事務事業評価の評価基準提言

こんにちは。東京減税会所属の高橋無貢と申します。東京減税会ならではの観点から、できればタイムリーな内容の発信を充実させていきたいです。


東京減税会の特徴

東京減税会の特徴の1つとして、東京圏は人が多く減税会の活動が活発ということがあります。23区や都下で減税会が結成されており、各区の減税会と共催の形で、今年でこれまでに事務事業評価の勉強会を3回行いました。次に板橋区にて4回目を企画中です。また、隣接する神奈川・埼玉・千葉の減税会ともイベントの往来など交流があるため、元々のオンラインに加えてオフラインでの人と情報の連携が促進されやすく、活動が早く深く進みやすいです。


事務事業評価は評価基準がこれからの課題

初回となる今回は、事務事業評価での今後の検討課題と対応の方向性を提起したいと思います。これまでの活動の中で、事務事業評価の評価シートに求めるべき、事実関係の報告事項の要件については理解と共通認識が深まっている段階です。本記事は事務事業評価勉強会第三回目までの内容を受けた補足という位置づけにもなります。要件に関する勉強会資料はこちら。

これからの課題としては、報告された内容に基づき評価をどのように行って支出の抑制につなげていくかです。事例を挙げると、品川区では事務事業評価のあり方に関する請願を、筒井ようすけ区議を通して行いました。対象や項目のあり方は合意が得られましたが、事業の改廃にどう活用するかが今後の課題と認識されています。議事録はこちら(PDF14ページ目から)。https://gikai.city.shinagawa.tokyo.jp/wp-content/themes/shinagawakugikai/pdf/2023.09.25so.pdf

総務省「政策評価に関する標準的ガイドライン」の紹介

評価を行うにあたり、自由主義的観点から「ムダ」と指摘しても、自由主義を理解していない関係者を説得したり、行動変容を促すことには繋がらないでしょう。普遍的な見地から、誰もが反対できない論理を積み重ねて、圧力をかけていくのが良策です。
というわけで、まずは総務省「政策評価に関する標準的ガイドライン」を参照してみたいと思います。この枠組は、会計検査院とも共通しており、自治体での行政評価にも参照されています。

2  評価の観点、一般基準等
(1) 評価の観点
   実際に政策評価を実施するに当たっての観点としては、「必要性」、「効率性」、「有効性」があり、政策の性質によっては、「公平性」の観点がある。また、これらの観点からの評価を踏まえた「優先性」の観点がある。
(2) 評価の観点別の一般基準
(ア)「必要性」の観点
● 政策の目的が、国民や社会のニーズに照らして妥当か、上位の目的に照らして妥当か。
● 行政関与の在り方から見て行政が担う必要があるか。
(イ)「効率性」の観点
● 投入された資源量に見合った効果が得られるか、又は実際に得られているか。
● 必要な効果がより少ない資源量で得られるものが他にないか。
● 同一の資源量でより大きな効果が得られるものが他にないか。
(ウ)「有効性」の観点
●政策の実施により、期待される効果が得られるか、又は実際に得られているか。
(エ)「公平性」の観点
● 政策の目的に照らして、政策の効果の受益や費用の負担が公平に分配されるか、又は実際に分配されているか。
(オ)「優先性」の観点
● 他の政策よりも優先的に実施すべきか。
(3) 評価手法
(ア)  政策評価の実施に当たっては、まずは定量的な評価手法の開発を進めるよう努め、可能な限り具体的な指標・数値による定量的な評価手法を用いるよう努めること
(イ)  定量的な評価手法の適用が困難である場合又は客観性の確保に結び付かない場合などにおいては、定性的な評価手法を適用するものとし、その際、可能な限り、客観的な情報・データや事実に基づくものとしたり、評価において第三者等を活用するなどにより、評価の客観性の確保に留意すること

総務省「政策評価に関する標準的ガイドライン」より、自治体に該当しない部分を一部省略
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/gaido-gaidorain1.htm

自治体での実践時の問題(足立区の例)

ガイドラインは妥当な内容だったと言えるでしょう。しかしながら、各自治体での事務事業評価の際には換骨奪胎されてしまいがちです。足立区の例を見てみます。

https://www.city.adachi.tokyo.jp/documents/33844/jimujigyou_bunsatsu2.pdf


評価欄拡大

下段に、視点別事務事業評価という項目があります。この内容を総務省のガイドラインと比較してみます。

ア 必要性の観点
妥当性に置き換えられ、ニーズの妥当性ではなくニーズの有無だけになっている。区が担う必要性ではなく、妥当性に置き換えられている。
イ 効率性の観点
費用対効果の観点が削除され、統合化と外部化のみが検討されている。
ウ 有効性の観点
期待効果の観点が削除され、必要性で検討されるべき上位施策の妥当性に置き換えられている。
エ 公平性の観点
受益の公平性が削除されている。負担の公平性が受益者負担のみを評価しており、納税者という負担者にとっての公平性は評価していない。
オ 優先性の観点
大項目として、優先性の観点が削除されている
評価手法
全体として、評価手法が定量的でなく定性的となっており、担当者の主観によって評価しているため客観性も欠いている。

このように、お手盛りとも言える内容の評価観点・基準・評価手法となっています。

評価基準の提言

足立区の例を見れば、評価の観点と手法を提示して、それに沿った評価の実施を促していく必要性がわかります。そこで、ガイドラインの枠組みに沿って、自治体での事務事業評価の観点・基準・手法を提示してみたいと思います。()はコメントです。

ア 必要性の観点
・法令上、自治体として実施する義務がある必要最低限の範囲の事務事業か
(必要性の根拠に法令が提示される事が多いですが、それを基に内容が肥大化しがちなので必要な範囲かを確認します。必要最低限を上回る部分は義務ではないので、法令は根拠になりません)
・受益者が自己または他の個人・法人・団体を介して調達することが不可能か
(民間での調達の概念をより大きく包含した形としています)
イ 効率性の観点
・よりよい手法はないか。可能な場合は自力での調達や生活保護を含めて比較すること。
(減税して自分で払う手法との比較を含みます。この観点からすると、需要集約と規模の経済性から行政が担うことが効率的なケースもあり得ますが、そこは自治体ごとの判断でいいと思います)
・効果が金銭的に計測可能な場合、費用対効果は正となっているか
(会計の観点からは費用対効果を具体的に計算すべきです)
・需要を促進してインフレを亢進させないか
(デフレ下での需要創出のために政府支出を正当化する議論がありましたが、インフレとなったので需要創出は不要となりました)
ウ 有効性の観点
・定量的な効果指標が定義され、現状と目標の数値が提示されているか
・当該事務事業実施による効果指標への寄与度は明確に算出されているか
(ガイドラインのコンセプトそのままでよいと思われますので、具体的に詳細化しました。定量的な効果指標が定義されていなかったり、寄与度が具体的でない場合は、事業の有効性は当然厳しく評価されるべきです)
エ 公平性の観点
・当該事務事業の効果の受益者が、特定の属性(年齢・性別・職業・国籍等)に限定されている、または偏っていないか
(公平性の具体化は難しいですが、受益者の限定や偏りは説明が求められるはずです)
・事務事業の直接的な効果の受益が、当該自治体の納税者ではない者に及んでいないか
(ガイドラインにある費用の負担の公平性を具体化すると、納税者でない者への受益は慎重に検討されるべきといえます)
・所得や資産のある者への金銭的給付にならないか
(自助・共助の後に公助があるべきです)
オ 優先性の観点
・部署ごとに、所管対象の全ての事務事業に優先順位を付けて記載すること。その際、複数の事務事業に同一の順位は付けないこと。
(まずは自己評価で優先度を評価すべきです。全て重要なので1位というような形骸化を防ぐため、同一順位付けを防ぎます。)
・自治体全体の事務事業を取りまとめる部署は、全ての事務事業を対象に、事務事業の優先度を、相対評価で件数が20%ごとに分かれるように5段階で評価すること。
(通しで全事務事業の優先度を付番できるのが理想ですが、部門をまたがる検討や合意形成の工数が膨大になるため、優先度で代替します。絶対評価だと優先度が低い事業が少なくなる懸念があるため、相対評価とします。金額ではなく件数での相対評価としたのは、所管部署での自己評価では事業ごとの優先順位となることから整合性をとるためです。)
(優先性の観点の補足)
優先性が、事業の改廃のためには一番重要な評価基準となり得ます。必要性や有効性の議論で生き残れなかった事業は廃止に至る訳ですが、廃止が自明なものは廃止したあとで、そこから先をどう削減するかが課題になってきます。「廃止が相当」の証明を減税派の議員や有権者が行うのは下策です。必要かもしれないが、予算に限りがあるので優先順位の低いものから削らざるを得ない、という形が望ましいです。
例えば10%の支出削減を組織に指示する際、一律10%カットを原則として各部署内および部署間で調整させるか、優先順位を付けさせて10%になるまで下から削っていくかのどちらかになります。一律カットにしても調整は入るので、初めから優先順位を出させた上でそれを確認した方が、妥当ではないが廃止には政治的コストが高い、といった事業が残りにくくなります。
必要性・効率性といった観点の下での各基準は、満たしていないものが多い事業ほど優先度を低く評価するのが自然な流れとなります。点数付けをして総合点で評価する手法はありますが、細かい議論になるため割愛します。

さて、このように案を作ってみたところですが、様々な疑問・指摘・改善点があり得ると思います。自由主義・減税界隈の各位の建設的なご意見を求めたいです。まとまりましたら、請願・陳情の形で自治体に投げかけてみたいと考えています。

お読みいただきましてありがとうございました。次回は評価のタイミングや、勉強会運営について書いてみたいと思ってますので、スキや拡散をいただけると励みになります。

サポートありがとうございます!