大企業の組織力学に関する雑感

久しぶりのエントリ。またぼちぼちのペースで再開予定ですので宜しければお付き合いください。

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大企業に対する戦略コンサルティングプロジェクトに従事していると、つくづく効果的なアドバイザリーを提供するためには組織における力学を理解することは必須であることを実感する。これは大企業に居たことのある人であればある種当たり前だとは思われるが、新卒からプロフェッショナルファームに入社したアソシエイトやマネージャーはそれらへの感度はやはり低くなってしまう傾向があると思っている。

一口に大企業といっても個社によって組織内の力学は異なるが、最も大事なことは本社と事業部の関係性を理解することだと思っている。結局のところ事業を推進するのはあくまでも事業部であり、レポートラインとしては事業部長→CEO(COO)という形になっており、経営企画部や財務部などが属する本社は事業部に対する権限は通常は存在しない。一方の本社機能のレポートラインは財務部ならCFO→CEOだし、経営企画部ならCSO→CEOといった形に通常はなっているため、あくまでも本社と事業部は並列の関係になっている。そのため経営企画部や財務部などは事業部に対してはあくまでも「お願い」しかできない。そして事業部の力はかなり強いという前提に立つべきだと思っている。世間的には「辣腕経営者」と呼ばれる社長であっても多くの場合は想像以上に事業部に気を遣っている。社長は立場的にはレポートラインの頂点に立っているがそれであっても大半の場合はあくまでも「命令」ではなく「お願い」をして、あくまでも事業部が納得し自発的に何らかの施策を実行することにコミットしてもらうという形を取っている。そしてここでのコミットする、とは通常であれば予算に反映する、ということを意味する。社長といえども命令することはほぼできないのが大組織なのである。

このような基本的な組織構造において経営コンサルタントの直接のクライアントは経営企画部のような本社機能になることが多い。また事業部にサーブする場合であっても事業部の中の経営企画機能である事業企画になることが多く、事業部内における事業企画と営業部や製造部などのプロフィットセンターとの関係は本社と事業部の関係の縮小版となっており、事業企画はあくまでも営業部などに対して「お願い」しかできない構造になっている。

この関係を常に意識することは個人的には極めて需要であり、それは強調してもしきれないと思っている。例えばコンサルタントが本社にサーブし、「論理的に正しい戦略」を提案し、それが本当に正しかったとしてもそれを実行するにあたっては多くの場合、「事業部にこの戦略を実行して『貰う』ためには何をするべきか?」という論点が浮かび上がる。そして通常はそれは想像しているよりもはるかに難易度は高い。いくらこの戦略が正しく企業価値に貢献するとしても、それは実行されるとは限らないのである。別の考え方をすると論理的に正しく、かつそれが実行しやすいものであればそもそも高いフィーを支払ってコンサルタントなどを起用せずに当の昔に実行されているはずと考えた方がいいだろう。

結局のところ、このような正しいけれど実行が組織力学的に難しい戦略は事業の推進を担っている事業部にとって一定の痛みを伴うものであることが多い。以前にも述べている通り、企業は -特に大企業は- 「昨日やったことを今日もやり明日もやる」構造になっているため、それを変えるにあたっては相応のエネルギーが求められる。つまりは大企業においては戦略立案においては立案そのものだけでは片手落ちでありその実行に関しても手だてを打たなければならない。そして後者はロジカルレイヤーだけでなく、ポリティカルレイヤー、エモーショナルレイヤーも考慮した高度な問題解決が要求される。

実際に私自身が従事した戦略プロジェクトにおいても案外本当の意味でマーケットについて考えている時間は案外少なく、むしろそれをどのように実行も含めて組織に落とし込むのかについて時間を投入していることの方が多い場合もある。むしろそちらの方が多いかもしれない。これは言うまでもなく「良い悪い」の問題ではない。そのような実態に関して色々と思うことがないわけではないが、大事なのは大企業の組織とはそのようなものでありそこには合理性が存在しており、そのような前提でコンサルタントしてクライアント企業に向かい合うことが大事だと思っている。

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