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1億円投資で話題の「VIVANT」の挑戦に学ぶ、日本のテレビドラマが勝ち残る道

9月17日に最終話が放送されたTBSのテレビドラマ「VIVANT」ですが、放送終了後、一週間がすぎた現在も、様々な話題がメディアで注目されています。

なにしろ、最終話の翌週の9月24日の夜にも「#VIVANTep11」というSNS上のハッシュタグが日本でトレンド入りするという不思議な現象が起きたほど。
いかに多くの人たちが毎週日曜日の夜の「VIVANT」の放送を楽しみにしていたかが分かる現象と言えます。

ここで注目したいのは、「VIVANT」の成功が今後の日本のテレビドラマに与える影響です。

第1回から最終回にかけて尻上がりに視聴率も上昇

「VIVANT」はその放映がはじまる前から、豪華なキャスト陣やモンゴルロケをはじめとする最近の日本のテレビドラマとは一線を画す、1話1億円を超えるとも言われる大きな制作費投資が注目されました。

ただ、第1話の頃は世帯視聴率は11.5%とそれほど伸びず、一部メディアでは失敗という報道が早々にされるほどでした。

実は、ここ数年、TVerなどのタイムシフト環境が整ってきたことを考えれば、リアルタイム視聴率の低迷自体は当然ですし、実は個人視聴率でみると、他のテレビドラマに比べて高い視聴率を叩き出していたのですが、ある意味日本のテレビドラマの代表として批判されていたと言えるかもしれません。

しかし「VIVANT」は、そうした批判を弾き飛ばすように、回を経る毎に視聴率を尻上がりにあげ、最終回の世帯視聴率は第1話から2倍近い19.6%まで上げるという軌跡を辿ることになります。

ここに、「VIVANT」が確立した、日本の地上波のテレビドラマならではの勝ち筋を学ぶことができます。

日曜劇場が確立したSNS上の口コミを呼ぶ仕組み

従来の日本のテレビドラマは、とにかく初回の視聴率が最も重要で、一般的には初回の視聴率から中盤にかけて下がる傾向にあるのが普通でした。

しかし、現在では視聴者に人気が出たドラマは、初回から徐々に視聴率を右肩上がりに上げるという傾向が確立されるようになっています。

ここで重要になるのが、SNSなどのネット上の視聴者の口コミです。

今回の「VIVANT」も毎週のように放映時間に番組関連のキーワードが、SNSのトレンド入りしていましたが、こうしたSNS上での話題化がドラマを知らない人にドラマの存在を知らせ、興味を持つきっかけになるサイクルがまわっているわけです。

こうした傾向は、2013年に放映されたNHKの「あまちゃん」のあたりから見え始め、2016年のTBSの「逃げるは恥だが役に立つ」のあたりで明確になっていきます。

そして、テレビドラマ視聴中にSNS投稿をする文化を明確に確立したのが、「VIVANT」と同じ、TBSの日曜劇場で放映されていた「半沢直樹」です。

「VIVANT」でも、めまぐるしく転換するストーリーに大きくSNSが刺激され、毎週のように大きな話題となっていましたが、ある意味TBSのドラマ制作チームからすると、今回も狙い通りの結果だったと言えるでしょう。

メディアの考察記事も積極的に誘発

さらに今回の「VIVANT」では、ドラマの公式アカウント自らが、ネタバレや思わせぶりな投稿など、口コミや「考察」を誘発するような投稿を連発。

視聴者のSNS投稿だけでなく、視聴者やメディアによる「考察記事」を多数生み出すことに成功するのです。

この結果、多くの個人やメディアがこぞって「VIVANT」の考察を話題にし、議論するようになり、「VIVANT」は日曜夜の番組放映時間だけでなく、一週間を通じてネット上で話題になり続けることに成功します。

筆者が勤めるnoteにおいても、VIVANTを含んだ記事は現時点で4000記事を超えて書かれており、個人の方の記事の一部も多くの人に読まれていたようです。

ある意味、「VIVANT」放映期間中の3ヶ月の間、「VIVANT」考察祭りが展開されていたと言っても良いかもしれません。
そして、この3ヶ月にわたる「祭り」期間を作ることが、地上波のテレビドラマならではの現象と言えます。

制作費では海外には追いつけない現状

今回、「VIVANT」の制作費は、通常の日本のテレビドラマが1話3000万円程度が相場と言われている中、1億円を超える制作費を投じて大きな話題になりました。

ただ、NetflixやHBO、Amazonプライムなどの海外の動画配信サービスのドラマ制作費は既に映画を超える数十億円規模の戦いに突入しており、制作費の戦いでは現状は日本のテレビ局に勝ち目はないと考える人は少なくありません。

例えば、Netflixは実写版「ONE PIECE」に1話26億円を超える予算を投下したとも言われています。
「VIVANT」の1億円すら少なく見えてしまう規模の予算が動いているわけです。

これはNetflixが世界に2億3千万人を超える有料契約の会員を持ち、2週間で実写版「ONE PIECE」を2億8千万時間も視聴させるほどの力があるからこそ、できる投資とも言えます。

今回TBSが「VIVANT」に従来の3倍を超える予算を投下することができたのも、今年TBSが提携した動画配信サービスのU-NEXTに「VIVANT」を独占配信することで、U-NEXTからある程度の予算を確保したからという見方があります。

とはいえ、国内の会員が中心のU-NEXTが、Netflixを超える投資をサポートすることは難しいでしょう。

また、今後「VIVANT」の映画を公開することで回収するプランなども囁かれていますが、いずれにしても日本のテレビ局がテレビドラマ制作において更に一桁投資を増やすことは、現時点では現実的ではないわけです。
 

週に1回放送するからこそのメリット

ただ、一方でこうした動画配信サービスの数少ない弱点と言えるのが、視聴者が自分の好きな時間にバラバラに視聴したり、一気見してしまう関係で、口コミのタイミングが少ないという点です。

地上波のテレビドラマが週に1話ずつ放送するというのは、一気見したい人からするとデメリットになりますが、SNS上の話題化という意味では10話で10回のチャンスがあるメリットがあるという見方ができるわけです。

実際に「VIVANT」の言及数をYahoo!リアルタイム検索でグラフ化すると、毎週のように放送のタイミングで大きな話題が巻き起こっていることが良く分かります。

(出典:Yahoo!リアルタイム検索 「VIVANT」の言及数)

さらに重要なのは、この話題のピークの間にも毎日数千件単位での言及があるという点です。
「VIVANT」の放映期間中、特に後半の盛り上がりの過程においては、ファンの人たちは毎日の様に何かしらの「VIVANT」の話題に触れていたわけです。

一般的な動画配信サービスのドラマでは、こういう形の口コミは滅多に発生しません。

実はこうした違いが、アニメのヒットの違いを生んでいるという考察が既にされており、「ガンダム 水星の魔女」では不便な毎週1話方式を逆手にとり、多くのファンの口コミを発生することに成功したと言われています。

最近では、動画配信サービスにおいても全話を一気に配信するのではなく、週に1本ずつ公開することで話題のタイミングを増やそうとしているケースも増えていますが、明らかにこうした話題化のタイミングを増やすための取り組みだと考えられるでしょう。

そう考えると、実は、日本の地上波のテレビドラマの一つの勝ち筋は、放送時間が毎週決まっているという「不便さ」を逆手にとり、「VIVANT」のようにみんなで盛り上がるピークにすることで、毎週の放送時間が山場となるお祭り期間を作ることだと考えられるわけです。

「VIVANT」の成功はテレビCMにも好影響

すでに「VIVANT」ロスに陥ったファンからは、続編制作の声も多く上がっているようですが、まずは今回TBSが制作費1億円という投資を手応えを持って回収できるかどうかが、続編が作られる一つのポイントになるのは間違いありません。

視聴率が高かったとは言え、通常のテレビドラマの3倍とも言われる制作費を、テレビCMの収益だけで回収できないのは明らかなはずです。

ただ、今回「VIVANT」が大きな話題になったことで、「VIVANT」主演の堺雅人さんが出演する丸紅のテレビCMも大きく注目されたように、ドラマの成功がテレビCMビジネスにも好影響を与えるのは間違いありません。

今回の「VIVANT」の挑戦が、日本のテレビドラマの一つの勝ち残る道を示していることは間違いないように思います。

すっかり話題に乗り遅れて見逃してしまったという方は、是非今からでもTBSと「VIVANT」制作チームの挑戦の軌跡を確認されてみることをオススメしたいと思います。

この記事は2023年9月27日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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