オトナの会社になる局面

大学時代にあるスタートアップでアルバイトのようなことをしていた。今では上場企業となったが、私が初めて訪問した時は出来て数年目でまだ別の会社のオフィスの一角、正確には机の島一つ分を間借りしており、役員・社員総勢で8名の体制であった。その後、私がまだ大学生だった間に2回オフィスを移り、私が卒業した段階では40-50人規模にまで拡大していた。

そしてその時期に、この会社の社風のようなものが明確に変わったのが感じられた。創業メンバーは学生時代からの知り合いだったこともあり、それまでは一種、サークルのような雰囲気であった状態から「ちゃんとした会社」の雰囲気になったのである。言ってみればコドモの会社からオトナの会社になったのである。些末なことではメンバー同士がニックネームや名前を呼び捨てで呼び合っていたことから、どんなメンバーであってもさん付けで呼び合ったり、あるいは定期的な会議なども増えたりしたのである。そしてこれはある時期から明確に社風が変わったのでこれには創業メンバーによる意思決定があったことは間違いないと思っている。

最近会った別の会社のスタートアップのCOOも似たようなことを言ってもいた。その会社もここ2年で20人規模から50人規模に拡大し、それに伴い役割分担が明確になり、良くも悪くも「ドライになった」とのことである。それまでは創業メンバー同士がときには感情的な衝突もしないながら相互に依存していた状態から、互いの役割には基本的には干渉せずに淡々と業務を遂行するといった雰囲気になったそうである。

これらの会社を見たり聞いたりしていると、つくづく会社には局面というものがあることを感じさせられるのである。特に若いメンバーが中心となって創業した会社であると、創業期は若さゆえの勢いや情熱が原動力となって物事を強引に進めることが求められる局面であることが多い。次に徐々にメンバーが増えて、互いに何を手掛けているのかが分かりにくくなると、一定の管理が求められる局面に差し掛かるのである。職務規定や指揮系統が必要になり、併せて会議体、報告書などのツールやインフラが必要になるのである。

会議体、職務規定、業務プロセスと書くと旧態依然とした大企業のように聞こえ、若い会社にとっては一見まどろっこしく、否定的に捉えるかもしれない。確かに大企業には様々な非効率は存在することは間違いないが、それでもこのようなものが存在するにはやはり合理性が存在すると捉えるべきだろう。そしてスタートアップも大きくなるにつれてそのようなものが必要になることを認識しておくべきだと思われる。

当たり前であるがメンバーや取引先、顧客が増えると複雑性がまし、それらを効率的に裁く仕組みが必要なのである。特にメンバーが増えることにより、多様性が増すことには相当意識するべきだろう。創業時は情熱で物事を突破することが多いが、メンバーが増えるといくら理念などを共有していても、株式やストックオプションなど保有状況の違いから経済的な動機付けも異なるし、仕事に対する考え方も様々である。創業期とは違う局面では、そのように多様になったメンバーを束ねていくためにはやはり社風も変わるべきであろう。

会社には局面が存在してそれによって求められる体制も異なる。そして体制の変更には経営としての意志が必要であると言える。少なくとも放っておいて自然に管理体制やインフラ、ツールなどは生まれるとは考えるべきではない。そのため創業メンバーたちは自分たちの会社の局面を客観的に捉えて、定期的に何か変えるべき否かを検討するべきだろう。

もちろん若い創業メンバーのスタートアップの中には最初からある程度、オトナの会社である場合もある。以前に会った非常に若い創業者の会社では最初からさん付けの文化であり、ある程度の管理体制も構築していたようである。そのため全てのスタートアップがコドモの会社であるとは言わない。しかしそれでも事業の発達とともに局面というものは存在し、それによって求められる体制変化はあることには違いはないだろう。そのためオトナの会社であってもその中で体制をどのように考えるかは考える必要性はいずれにせよあるのである。

いくつかのスタートアップを見聞きしてそのようなことを考えたのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?