見出し画像

大谷翔平選手の新居報道問題は、スポーツ選手のプライバシー侵害報道に終わりを告げるか

メジャー通算200号のホームランを放ち、ますます注目が集まっている大谷翔平選手ですが、スタジアムの外でも大谷翔平選手の新居報道をめぐる騒動が続いています。

5月下旬に米国のメディアが口火を切る形で注目された大谷選手の新居ですが、特にフジテレビと日本テレビが自宅の住所が分かるような形で報道したことで、最終的に7月に入ってフジテレビが番組内や社長会見でも謝罪する結果になりました。

現在では、謝罪をしていない日本テレビへの批難が高まる展開になっているほか、さらに直近では大谷翔平選手が新居に引っ越さないまま売却する意向だという報道もされる結果になっています。

ここで注目したいのは、今回の大谷翔平選手の新居報道問題が、日本のメディアのスポーツ選手のプライバシー侵害報道に終わりを告げる展開になるかどうかという点です。
 

JOCもプライバシー保護の声明を発表

特に興味深い流れと言えるのは、このタイミングで日本オリンピック委員会も「アスリートのプライバシー保護に関する声明」を発表した点でしょう。

ポイントとなるのは、スポーツ選手のプライバシーはメディアが報じるべきテーマなのかという点です。

メディアの世界においては「公人」と「私人」という分類が良く聞かれます。「公人」とは読んで字の如く、「おおやけ」の業務に携わっている公務員や議員などを指す言葉で、立場上社会的に及ぼす影響が大きいため、本人のプライバシーの権利よりも、国民の知る権利の方が優先されると考えられるわけです。

一方で、大谷翔平選手のような社会的な強い影響力を持った人も、「準公人」や「みなし公人」として「公人と」同じように扱っても構わないというのが、従来のメディアにおける一般的な考え方でした。

ただ、実は近年では、著名なスポーツ選手であっても「私人」であり、スポーツ以外の話題についてはプライバシーは守られるべきと言う考え方が、訴訟などを通じて一般的になってきています。
しかし、その線引きをまだまだ曖昧に捉えているメディアが少なくなく、今回の大谷翔平選手の新居報道や、日本オリンピック委員会の声明のような問題が続いているわけです。
 

プライバシー侵害報道はゴシップメディアがするもの

今回の大谷翔平選手の新居報道問題をめぐっては、様々なメディア関係者が意見表明をしていますが、一部のメディア関係者からは「ロサンゼルス・タイムズは謝罪してないのに」や「フジテレビが謝罪までするのはやり過ぎでは」など、フジテレビの大谷翔平選手への弱腰な姿勢を批判する意見も出ているようです。

ただ、ジャーナリストの冷泉さんによると、今回大谷翔平選手の新居をフジテレビや日本テレビが報道するきっかけになったロサンゼルス・タイムズの記事は、あくまで不動産の市場動向に関する記事だったそうです。

現在も日本テレビのYouTubeチャンネルには、大谷選手の新居報道の動画がアップされたままですが、冷泉さんは、米国ではこうした著名人の自宅の位置などに関するプライバシーに踏み込んだ報道は、社会的に信頼度の低いゴシップメディアがするものであって、大手テレビ局やニュース専門局はしないと明言されているのが印象的です。

今回フジテレビは、大谷翔平選手の新居を報道するにあたり、ドローンを使って空撮をしたり、自宅前からの撮影はもちろん、近隣の住人にインタビューをしたり、敷地内の盗み撮りまでしていたとのことですので、大手メディアとしてはありえないレベルのプライバシー侵害をしていたのは明らかでしょう。

特に大手テレビ局はいわゆる報道局が担当するニュース番組とは別に、「情報番組」と呼ばれる日本独特なバラエティ番組とニュース番組のあいのこのような番組が多く、そうした番組における報道倫理が指摘や批判を受けるケースが増えているようです。
 

大手メディアの報道倫理が業界の基準に

現在は、YouTubeやXなどのSNSを通じて個人のインフルエンサーも情報を拡散できる時代です。
日本の大手メディアの報道倫理の基準が低くなってしまえば、当然個人インフルエンサーの倫理感はそれよりもさらに低くなるリスクがあります。

最近では、星野源さんに関するインフルエンサーの憶測投稿が拡散し、星野源さんに誹謗中傷が殺到したケースが象徴的であると言えます。

特に、スポーツ選手はあくまでスポーツでのプレイ自体が報道の対象なのであって、プライベートを切り売りしてビジネスをしているわけではありません。

これまでの日本のメディアの古い常識からすれば、スポーツ選手は「準公人」だから本人の意思に反してプライバシーがある程度侵害されても問題ない対象なのだという感覚が残っている方も少なくないようです。
ただ、数々の判例が物語っているように、著名なスポーツ選手であっても、スポーツに関係ない分野に関しては「公人」ではなく「私人」です。

当然スポーツ自体に直接関係ないプライベートを勝手に報道する行為は、プライバシー侵害とみなされます。

これまで多くの日本のスポーツ選手は、こうしたプライバシーを侵害した報道に対して、批判をしたり訴訟をする行為を選択せずに我慢していたため、メディア側もそれに甘んじて継続していた状況が続いていると考えるべきでしょう。
今回の大谷選手の新居報道についても、もし大谷選手サイドが明確に問題提起をしていなければ、フジテレビや日本テレビは気づかずに継続している可能性が高かったわけです。

特にテレビ局を中心にした大手メディアは早急に報道倫理を、現在にあわせてアップデートすることが求められていると言えるでしょう。
 

大谷翔平選手が更新するプライバシー報道の境界線

大谷翔平選手は、今年に入ってからメディアの事実とは異なる報道にInstagramアカウントから注意を呼びかけたり、結婚発表において開示する情報を最小限にしたりと、これまでの日本メディアの常識とは異なるプライバシー報道の新しい境界線を作ろうとされてきたことが印象的な選手でもあります。

残念ながら信頼していた通訳が巨額の詐欺を行っていたために、一時的に報道機関との関係も大きく変化してしまっていましたが、現在では自身の無実も証明され、プレイに専念できるようになっています。
今回の新居報道問題をきっかけに、改めて大谷翔平選手が日本のメディアのプライバシー報道の姿勢に対して厳しく接していくことを宣言されたと言えるでしょう。

大谷翔平選手について報道すれば視聴率が稼げるからこそ、テレビ局は大谷翔平選手の様々な話題を取り上げるのだと思いますが、そもそもファンが求めているのは大谷翔平選手のプレーに関する情報であり、プライバシーを侵害してまでの報道を求めている時代ではないと言えます。

大谷翔平選手が引いた新しいプライバシー報道の境界線は、当然オリンピックの日本代表選手や他の選手にも適用すべき境界線となるはずです。

今回の大谷翔平選手の新居報道問題が、日本の大手メディアのプライバシー侵害報道の境界線が良い方向に変化する分岐点になったと振り返ることになることを期待したいと思います。

この記事は2024年7月15日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このブログはブレストのための公開メモみたいなものですが、何かの参考になりましたら、是非ツイッター等でシェアしていただければ幸いです。