ダンダダン酒場を運営するNatty Swankyをデューデリする

2019年3月にNatty Swankyという会社が東証マザーズに上場した。

同社は「肉汁餃子製作所ダンダダン酒場」(以下ダンダダン酒場)という餃子チェーンを専業で運営している。会社自体は2001年に設立されているが、初めてダンダダン酒場を調布に開店したのが2011年でそれ以降はほぼ同ブランドに専念し18年12月時点では66店舗(直営店47、FC店19)を関東で展開している。この会社とブランドは個人的には事業立地(ポジショニング)と成長性の観点で非常に面白いと考えている。 少しビジネスデューデリジェンス的なアプローチで考察してみる。

まずは事業立地に関して。ダンダダン酒場は「肉汁餃子製作所」という名前からも分かる通り、餃子を前面的に打ち出しているため一見餃子チェーンに見えるが本質は居酒屋である。38品目のメニューを見ると実は餃子は焼餃子と水餃子しかなく残りは典型的な居酒屋のメニューである。実際に店に行ったりツイッターを見たりしていると居酒屋的な利用が多く店舗もそのような造りになっている。ただし同ブランドは居酒屋として見た時にはいくつかの特徴がある。まずは利用シーンが多いことである。居酒屋だと夜しか利用できないが、餃子であればランチや夕方の小腹を満たすニーズにも答えられる。また飲み会のあとの〆や独り呑み/食事(餃子と卵かけごはんとつまみ一品とドリンク一杯で1500~2000円程度)といった利用もできるため居酒屋よりも利用シーンが幅広い。これは餃子の商品特性の強みと言えるだろう。

出店している場所も調布、分倍河原、八王子、平和島など東京の西の郊外に出店しており、仕事帰りの飲み会や食事の需要を上手く捉えていると考えられる。店舗の内外装も「チェーン店っぽくない」仕上がりとなっており「街の居酒屋さん」の地位を獲得しようとしている意図が感じられる。実際、知人に聞いてもチェーン店ではないと思っていた人が多かった。

また居酒屋の中では同ブランドはかなり安い。概ね客単価が2000円程度であり、これは居酒屋平均の3500円と比べると大きく低く、安いことを前面に出している鳥貴族と同じ水準である。なお餃子の王将や大阪王将の客単価は1000円を切っており、ダンダダン酒場はこれらとは性質が違うことが分かる。餃子の味も餃子の王将や大阪王将は良くも悪くも「家庭の味」がして、「ここでしか食べられない」といった味ではないのに対してダンダダン酒場の餃子の肉汁が溢れ感じはなかなか家では真似できない味になっている。(その分、1皿6個で餃子の王将が240円なのに対し同ブランドは460円となっている。)ただし鳥貴族と異なりダンダダン酒場は安いことはウリにはしていない点は着目するべきである。原材料の高騰などで値上げしたときに鳥貴族ほどは客離れが起きにくい可能性が高いと考えられることは強みだろう。

このような特徴があるが、同ブランドはマクロ的なトレンドを上手く捉えた事業立地になっていると考えられる。具体的には居酒屋という業態の変遷を上手く捉えているのである。今では信じられないが和民などの居酒屋チェーン(ここでは総合居酒屋チェーンと呼ぶ)という業態が出てきた80-90年代当初は「安く、手軽に飲み会ができる」ことがウリであり実際に行列ができていた(らしい)。しかし最近は飲み会の数が減ってきておりアルコール離れなども起きていることもあり、居酒屋市場はほぼ一貫して縮小しまた単価も減少している。そして総合居酒屋チェーンに取って代わる形で出てきたのが鳥貴族や串カツ田中そしてダンダン酒場などの新しい居酒屋チェーンである(ここでは専門居酒屋チェーンと呼ぶ)。専門居酒屋チェーンは何らかの看板メニューがありそれを前面に出すとともにオペレーションも一段と磨き込み昔は安いとされてい総合居酒屋チェーンを更に下回る客単価(概ね3500円 vs 2000~2500円)でサービスを提供してきたのである。加えて店の造りも大人数の宴会を想定していた総合居酒屋チェーンとは異なり少人数の飲み会や一人でも座れる二人席を中心にしている。

もちろん総合居酒屋チェーンも挽回するべく食事の質やサービスや席配置もリニューアルしているが、少なくとも多くの消費者にとっては昔の「典型的な居酒屋チェーン」のイメージがある人が多いのではないだろうか。このように時代遅れになってきたと見られる総合居酒屋チェーンだが、実は全国にはまだ数千店舗の店が存在する。モンテローザで約1700店、チムニーで約700店、その他にも大庄、コロワイド、ワタミなど多数の企業が複数のブランドを展開している。一方で専門居酒屋チェーンはまだ出始めたところであり、上記に挙げた鳥貴族で700店程度、串カツ田中で200店程度とまだまだ少数である。そのためマクロ的には総合居酒屋チェーンよりも専門居酒屋チェーンの方が味と価格と利用シーンの観点で優れており消費者は総合から専門に流れている大きな流れがあると推定できる。

もし上記仮説が真であったとするとダンダン酒場の「本当の競合」は餃子の王将や大阪王将ではなく、また同じ専門居酒屋チェーンの鳥貴族でも串カツ田中でもなく、総合居酒屋チェーンであるといえる。仮に鳥貴族や串カツ田中の方が専門居酒屋チェーンとしては魅力的であったとしても、消費者が総合居酒屋チェーンから専門居酒屋チェーンに移行し続ける限りは同ブランドには一定数の顧客が流入し続けると言えるだろう。これがマクロ的には成長を支える要因となる。

このようなマクロトレンドに同ブランドを上手く捉えていると見られるがオペレーションも少なくとも大手とは十分に伍していると言える。FL(Food+Labor)比率も60%を切っており、これは餃子の王将や鳥貴族の65%前後よりも優れている。品目の絞り込みや厨房の小型化、ネット広告に注力「しない」ことなどの工夫もしている。顧客からの支持の代替指標と言える既存店昨対売上高も100をやや下回っているものの年々改善傾向で前期は98であった。ネットの口コミサイトを見ても肯定的な意見が多く点数も高い。

一方で成長性という観点でも同ブランドは魅力的である。同社は東京に新宿以西の郊外は概ね出店しきったように見えるが、埼玉、千葉は18年12月時点で5店舗も出しておらず神奈川県もまだ手薄である。そのため常磐線沿線、埼京線といった東京郊外に繋がる路線にこれまでと全く同じような店舗を複製し続ければ単純にその分だけ売上高が増えることが期待できる。既に東京郊外で証明されているビジネスモデルをシンプルに複製するだけで成長が期待できるのは非常に強い。一般に成長には常に不確定性が付きまとうが、同社の出店による成長はかなり不確定性は低いと考えられる。また全国にも同社はFCを通じて展開する計画でありFC収入の伸びも期待できる。実際、鳥貴族も2005年時点では50店舗程度であったがその4年後の2009年には150店舗を突破しており、ダンダン酒場も同じように化けることは十分にあり得るだろう。実際に同社の経営陣も年間20店舗くらいは増やす計画としておりこれは過去の年間15店舗の出店実績(と既存店昨対売上高の実績)に鑑みると無理な水準ではないはずである。

長期的には全国に2000店舗以上存在するイオンなどに別業態(例えば食事を中心にしたファミリー層向けの「ダンダダン『食堂』」)を展開することも一案ではあるが、これは優先順位は低いだろう。経営として注力するべきはまだ白地の地域での直営店展開でありそのための体制構築だろう。外食企業では多店舗展開してエリアマネージャーや優秀な店長が新店に周り結果的に既存店のオペレーションが崩れることが多いのでそれを避けることが必須であろう。以前にも述べた通り、鳥貴族の失速の要因の大半は内部環境にあり自滅でありこれが起きてしまうことが最大のリスクだろう。

これらは全て外部からビジネスデューデリジェンス的に見た視点であるが、今後同社がどのように事業が展開されるのかは注目するに値するだろう。

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