超優秀な若手の悩みと芸風

以前にスキルを考えるのはナンセンスだ、といったエントリを書いたがそれに関連したもの。

先日、とても優秀な若い同僚から「強みを持ちたいが何が自分の強みなのかよく分からない。どのように強みを見つけ、伸ばすべきか?」といった相談を受けた。この同僚はおそらく上位5%くらいパフォーマンスを出している人物であったため、そもそもそのような悩みがあったことに驚いた。話をよくよく聞いてみると「自分は確かに色々なことはそれなりにできる。しかし一つ一つのできることをみるとどんなことでも自分よりももっとできる人はいる」とのことであった。

一見もっともらしいが、これは「スキル君」的な発想で結構危ないと思った(またそのように本人にも伝えた)。結局のところ、仕事の要素で他人と比較可能なものは程度の差はあるが本質的にはスキルであると言えるだろう。つまり客観的かつ定量的に評価できる(そうに思える)仕事の能力のことである。しかしそのようなスキルで仕事を進めるのは原則としてはジュニアな仕事であり、シニアになればなるほど、コンサルティングであればマネージャー以降くらいは、スキルではない何か、言い換えると客観的には評価できない何か、が大事になってくる。またそもそもスキルであれば上記の定義であれば「自分よりも得意な人はいない」と言える人は会社ないし世界には一人しか理論上はいない筈である。そしてそれ以外の人は「自分よりも上手い人がいるからこれは強みにはならない」と思うのはナンセンスである。もちろん考え方としては「スキルの総合力」みたいな路線で勝負することはできる。つまりあるスキルは3番目、あるスキルは6番目に得意といった組み合わせで自分の「強み」を定義することはできるかもしれないが、これも所詮は「スキルで戦おうゲーム」から脱していない。

目指すべき方向性を考えるには言うまでもなく違う発想が必要である。つまり「スキルではない何か」を伸ばすという発想である。これを楠木建教授は「センス」と表現しているし、私はこれを「芸風」と表現している。芸風は(多少似ている・似ていない、という面はあるにせよ)本質的にはある個人にしかできない仕事のやり方であり客観的に評価不能なものである。少なくとも定量化はできないし、言語化も難しいものである。優秀とされるコンサルタント(特にパートナー以降は)には、あるいはビジネスパーソンには「いまいち端的には表現できないが、あの人にしかできない仕事のやり方」みたいなものがある。そのため優秀なパートナーが違う優秀なパートナーと全く同じことをしても、①全くうまくいかないし、また②そもそも全く同じようにできない。例えばシニアクライアントとの議論であるパートナーが言うととても説得力がでるが(いわゆる「刺さる」というもの)、別のパートナーが言うと全く「刺さらない」ようなことが起きる。このような芸風を確立することの方がスキルを伸ばすことよりもはるかに大事である。(ただしスキルも極めると場合によっては案外、シニアになっても身を救うことになるがこれはまた別の話。)

自分のプロフェッショナルキャリアの「戦略」、つまりどこでどうやって戦うのか、を考えるときはスキルを伸ばすという発想ではなく芸風を伸ばすという発想を持つべきなのである。

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