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最年少で1億再生突破の「晩餐歌」を生んだ「tuki.」に学ぶ、共創型音楽の時代

15歳のアーティストとしても話題の、tuki.さんの「晩餐歌」の勢いが止まりません。
この楽曲は昨年の9月29日にリリースされた楽曲ですが、3ヶ月以上の時間をかけて尻上がりにチャートを上り続け、1月24日には「オリコン週間ストリーミングランキング」で1位を獲得しています。

さらに同じく1月24日にはBillboard JAPANのチャートでストリーミング累計1億回再生を突破し、ソロアーティストとして歴代最年少の記録を打ち立てました。


その後も2月6日にはLINE MUSICの月間ランキング1位、2月8日にはAWAのプレイリスト採用楽曲ランキング1位など、次々に様々なランキングの1位を獲得し、それから1ヶ月以上たった今もBillboard JAPANのストリーミングチャートで2位に入り続けているのです。
 

13歳からギターを始めて15歳での大ヒット

丁度Creepy Nutsさんの「Bling-Bang-Bang-Born」が海外にも広がる異次元ヒットで、Billboard JAPANの総合チャートを6連覇しているタイミングに重なってしまったので1月以降は1位にはなれていませんが、実はtuki.さんの「晩餐歌」もCreepy Nutsさんと同じぐらい凄い記録を打ち立てていることになります。

特にtuki.さんの経歴に衝撃を受けるのは、tuki.さんの15歳という年齢もさることながら、コロナ禍による自粛期間がきっかけで13歳の頃にギターを弾き始めて、その後すぐにTikTokで弾き語り投稿を開始されたという背景です。

もともと幼い頃からピアノを習っていたというバックグラウンドはあるそうですが、それにしても驚異的な成長スピードと言えるでしょう。


実際にtuki.さんのTikTokのアカウントをさかのぼると、最初の動画が2022年4月17日に公開されており、そこからファンとの双方向のやり取りをしながらアーティストとしての進化を遂げてきたことが分かります。

(出典:tuki.公式TikTokアカウント)

その後の「晩餐歌」のリリースまでも、文字通りTikTok生まれのアーティストのtuki.さんならではで、TikTok上でファンとの細かい双方向のコミュニケーションが行われていくのが非常に印象的です。
 

TikTokのファンと対話するように楽曲をリリース

実際に「晩餐歌」がリリースされるまでの流れを時系列に並べると下記のようになります。

■7月17日 TikTokに「オリジナル曲の1番です!」という動画を投

(出典:tuki.公式TikTokアカウント)

■7月27日 TikTokに「オリジナルのCメロです!」という動画を投稿

■8月16日 TikTokに「タイトル「晩餐歌」」という動画を公開

■9月3日 TikTokに「お父さんに出世払いでお金を借りて「晩餐歌」のレコーディングしてきた」と投稿

(出典:tuki.公式TikTokアカウント)

■9月13日 YouTubeに「晩餐歌」弾き語りVer.が公開

■9月29日 「晩餐歌」正式リリース

■12月24日 「晩餐歌」公式MVがYouTubeで公開

■2月5日 tuki.オフィシャルサイトオープン

現在の「晩餐歌」の大ヒットぶりを踏まえると、tuki.さんの成功と「晩餐歌」の大ヒットはリリース前から約束されていたものだと感じる方は少なくないでしょう。

ただ、実際に時系列でみて頂けると、正式なMVが公開されたのが楽曲のリリースの3ヶ月近く後だったり、tuki.さんのアーティストとしての公式サイトのオープンに至っては今年の2月だったりと、普通の楽曲のリリースと明らかに時系列が違います。
関係者の想像をも遙かに上回るペースで「晩餐歌」が大ヒットしたことが分かると思います。

そもそもSNS時代以前であれば、15歳のtuki.さんがデビューしようと思ったら、事務所に所属し、ある程度のトレーニングを積んでからとなっていたかもしれません。
しかし、tuki.さんとTikTokのファンとの対話や、ファンによる音楽の拡散は、逆にtuki.さんを勇気づけ、背中を押す形で、デビューからヒットまでの全ての出来事をペースアップしてしまったわけです。

「晩餐歌」は文字通りTikTokで生まれ、SNSで広がった、現在の新しい音楽のヒットの形のシンボルと言えるでしょう。
特に興味深いのは「晩餐歌」の大ヒットの過程に、SNSを通じたtuki.さんのファンの間での「共創型」とも呼ぶべきサイクルがまわっていることです。
 

ファンがクチコミで話題を拡げる「共創型」のヒット

象徴的なのは、YouTubeで「晩餐歌」を元にした動画が見事な右肩上がりで増えている点です。
徒然研究室さんが、Xに投稿されたグラフがこちらです。

(出典:徒然研究室Xアカウント)

ファンが「晩餐歌」をカバーしたり紹介し、それがまたクチコミで徐々に大きく広がっていく様子が良く分かると思います。

YOASOBIの「アイドル」もYouTube上で多数のカバー動画が投稿された作品ですが、同様に徒然研究室さんが作成されたグラフの形を見て頂くと、その傾向が全く違うことが一目瞭然です。

(出典:徒然研究室Xアカウント)

こちらは「アイドル」がリリースされた瞬間に大勢のクリエイターが「歌ってみた」「踊ってみた」に挑戦した、という表現が正しいでしょう。
通常の人気アーティストの楽曲のリリースや視聴数のグラフは、当然こういう形になるのが一般的です。

一方、当時業界では無名だったtuki.さんにおいては、「お父さんに出世払いでお金を借りてレコーディングしてきた」という投稿などに刺激をうけたファンの人たちが、tuki.さんの最初の楽曲をできる限り多くの人に聞いてもらおうと拡散に協力するサイクルが発生していたようです。

TikTokでも「晩餐歌」を使った動画の投稿本数は3.7万本を超えており、新人歌手の動画数としては圧倒的に多い状態と言えます。
 

SNSでつながった優里さんとのコラボ

こうしたファンとの共創のサイクルの一つとして、最も象徴的なのは、「晩餐歌」の認知を一段大きく拡げるのに貢献したといわれる優里さんとのコラボです。

この動画は、11月6日に公開され、現時点で1500万視聴を突破していることからも分かるように、優里さんのファンを中心に「晩餐歌」の人気を大きく拡げるのに貢献したと言われています。

ここで注目していただきたいのがコラボが成立した経緯です。
従来のアーティストのコラボというと両者が知り合いだったり、事務所経由で決まったりというイメージが強いと思いますが、tuki.さんと優里さんのコラボが成立したのはSNSがきっかけでした。

優里さんが10月23日に「晩餐歌」の曲を弾き語りでカバーした際に、詳細をお話しされていますが、インスタでtuki.さんが優里さんの曲を弾き語りでカバーしているのをみて、tuki.さんの「晩餐歌」を聞いてすっかりはまっていたそうです。

そして、このYouTube動画の中で優里さんから「コラボできないのは分かってるよ、顔出しもしてないしさ。ただ一緒に歌えるように、原曲キーも練習した」とコラボへの思いを語ったことで、両者のコラボが実現することになったようです。


tuki.さんと優里さんが、お互いをSNSでファンとしてフォローしていたからこそ成立した「共創型」のコラボと言えるでしょう。
 

ファンに愛されることが最も重要な時代に

すでに、YouTubeやTikTokなどの楽曲で自らの歌や音楽を配信し、地道にファンの数を積み上げてデビューを果たすアーティストは珍しくないと言えます。
ただ、中学生のtuki.さんが中学在学中に家族やファンのサポートを受けながらここまで大きなヒットを成し遂げたことの意味は決して小さくありません。

現在、ユニバーサルミュージックグループとTikTokが契約交渉が決裂し、ユニバーサルミュージックグループ参加のアーティストの楽曲が一斉にTikTokから削除されるなど、TikTokとアーティストの関係が大きく注目される展開になっています。


ただ、tuki.さんと「晩餐歌」の大成功が教えてくれるのは、いずれにしてもSNS時代において最も重要なことは、ファンに愛されるアーティストやファンに愛される音楽が、ファンの力によって多くの人に聞かれる時代になっているということです。

すでにtuki.さんは「晩餐歌」以外にも複数の楽曲をリリースされていますが、その過程も「晩餐歌」同様にTikTokでファンと対話するように、細かく動画をアップされているのが非常に印象的です。
また、最新曲の「サクラキミワタシ」では優里さんとの再度のコラボも実現されています。

TikTokやSNSでファンと対話し、ファンの声に耳を傾けながら歴史を作ったtuki.さんならではの「共創型」の音楽の作り方や拡げ方と言えるように思います。
間違いなく彼女の背中を見て、今も新しい世代が新しい挑戦を始めようとしてくれているはずです。

なおtuki.さんは、この3月に中学校を卒業されて、さらなる活動に足を進めて行かれるようです。

今後新しいフェーズに進んだtuki.さんと、tuki.さんに刺激を受けた新しい才能のますますの活躍を楽しみにしたいと思います。

この記事は2024年3月10日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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