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【VOICE】 Vol.03 大島 康明

今、サッカーができていることに感謝したい。
自分がプロとしていられることを当たり前と思わないように、常にベストを尽くす。
いろんな人に支えられて、サッカーができて……それがあっての自分だから。
サッカーマンとして、人間として、今年は大きく成長する! と力強く語る、 大島康明の“想い”

葛藤と決意

「今は毎日が充実しているし、サッカーをやっていてホンマに楽しい」
兵庫県出身、26歳。ヴィッセル神戸Jrユース、ヴィッセル神戸ユース、ヴィッセル神戸を経て、大塚製薬/徳島ヴォルティスで8年。今年はサッカーマンとしてだけでなく、人間的にも大きくなるチャンスだと語る大島。
そんな彼にとって大きなターニングポイントとなったのは2005年の怪我。2006年の夏には復帰したものの、その後もアクシデントに見舞われ、実際は2007年の夏までコンディションの不調を引きずったままだったという。
「ピッチには立てるけど、思うようにプレイできない状態がずっと続いていたんです。でも、それって自分にしかわからないじゃないですか。当然のことだけど、まわりで見ている人は、ピッチに立っていれば“万全”と思ってしまうわけで。それなのに、(プレイが)できない。自分の中ですごい葛藤がありましたね」
ピッチに立っていながら結果を出せない。プロのサッカー選手にとってそれは、かなりつらい状況だったに違いない。外部から厳しい評価の声が聞こえてくることもあった。また彼自身、“もう無理かもしれない”と自分を責めたこともあったという。
それでもがんばれたのは、持ち前の反骨精神と、そんな彼を支えてくれるすべての人たちの期待に応えるため。
「怪我によってひとまわり大きくさせてもらったし、改めてプロの厳しさを知ったかもしれない。ヴォルティスに移籍してからずっとうまいこといっていたから。プレイができなくなったことで、まわりの環境とかもちょっと変わって。『絶対見返してやんねん!』って気持ちもあったけど、その一方で、自分を支えてくれる人がいっぱいいるってことにも気づけた」 
葛藤と苦悩の末、「俺、もうぜったい大丈夫や!」と思えたとき、すべてが吹っ切れたという。
「それからは自分の中で変化がわかるくらいコンディションが上がってきたんで、怪我っていう面では今はもうぜんぜん心配ないですね」
副キャプテンへの抜擢についても、「成長するきっかけを与えてもらえた」と真摯に語りながら「進歩しなきゃいけない年齢になったということなんでしょうね」とつづける。
「自分のことだけを考えてプレイしていた昨年までとは違い、今はあらゆる場面において“チーム全体”というとらえ方をするようになりました。責任は、やっぱり感じます。今までの7年間、かなり好き放題やらしていただいていた方なんですけど、今年副キャプテンをやらせていただくことになって、(チームとの向き合い方が)かなり変わった。今までは、練習とかでも自分のことを自分で考えていればいいっていう感じやったけど、チームの雰囲気や選手の表情も見るようになったし。全体を見られるようになったような気がします」
そして迎えた2008年。
「とにかく今は『やってやる!』って気持ちでいっぱいですね。プレッシャーも楽しめるようになったし。怪我がどうとか、自分のモヤモヤした逃げ所は完全に消えた。アカンかったらそれは自分のプレイがアカンだけで。それなら練習で直していけばいい。解決方法がわかっていることじゃないですか。だから楽しいですよ」
強固な決意のもと、大島の新しいシーズンはスタートしたばかりだ

勝負の瞬間

4月12日、仙台戦にて後半30分に同点ゴールを決めた大島。この日3連勝は逃したものの、4月20日の水戸戦では2-0で勝利。引き分けを挟んでの3連勝となった。
「僕は、ボールをもらう前に相手との勝負に勝っておきたいんですよ。たとえば全体を見ていて、何となく相手より前にいたり、サイドでもフリーで変わるシーンがけっこうあると思うんですけど。そういうのは逆サイドにボールがあるときからずっと駆け引きをやっていて、ボールの動きとかを読んで、その位置でもらっているんです」
自身のプレイについて、「すごくスピードがあるわけでもない。すごいドリブラーでもない。すごいキラーパスを出すわけでもない」と語る大島。だからこそ、経験と計算、そしてコンビネーションから生まれる“一歩先を見越した動き”を大事にしているという。
「たとえば、この選手はフォワードに入れるのが好きだから、俺は中にいたほうがいいとか、アイツはゴール前におるなとか、こぼれ球のところにおるなとか、そういうのをぜんぶ見て、次の展開を読んで、先に先に動いている。だからチームメイトの特徴を知っていないとアカンし、みんなの助けも必要なんです。コンビネーションができないとダメなんで」
もちろん、敵対する選手の動きや表情も見逃さない。
「自分のマッチアップするサイドバックが息を切らしているとか、どんな表情をしているかもちゃんと見ていますよ。僕の中では、ボールをもらったときにはすでに相手との勝負は終わっていて、もうひとつ先の勝負をしていますから」
 あらゆる情報と経験をもとに次の展開を読む。これが頼れるミッドフィルダーと呼ばれるゆえんなのかもしれない。
「スピードがないんやったら、相手より5m前でボールをもらえば追いつかれない」
この言葉にも表れているように、大島のサッカー哲学はその意欲と努力のうえに成り立っている。それは試合展開に関しても同じ。
「体を張って闘うアグレッシブな姿勢も、試合ではぜったい見せなアカンと思っています。この間の試合でも、ファウルをもらうとわかっていて、あえて行ったスライディングがあるんですよ。ゲームの流れ的に行くべきと判断したし、そうすることによって、チームがグッと締まる場面だと僕は思ったから」
残念ながら結果は“ファウル”。そのプレイが周囲の目にどう映ったかはわからない。だが、そういう局面で“行ける”選手でありたいと彼はいう。
「それがプロだと思うから」
そう語る大島の声は自信に満ちていた。

もう悔しい思いはさせない

「たぶん、見ている人も“今年のヴォルティスはちょっと違うな、なんか変わったな”っていうのをわかってくれていると思うんです」
大島はもちろん、メンバー全員が“進化”へのたしかな手応えを感じ取っている。
「0対0の試合を何試合しても、見ているお客さんはおもしろくないと思うんで。同じ引き分けやったら、3対3の方がぜったいおもしろいんですよ」
もちろん勝つことがいちばんおもしろい。だが今は“アグレッシブに攻める”ことでヴォルティスのサッカーを確固たるものにしていくのが目標だ。
「守備においても攻撃においてもアグレッシブに、っていうのが美濃部監督のサッカーだし、プレイする選手もその方がおもしろい。選手がおもしろかったら見ている人もおもしろいと思うんですよ」
大切なのは“継続”すること。結果はきっとあとからついてくる。
「やってきたことが勝利につながる。1年間、この雰囲気を保ちつづけていくっていうのが大事。今、選手の雰囲気もすごくいいし、監督と選手の関係も、現場とフロントの関係も、風通しもいい。すべてがいい方向に向かっていると思うし、ここから上がっていく感じはすごくある」
大島康明が今見据えているのは、まず1年後。
「1年が終わったときにみんなで笑い合えればいい」と。
「サポーターのみなさんには、去年、一昨年と2年間悔しい思いをさせてしまったというのが現実で。ほんとうに申し訳ないと思っています。それでもまた応援してくれている人たちがいることにまず感謝したい。そんなサポーターのみなさんに今年は悔しい思いをさせたくない。そうさせないために、今僕らは必死にがんばっている途中です。精一杯やって、最後にみなさんに『よくやった!』と言ってもらえるシーズンにしたいと思っています」