人間的成熟

経営コンサルティングファームをはじめとするいわゆるプロフェッショナルファームの年齢構成はかなり若い。ファームにもよるがプロフェッショナル職全体の概ね80~90%程度はプロジェクトのデリバリーを担当するノンパートナーで構成されており、彼ら・彼女らの大半は20代後半から30代前半である。新卒であれば入社時点では20代前半であり、また中途であっても30歳前後でアソシエイトとして入社することが一般的である。そして昇進のペースが早いため、プロジェクトの最終責任とクライアントとの関係構築を担うパートナーには新卒であれば早いと30代前半で、中途でも40歳前後には就任することが多い。

このように日本の平均的な大企業と比べるとかなり若くして相応の立場の人と対峙をすることが求められるため、かなり若いうちからある種の成熟を意識する必要があると思っている。人間的な成熟とでも言ってもいいかもしれないし、もう少しカジュアルには「大人になること」と表現できるかもしれない。この「大人になる」というのは様々な側面があり一言ではとても言い表すことはできいが、一つの要素として我から離れる、ということはあるのではないかと思っている。

自分のことは棚に上げると、「大人でない」と感じられる人はどうしても我が前面に出ているように思えるのである。「自分の」分析、「自分の」意見、「自分の」貢献、といった具合に主語が自分になってしまっているのである。これにはいくつかの理由があると思っている。一つは若いうちは不安も常に抱えているためその裏返しとしてどうしても「自分を証明したい」という気持ちが出てしまうためだと思っている。特にプロフェッショナルファームであればそれなりに要求される水準は高いため、評価が気になってしまい、自分を証明したくなってしまうという側面もあるだろう。

二つ目は(一つ目と通じる部分はあるが)自己顕示由来のものである。若い人には不安の有無とは別に「自分が凄い」ということを周囲に知らしめたいという原初的な欲求があるように思える。これは人間に限らず、動物であっても(特にオスであれば)本能に組み込まれたものではないかと思っている。ましてやプロフェッショナルファームにいる若いアナリストやアソシエイトは高学歴で、それなりに難関と言われる面接を潜り抜けて、同世代よりは収入も高いため、それを顕示したいと思うのはある意味でとても自然なことではないだろうか。

最後の要素としては、人間には根本的に自分を理解されたいという欲望があるということもあると思っている。これは一つ目、二つ目とも重なりはするが、一つ目の自分を証明することであり、二つ目は自己顕示であるのに対して、三つ目はただ単に理解されたいという欲でありやや性質が異なると考えている。インターネットスラングを用いれば「自分語り」をしたいのである。実際に小学生などの本当の意味での子供を見ているととにかく自分の話をする傾向がある。しかし大抵の場合は思春期を経て、他人はそこまで自分に関心がないということに明示的・非明示的問わず気付き、社会に適合していくのである。

少し長くなったが言いたいのは若いうちは我が前面に出てしまう傾向があるということである。一方でプロフェショナルサービスにおいては主語は基本的にはクライアントであるべきであり、当たり前ではあるが決してコンサルタントであるべきではない。またシニアコンサルタントであれば一社のクライアント企業から離れ、産業や国家を語るべきなのである。もちろんプロフェッショナルファームに来るような若い人たちはとても優秀であり、少なくとも頭では我が前面に出るべきではないことくらいは理解している。ただそれでもかなり意識しないとやはり「我」が漏れ出して、クライアントや同僚たちに透けて見えてしまうことも多いようにも感じられる。このような我は年齢を重ねるとともに自然現象的に無くなっていくと見られるが、冒頭でも述べた通りプロフェッショナルファームでは比較的若いうちに相応の立場の人と対峙することになるために、人間的成熟を自然のままに任せているだけでは、(人にもよるが)やや間に合わないように思えるのである。だからこそこのような職業に就いている人は特にそれを意識し、「我から離れる」ことを相当に気を付けるべきではないかと思っている。

特に厄介なのは優秀であることと我が離れていることは必ずしも相関しない点である。人間的には良くも悪くも(といっても主に悪くもではあるが)子供であってもアナリスト、あるいはアソシエイトとしては信じられないくらい活躍する人もいる。アナリストやアソシエイトであれば、例え(本エントリの意味で)人間的には未熟であったとしても分析、あるいはより広く問題解決が得意であればプロジェクトでは大きな付加価値を出せるし、実際にそのような人も多い。ただしよりシニアなクライアントと対峙し、またクライアントと会社対会社ではなくビジネスパーソン対ビジネスパーソンの関係構築が求められるマネージャー以降になるとやはり「我から離れ」られないと活躍することが難しくなってくるように思えるのである。だからこそアソシエイトやアナリストのうちからも例え個別の問題解決が得意であったとしても「我から離れ」ようと相当に意識するべきだと思っている。

ここまで自分のことは棚に上げて書いてきたが、自分自身の20代を振り返っても大いに我に囚われていいたと思うし、今でも果たして我から離れ切れているかは分からない。ただ20代後半からはそれなりに意識してきており、少なくとも相対的には大分マシになったのではないかと思っている。それでも幽体離脱して「3m上空から自分を眺め」てみると、(プライベートではもちろんのこと)ビジネスシーンにおいても自分語りをしているなあと思えることは今でもある。だからこそ、この人間的成熟は常に意識しなければならないことだと思っている。

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