事務事業の評価実施事例(足立区・杉並区)

先の記事で事務事業の評価基準を提言しました。

具体的な活用方法として、1.個別の事務事業の評価、2.事務事業全体の横串評価 が考えられます。まずは個別の評価例として、先の記事でも取り上げた足立区の高齢者入浴事業を評価してみましょう。


個別の事務事業の評価例

評価基準をシートにまとめてみました。根拠は必須としています。

足立区の高齢者入浴事業

改めて、足立区の高齢者入浴事業の内容を確認して、評価してみます。

先の評価基準シートに適用して評価した結果、こうなりました。

このように全ての評価項目で「いいえ」となりました。根拠を必須とすることで、議員や有権者からの指摘・修正が可能になります(特に、よりよい手法がないか、という評価基準は、よりよい手法を思いつく必要があるため指摘が有効です)。根拠が記載できない場合は、当然ながら評価結果は「いいえ」となります。
勉強会で取り扱った経緯もあり、本事務事業を取り上げたのですが、正直、この例は簡単すぎました。次に似たような事業の、杉並区「まちの湯ふれあい入浴」を取り上げてみたいと思います。

杉並区のまちの湯ふれあい入浴

こちらはかなり手強いです。まずはざっと見てみましょう。

https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/077/782/shisaku13.pdf

根拠法令として、老人福祉法が記載されています。

老人福祉法 第四条 第一項 国及び地方公共団体は、老人の福祉を増進する責務を有する。第十三条第一項 地方公共団体は、老人の心身の健康の保持に資するための教養講座、レクリエーションその他広く老人が自主的かつ積極的に参加することができる事業(以下「老人健康保持事業」という。)を実施するように努めなければならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338AC0000000133

ここでまず検討すべきは、必要性の基準の、必要最低限の義務かどうかです。老人健康保持事業を実施したり努めたりすればよいのですが、どこまでやればよいのか不明確です。老人の参加率を問われたりすると際限なく膨らみかねません。悪法だと思います。評価としては必要最低限を定義していない以上、「いいえ」とすべきです。評価基準の運用規則として追加しておくべきですね。
また、事務事業評価表の一連のPDF(https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/077/782/shisaku13.pdf)を見ると、まちの湯ふれあい入浴の次に、風呂っと杉並という入浴事業があります。重複する内容なので、法令を満たすための必要最低限内容ではないということになります。
必要性の基準のもう一方、代替調達方法がないかについては、地方公共団体が実施することが求められているため、杉並区でなければ調達できません。ここは杉並区が実施する必要性があると認めてよいでしょう。
次に、効率性を見てみます。よりよい手法はないか?というところですが、まずは別の支出が抑えられるような活動がベストです。個人的には、例えば区の委託業務へ高齢者を優先的に募集したり、清掃美化活動などボランティアへの参加を呼びかけることが思いつきますが、代替案の考案は広く求めるほうがよいでしょう。仮に代替案が無く、入浴事業を続けた場合でも、時間や対象の浴場を区切って、ボリュームディスカウントによる単価削減は狙うべきです。需要集約による単価交渉と規模の経済化による効率化は行政が担いやすいところですから、基本的に検討すべきです。費用対効果については、効果はふれあい入浴による親睦、社会参加、交流であるため効果は金銭的に計測可能でないと主張することでしょう。実際には、入浴したければ自分で入浴できるので、委託費の管理費やマージン、職員人件費といった費用がかかるだけマイナスです。需要促進になっていることは明らかです。
有効性を検討します。成果指標が利用者数、活動指標が実施回数となっています。目的を考えると社会参加や交流の増加でしょうが、入浴に参加したことをもって社会参加や交流が行われたと定義しているようです。この定義がおかしいのですが、事業の目的に「ふれあい入浴を利用することにより~」や「まちの湯健康事業に参加することを通じて~」と書いているので、強引にインプット=アウトプットとしたいようです。職員としては、適切に定量指標を定義していると強弁することでしょう。この論理でいくと、当該事務事業の効果への寄与度は100%となってしまいます。議員や有権者が、社会参加や交流の定義と測定方法を明確にすべきと指摘し、訂正するべきです。
公平性については、全く満たしていないことは明らかですが、老人福祉法を盾に法律の範囲内では公平だと強弁することでしょう。そこは必要性のところで論じるべきで、公平性は別個に評価するよう、運用規則を明確にすべきです。
最後に優先度です。老人福祉法で定められているから同順1位と主張することが懸念されます。やり方の見直し、規模の縮小はあり得るので、あくまで優先順位をつけてもらう必要があります。

上記の評価内容を評価基準シートにまとめてみます。まずは最悪の場合を想定した所管部署の自己評価版です。赤塗りは指摘して訂正させるべき箇所です。

評価基準シート_自己評価版

こちらが本来なされるべき評価です。

評価基準シート_本来評価版

杉並区の事務事業評価シートは、インプット=アウトプットとして目的を達成したことにするために、定義になっていない目的・目標を作っています。老人福祉法を根拠に好き勝手な解釈をする懸念もあります。個別に指摘して訂正するのはもちろん、根本解決のために、おかしな定義や法律の拡大解釈があった場合は、全事務事業の点検を行わせた上で、職員に求められる能力と姿勢に対する現在の状況を検証すべきです。
なお、評価表の2ページ目では、評価と課題が記載されていますが、意味不明な作文なので論評に値しません。

対戦相手募集

評価基準としては、総務省ガイドラインの枠組みに沿っているので概ね運用に耐えるものと思われますが、担当部署での自己評価を実効性あるものにするには、運用規則で詳細を詰めるべき部分がありました。
今後はもっと対処に難しい事務事業を取り上げてみたいと思います。これを斬り捨ててほしい、という読者の皆様からのリクエストも大歓迎です。

事務事業全体の横串評価

今回の記事もだいぶ長くなってきました。横串評価は簡単にまとめます。コンセプトは、例えば公平性_受益者の限定/偏りが「いいえ」の事務事業が全体の何割になるか(件数および金額ベース)を算出することです。高い割合が出てくるはずです。議会質問をすることで、そんなに高いんですか、改善が必要という認識はありますか?と持っていったり、割合そのものを有権者に伝えることで、異常性をわかりやすく伝えることに使います。

今回もお読みいただきありがとうございました。フィードバックは大歓迎です。次回は、事務事業評価のタイミングについて、総務省ガイドラインに立ち返りながら見てみたいと思います。

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