはもちろんのことマネージャーやプリンシパルも「普通に」やっていれば、自然と新しい役割に変移できると信じて目の前の仕事に取り組んでいけばいいと思っている。

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