ミッションと行動規範

筆者は先般立ち上げたコンサルティングファームの前に三つのプロフェッショナルファームに在籍したことがある。そのうちのある戦略コンサルティングファームはパートナーになるまで過ごし、残り二社はかなり短い期間しか所属しなかった。しかし例え短かったととしても三つのファームに所属をするとファーム間での比較が可能となる。そしてその経験を通じて強く思ったこととしてミッションと行動規範の重要性が挙げられる。まただからこそ現在のファームではこれらを重視しているし、していきたいと思っている。

現在は大半の会社ではミッションや行動規範(バリュー)が掲げられている。実際に筆者が所属した三つのファームでも同様であったが、しかしその運用には天と地ほどの差があった。あるファームは非常に上手く機能しており、ミッションや行動規範はファームの戦略から人事評価、採用、日常のプロジェクトでの議論にまで一気通貫していた。一方で別のファームでは結局のところ入社初日の日本史社長の挨拶とグローバル研修でグローバルの社長のスピーチでミッションとバリューについて軽く触れただけであり、それ以外の場面でそれらと出くわすことはなかったし、おそらく大半の従業員はその存在を忘れていたと見られる。

個人的にはミッションや行動規範の価値は何らかの判断に迫られた時に、組織全体が共通の判断軸を持つことで、何らかの承認プロセスなどを経なかったとしても各々がファームが目指す方向性に向けて自律的に判断できることにあると理解している。これらが目的であったとすると、ミッションや行動規範が存在するだけでは意味がなく、それが実際の行動に結び付くことで初めて価値あるものになると言える。そしてそのためにはミッションや行動規範そのものよりも、むしろその運用の方が大事だと筆者は考えている。よく言われている通り、ミッションや行動規範は「綺麗な額縁」に入っているだけでは意味がないのである。

印象としてプロフェッショナルファームのミッションや行動規範はそこまで大きくは変わらない。(ただし良く良く読み解くとやはりあるファームのミッションと行動規範は個人的には深い思想が背景にはあり、極めて完成度が高かったとは思っている。)どのファームも概ね「立派なこと」が書かれており、それを実践できれば良いファームであると言える。そのためより重要なのはこの「立派なこと」を各プロフェッショナルに実践してもらうための仕組みを作り込むことである。そしてその仕組みは、正確にはその仕組みを構築し運用するために投下されるエネルギーは、ファームによって大きく異なる印象である。少なくとも筆者が所属した三つのファームでは大きく違っていたし、また他のファームの話を聞く限りも相当な差がある模様である。

この仕組みというのは結局のところはミッションと行動規範との繋がりを持たせることである。繋がりを持たせる先としては、ファームの戦略、プロフェッショナルの評価、コンサルティング提供のアプローチ、研修などが挙げられる。これらとミッションと行動規範がどのように繋がっているのかをファームとしてはまずは言語化し、その上でその理屈を広まるような仕掛けを作り、かつファームのパートナーたちは(そして将来のパートナーとなるアソシエイトたちは)この繋がりを繰り返し続ける必要があると思っている。特にプロフェッショナルファームは結局のところ「人商売」であるために、プロフェッショナルたちの中にミッションと行動規範が腹落ちしてインストールされないとほとんど意味がない。

筆者が立ち上げたファームでも先般、(幸いなことに)何名かのアソシエイトが入社してくれた。そしてアソシエイトたちを受け入れるにあたっては自分なりのミッションと行動規範を言語化し、入社初日にはまずはそれを伝えたし、また入社後のプロジェクト遂行に当たっても筆者自身が意識的にその行動規範との繋がりを明らかにしながら発言をするようにしている。また嬉しいことに既に何回かはアソシエイトたちもいくつかの行動規範を口にしてもらえることもあった。もちろんファームの発展とともにこのミッションと行動規範もまた進化していくと思うが、まずは最低限の形は整ったかと思っている。

ミッションと行動規範は一見抽象的なものであり、その価値は見えにくい。ともするとただの言葉遊びに見えるかもしれない。しかしこれを正しく運用すると、特にプロフェッショナルファームにおいては組織能力を高める強力なツールになると思っている。

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