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木村花さんのための木村響子さんの活動に学ぶ、誹謗中傷を減らすために私たちができること。

木村花さんの訃報から1年が経過しました。
1周忌となる先週5月23日には、後楽園ホールで追悼興行が開催され、ファンと選手の皆さんが木村花さんをしのんでいたそうです。

昨年の木村花さんの悲劇の後、ネットの誹謗中傷を中心に、テレビ局の過剰演出疑惑や、事務所との契約解消騒動など、さまざまな方面への問題提起がわきおこったことが記憶に新しい方も少なくないのではないでしょうか。

木村響子さんの活動が社会を動かす

あれから1年。
木村花さんの母である木村響子さんや、周囲の支援者による地道な活動により、社会における誹謗中傷に対する問題意識も大きく変化しようとしています。

最近2ヶ月の関連ニュースだけを書き出しても、このとおり。

■2021年3月30日 BPOに申し立てを行い番組側の演出に「放送倫理上問題あり」と指摘される結果に。

■2021年3月30日 木村花さんをオンラインで中傷していた中で、特に悪質だった男性2人が侮辱罪で略式起訴され前科がつく結果に。

■2021年3月30日 総務省がインターネット上の誹謗中傷対策を強化すると発表。

■2021年3月30日 ネットの誹謗中傷をなくすためのNPO法人「Remember HANA」の設立を発表。

■2021年4月10日 侮辱罪の厳罰化を求める署名活動を開始。すでに1ヶ月で3万以上の賛同が集まる。

■2021年5月19日 木村花さんの死後も誹謗中傷を続けていた男性に対する民事訴訟で、約129万円の賠償命令。

必ずしも、すべてが木村響子さんの想いを満たす結果になっているわけではないですが、ネットの誹謗中傷を巡る社会の意識は、この1年で大きく変化してきたのは間違いありません。

今も続く誹謗中傷の難しさ

ただ、木村響子さんの想いがすべての人に通じたわけではなく、ご自身のnoteでは「何もしらない人たちに わたしがお金目当てでやっているとの思い込みで 誹謗中傷されたことが本当につらかったです」と、娘を亡くされた木村響子さんに対してさえ、ネット上の誹謗中傷が牙をむいている現実が明らかになっています。

木村響子さんの複雑な思いについては、下記のBuzzFeedのインタビュー記事で詳細に語られていますが、印象的なのは誹謗中傷の加害者と向き合うことで「単純な厳罰化だけではなく、加害者へのケアが必要なのではないかとも思うようになりました」と、加害者への気配りも口にされている点です。

ネットの誹謗中傷というと、とかく、実名でネットを利用されている著名人の方々からは、「匿名のネットユーザーの「悪意」による行為」というステレオタイプな定義がされがちです。

ただ、実は木村響子さんが明言されているように、誹謗中傷を繰り返している側にも、彼らなりの「正義」や事情があり、その怒りのエネルギーやストレスのぶつけ先として、著名人がえらばれることが多いというのが正確な現実のようです。

また、当然ながら、実名の著名人が誹謗中傷を繰り返すケースもありますし、匿名の個人が誹謗中傷の対象になることもあります。

誹謗中傷か否か、という線引きも人によって大きく異なりますし、海外では誹謗中傷的な投稿を行っている人の9割以上がそれを誹謗中傷行為と認識していなかったというリサーチもあるそうです。

怒りや対立が誹謗中傷のきっかけに

そもそも、木村花さんがネット上の誹謗中傷のターゲットになってしまったのは、一般的な誹謗中傷の起点になりやすい、政治的な問題や人種やジェンダーの差別の問題ではありませんでした。

木村花さんが大量の誹謗中傷の矛先になったのは、「テラスハウス」というリアリティショーの中で、たまたまタイミング悪く、一時的に好意を持っていた相手が自分の大事なコスチュームを洗濯機で二度回しして収縮させてしまい、演出側の指示もあって感情的に怒るという役を演じたためでした。

当時私は、木村花さんを応援する視点で番組を視聴していたため、私が怒りを感じていたのは相手役の小林快さんに対してだったのを良く覚えています。

結果的に2人はその後連絡を取り合い、和解に至っていたようですが、視聴者にはそのことは残念ながら伝わりません。
番組における若い2人のすれ違いによる喧嘩という怒りと対立のエネルギーが、視聴者を誘発し、大量の誹謗中傷行為につながったのです。

最近では、内閣官房参与の高橋洋一氏がツイッターで問題発言を連発し辞任に追い込まれましたが、ああいった問題発言をした結果、批判が集まった場合は、自業自得と思われる方が多いかもしれません。
ただ、この発言をめぐっても、擁護派と批判派で実は議論が分かれています。

誹謗中傷と一言でいっても、実はその投稿をする側には投稿する側の意見や正義があり、その反対側の意見の人たちも存在するのが普通です。
誹謗中傷をする側が必ず100%犯罪者といえる話ではないのです。

誹謗中傷をなくすための団体の代表理事の炎上

この誹謗中傷の定義の難しさを、思わぬ形で可視化する結果になってしまったのが、5月25日に設立されたばかりの一般社団法人「この指とめよう」です。

こちらの「この指とめよう」も、木村響子さんが設立を準備されているNPO法人「Remember HANA」と同様に、誹謗中傷をなくすための活動を掲げてスタートした団体です。

ただ、発起人で代表理事をつとめる小竹海広さんの過去のツイートに、複数誹謗中傷にあたるような投稿があるのではないかという指摘がされた後に、小竹さんが該当ツイートを削除して、アカウントを鍵アカウントにして見えなくしてしまうという対応をし、悪い形で注目される結果になってしまいました。

この小竹さんのケースは極端な事例かもしれませんが、過去のツイートをさかのぼられると、私も含めて何かしら不適切な発言をしているという人は少なくないはず。
ネットの誹謗中傷問題で難しいのは、ネット上での情報発信というのは、すべての発信が意識せずに誰かを傷つけてしまう可能性がある行為であるということです。

筆者は、代表の小竹さんには面識はありませんが、「この指とめよう」の理念自体は「Remember HANA」と同じですし、アドバイザリーボードに知人が多数いるのもあり、今回の騒動を乗り越えて本当に理念達成のために活動が機能することを期待したいと思ってはいます。

ただ、やはり被害者である木村花さんの悲劇を背負っている木村響子さんが立ち上げようとしている「Remember HANA」と異なり、「この指とめよう」は団体の中心人物が広告会社のGOの人間である関係で、本業との関係性が曖昧に見えてしまう印象はあります。

また、一見、司法組織でもない一般社団法人の団体関係者が、それ以外の人たちを一方的に裁く立場のようにみえてしまうたてつけなのは、私自身モヤモヤするものを感じてしまいましたし、代表の小竹さんの暴言ツイートへの攻撃が激しくなった一因のように感じます。

私たちが誹謗中傷をなくすためにまず考えなければならないのは、自分自身の情報発信が実は他人を傷つけているのではないかという自省の念であり、自らの娘を誹謗中傷によって失ったにもかかわらず加害者の心情にも思いをよせる木村響子さんの姿勢だと思います。

情報発信をすること自体が持つリスク

残念ながら、この記事を書いている筆者自身も清廉潔白ではなく、この記事を書くことで関係者の方の心情を傷つけてしまう可能性がありますし、実際に過去に様々な過ちを犯してきました。

ステマ騒動についてのまとめ記事を書いた結果、顧客であった企業の怒りを買い担当の営業マンと一緒に謝罪にいくことになったこともありますし、友人の行為を非難する記事を書いた結果、友人に絶縁されてしまったこともあります。
人身事故であわててしまい事故を非難するツイートをした際には、複数の人から不謹慎だとお叱りの指摘をいただいたこともあります。

自分の失敗は言い訳の余地がありませんし、本当にそれにより心情を害したり傷つけてしまったりした方々には、お詫びの言葉もありません。

そういう意味では、私自身、こういった記事を書く権利があるかどうかは正直分かりません。

ただ、少なくとも木村花さんの悲劇を私たちは日本のネットの転換点にしなければいけませんし、それ以前は放置されがちだったネットの誹謗中傷を、今後は放置してはいけない存在である、と明確にしていくべきだと考えています。


昔、作家の浅生鴨さんが「自分の言葉は暴力という自覚とともに言葉を発信するべき」ということをお話しされていたのを良く覚えています。

SNSは、包丁やナイフと同じで上手く使えば美味しい料理を作ったり、美しい作品を作り上げたりすることができるわけですが、悪意を持って使えば人を傷つける凶器にもなり得るツールです。

ただ、危険だからといって一律禁止にしたり、免許制度にしたりできるものでもありませんから、SNSを使う私たち全員が、SNSを凶器にならないように注意して使うしかありません。

誹謗中傷をなくすつもりでの発言でも、その発言で他の誰かを攻撃してしまったら、結局その相手にとってはその発言自体が誹謗中傷と同じことになってしまいます。

対立や怒りは、結局、新しい誹謗中傷を生んでしまうエネルギーになってしまうのです。

私たちが学ぶべきは、一番傷ついているはずの木村響子さんの、加害者のケアすら気にする姿勢だと思います。

最後に、Remember HANAの公式サイトから木村響子さんの言葉を引用させて頂きます。

「まずは、自分が言わないことから始めましょう。
一人ひとりが言わなければ、この悲しみの連鎖は止められます。#EndTheHate  木村響子」
この記事は2021年5月31日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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