長時間労働回避に必要な哲学

働き方改革が話題だ。最近は殆どの企業でも働き方改革の名の下に労働時間の削減と効率化のための活動を行なっているように見える。長時間労働で悪名高かった外資系投資銀行なども労働時間を減らすためにジュニアが以前よりも早く帰宅するようになってきている。このような流れは個人的には良いことだと思っている。ただこのような活動をする際は単なる掛け声や労働時間の削減という表面的な目標を掲げるだけでなく、意識の面を変えることの方がはるかに重要だと考えている。

私自身は激務とされる経営コンサルティングファームに相応の年数働いてきたが、ジュニア時代から比較的労働時間は短い方だった。ジュニア時代もプロジェクトによって大きく異なっていたものの平均すると09:00-20:00程度であった。もちろん週末の労働もほぼゼロである。マネージャー以降もあまり変わらず、今でも週末はほとんどメールを見ることはない。もちろんプロジェクトによっては人間の限界を超えているのではないか、という次元の長時間労働をすることもあるが、平均すると8時前には帰れている。その理由は、私自身が比較的効率的に仕事を進められることが得意なことはあるが、最も大きいのは労働時間に対する自分なりの意識、少し大袈裟に言えば哲学があることが挙げられる。

労働時間に対する自分の哲学は下記である。以下ではこれらを述べていく。
①長時間労働は悪である
②誰もが長時間労働の回避するべきである
③意思と工夫により大半の長時間労働は回避可能である
④ただし品質担保のためには長時間労働は避けられない場合もある

長時間労働は悪である。これは当たり前と思うかもしれないが残念ながら心の底からそのように考えていない人もいる。人によっては口先ではともかく、心の底ではいい仕事は長時間労働から生まれる、と信じている人もいるように見受けられる。長時間労働は美徳である、と。日本昔話などでも「おじいさんは働き者でした」というような言い方で根底には長時間労働を美徳とするような考えも多い。これは原始的な農業が中心で労働時間と生産量が比例した時代にはなりたった話だろうが、頭脳労働が中心の現代ではそれは該当しないだろう。ただこの議論は究極的には神学論争になると思うので、それはあまり議論するに値しないと思っている。個人としてはそのような環境に直面したら議論するのではなく、さっさと逃げるべきだと思っている。環境を変えるべきなのである。

誰もが長時間労働の回避するべきである。これも当たり前に見えるが、誰もが、としているところにポイントがある。仕事は基本的にはチームで行うものであり、チームの誰もがその意識を持たなければ長時間労働は回避できないのである。コンサルティングファームでいえばパートナーはプロジェクトのスコーピングをマネージするべきで、無理なスコープで受注するべきではない。マネージャーも仕事をジュニアに割り振る際には労働時間を意識するべきだし、ジュニアも労働時間が長くなりそうであれば、それをチームに伝えるべきである。またジュニア・シニアに関係なく関係者の労働時間の削減にコミットし、もしも長時間労働になりそうであれば、それを削減するための問題解決をチームとしてするべきである。シニアは必要に応じてWhatだけでなくHowに関するガイダンスも出さないといけないのである。

意思と工夫により大半の長時間労働は回避可能である。これも神学論争に近いことではあるが、私の経験上、大半の仕事は長時間労働の回避が可能である。私は大抵のプロジェクトが終了時には「もしタイムマシンがあって、プロジェクト初日に戻ったとしたらどのようにしたらもっと効率的にできただろうか?それは実際にはなぜできなかったのか?」といった問いを自分自身にもチームにもしている。それを考えていくとかなりの無駄があるし、それはちょっとした工夫で避けられたことも多い。常にどうやって効率化するべきかを考え続けるべきである。(私自身は仕事において「スライド歩留り」を重視しているが、この話はまた別途。)

ただし品質担保のためには長時間労働は避けられない場合もある。プロフェッショナルとして仕事の成果物の品質担保は何よりも大事であり、もしそれができないのであれば長時間労働をしてでも品質を向上させなければならない。品質は長時間労働を避けるために犠牲にしてはならないのである。品質と長時間労働は比例関係にはあるわけではない。ただし状況によっては時間で解決せざるを得ない時もある。これまでに述べてきた通り大半の場合は短い労働時間でも品質は担保できるが、プロフェッショナルはあくまで最高の品質を目指すべきなのであり、決して働き方改革の名の下に品質を妥協してはならないことは忘れてはならないのである。

長時間労働は悪であり効率的な働き方を誰もが目指すべきである。ただその時には小手先のことに囚われずに信念を持って臨んでみるといいだろう。

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