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仕上げ、火入れという事。

繰り返しになってしまいますが、私は元々製茶工場、つまり収穫した生葉を一時加工し荒茶を生産する事から茶に関わり初めました。
しばらく荒茶加工のみに専念と言いますか、正直なところそれのみに関心がありました。

私にとって“仕上げ“という工程は何と言いますか、捉えどころの無いものと言えば良いのか。
荒茶の様に見るからに分かりやすく大きな変化は無い訳で、なんなら比較した上でも火入れする前の香りが好きだったりもしました。
そんな私にとっては、何の為に必要で何の為に行うのか?正直そんな工程でした。
3、4年ほど前、必要に駆られて仕上げを習い始めました。当初は父に言われるがまま、そのままの設定で。
正に何となく、という感じです。
よく分からないけどやるのが当たり前だし、くらいでしたね。

転機というと大袈裟ですが興味が湧き出した要因が幾つかあります。
一つは懇意と言うか何かと評価を仰ぐ方から「抽出した後の茶殻を見たいので仕上げで切らないで欲しい」と言われた事です。台湾で学び様々な茶を観る彼にとっては茶殻を見るというのは当然の行為でした。
当苑も、おそらく一般的な蒸し煎茶の仕上げ加工者も篩い出した茶葉の中で大柄な物は、特別に大きな物はともかく切断して本茶にすると思います。
敢えてそれをしない事で、荒茶加工時の姿そのままの茶殻が見られる訳です。
そうする事によって摘採時点の様子からどの様な工程を経て抽出に至ったか、より的確に把握出来る様になります。

とかく小さいと言うか細い姿を求められる蒸し煎茶。
ミル芽で摘採し細くなる様に強く揉まれる傾向にある昨今ですが、当苑は成熟した芽を軽く揉む志向です。
切らない、刻まないという事はその点をより的確に把握して頂けるのでとても嬉しいと言いますか我が意を得たりという気分でした。
篩い出した葉の中でもこれまでならば切断機に掛けて更に細かくするサイズの物を手篩で振るって特別大きな物だけ排除しあとはそのまま戻す。
正に製茶し出来た葉そのものを味わって頂けるかと思います。

そして、仕上げと言えば何と言っても、の火入れです。先に書いた様に私はあまり火香、焙煎香というものを好まず、どちらかと言えば荒茶そのままのフレッシュというか若々しいというか。その様な香りが好みでした。
近年は強目の火香の物が多いと思います。好みの問題ですが、火香が強いと荒茶段階までの個性が全般的に弱まる傾向の物が多いと思います。もちろんそれで引き出す事が出来る香味も有るかと思いますが。
そんな私にとって火入れという行為もまた、その意義も含めて把握しきれない物でした。

今、私は火入れ、焙煎という行為に強く惹かれています。
荒茶の水分量5%を3%に。この、僅か2%の水分を如何に的確に引き抜くか。
それによって何を引き何を出せるか?
そんな観点から火入れという行為を捉える。そう教えてくれたのは茶農家であり茶師である友人です。
それは正に製茶です。何の事は無い、水分を均一に一定に引き出していくという製茶そのものです。
その様に考えれば面白く無い訳がありません。

蒸し煎茶の火入れというと一回で比較的短時間と言いますか、荒茶製造直後から随時物や茶師にもよりますが20分〜1時間前後行う場合が多いと思います。
私自身もその様なものだとばかり思っていました。
今年から荒茶製造からある程度時間を置いた後に仕上げをする物を多くしました。製茶直後だと内包した水分が落ち着かず不均一な面が有る気がします。
製茶から時間を置く事で落ち着き均一な分布となった水分を再びじっくりと一定に抜くという意識をしています。

また焙煎と言いますか、いわゆる焙じ茶と言われる物ですが、それこそ単純に強目、高温で炒るというくらいの認識でした。
これもまた改め、火入れを何回かに分けて期間も置く事にしています。
具体的に言えば製茶後しばらく経った物を一度火入れをします。それも焙じると言うよりも水分を抜くという意識です。以前に比べて低温でじっくりと、という感じです。
そして一度目の火入れ終了からおよそ1ヶ月は期間を空けて2度目、また期間を空け3度目といった具合です。
毎回時間を置く事で水分を落ち着かせて均衡させる、そしてまた引き抜く、という感じです。
全ては如何に水分を抜くか、という製茶でしかありません。とても面白いです。これまでと確実に変わった製品になっていると思います。
各種ほうじ茶は主に釜炒り機で火入れを行っていますが、機械自体もまた手を入れて回転数を落とせる様にしました。これにより釜はより低温で、熱伝播時間を長く取る事によりじっくりと火が入る様になったと思います。
この様に試行錯誤を加えて今後益々良い物を作っていく所存です。

複数回の火入れを経た「釜炒り仕上げ ほうじ茶2023」と「ほうじ香り釜茶 赤翡翠2023」。
今現在のロットは夏季向けにやや浅めの火入れ、今後冬季に向けてより深目にしていくつもりです。
また「ほうじ紅茶 火恋し」も同じ様に作っていきます。
ぜひお試し下さい。

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