新会社STARTOは、旧ジャニーズ事務所が確立した日本の芸能界の古い「常識」をDX化できるか
旧ジャニーズ事務所の所属タレントの受け皿として設立するとされていた新会社が、ようやく12月8日に発表され大きな話題になっています。
新会社の会社名は「STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)」で、代表取締役CEOには、事前の報道通り福田 淳さんが、取締役COOに井ノ原 快彦さんが就任するという布陣になりました。
福田さんは、俳優の「のん」さんとエージェント契約を結んでいるコンサルティング会社を運営していて、芸能事務所とタレントの契約関係にも問題提起をしてきたことでも知られる人物です。
御本人もインタビューで「古い業界を近代化させたい」と発言されていたようですが、やはり注目されるのはこの「スタートエンターテイメント」が、今後日本の芸能界という古い業界を変革するリーダーとしての役割を果たすのかどうかという点でしょう。
DX化とグローバル展開に挑戦と宣言
特に「スタートエンターテイメント」のホームページには、今までのサービスに加え、3つの新しいことに挑戦するという宣言が掲げられているのが印象的です。
・DX化:独自の音楽配信サービスを立ち上げる
・グローバル展開:米国、韓国等、世界展開
・メタバース市場参入:最先端技術でアーティストの才能を拡張
3つ目のメタバース市場参入は、新規事業的位置づけだと思われますが、やはり注目されるのは1番目のDX(デジタルトランスフォーメーション)化と2番目のグローバル展開でしょう。
実際問題として、これまでの旧ジャニーズ事務所はデジタル化が進んでいなかったことが、結果的にグローバル展開の可能性の芽を自ら摘む結果になっていたと言われています。
はたして福田・井ノ原新体制において、「スタートエンターテイメント」はどれぐらいデジタル化を本気で展開していくのか。
その本気度を測る上で、ポイントになってくるのが下記の4点です。
■1.音楽配信のDX化
■2.タレントの情報発信のDX化
■3.ファンコミュニティのDX化
■4.ファンによる推し活のDX化
一つずつ詳細にご説明します。
■1.音楽配信のDX化
まず「スタートエンターテイメント」が、取り組むべきDX化で最も重要と言えるのが、音楽におけるビジネスモデルの転換です。
これまで旧ジャニーズ事務所は、一部の曲などを除きストリーミング配信をせず、CD売上への依存を続けてきており、その姿勢が日本の音楽産業の停滞にも影響したと指摘されています。
今回の発表においては「独自の音楽配信サービスを立ち上げる」という記載がされており、海外の音楽配信サービスへの対応をするかどうかは不透明ですが、2番目のグローバル展開を本気で考えるのであれば、グローバルな音楽配信サービスでのストリーミング配信の解禁は必須と言えるでしょう。
現時点では、海外デビューをしたTravis Japanを筆頭に、嵐やKis-My-Ft2などの一部のグループの楽曲だけがストリーミング配信に対応していますが、今後「スタートエンターテイメント」所属タレントの楽曲がストリーミング配信に対応していくかどうかが、一つの大きな注目点と言えると思います。
■2.タレントの情報発信のDX化
また、連動して注目されるのが、「スタートエンターテイメント」の所属グループ、特に個人での情報発信のDX化です。
これまでの旧ジャニーズ事務所では、基本的に個人でのSNSなどの発信はもちろん、グループでのSNS活用にもあまり積極的ではない歴史が続いてきました。
しかし、2019年に嵐がSNS本格解禁をしたことが大きな話題になり、最近「よにのちゃんねる」にチャンネル名を変更した「ジャにのちゃんねる」のYouTubeチャンネルの登録者数が400万人を超えるなど大きな人気となり、24時間テレビともコラボを行うなど、着実に所属タレントによるSNS活用が増えてきている印象はあります。
今後の「スタートエンターテイメント」において注目されるのは、所属タレントの個人でのSNS活用が、より積極的になるかどうかでしょう。
もちろん、SNSを活用するかどうかは向き不向きがありますので、必ずしもやらなければいけないものではありません。
ただ、K-POPの躍進などを踏まえると、ある程度「スタートエンターテイメント」もSNSの利用を禁止するのではなく、上手に活用できる所属タレントには積極的な利用を解禁していく必要があるのは明白でしょう。
実際に、最近ではSnow Manの目黒蓮さんがInstagramを開設し、たった4投稿しかしていないのに180万人以上のフォロワーを集めるという快挙を成し遂げており、そのニーズの大きさが明確になっています。
旧ジャニーズ事務所を退所したNumber_iの平野紫耀さんが、インスタライブなどで神対応を連発して400万以上のファンを集めていることを踏まえると、「スタートエンターテイメント」において、こうした双方向のファンサービスを行う所属タレントが増えてくるかどうかが一つの注目点になると言えるでしょう。
■3.ファンコミュニティのDX化
上記の2点についての「スタートエンターテイメント」の方針はまだ不透明ですが、すでに新会社のトップである福田さんがインタビューでも明言されているのが、この3点目のファンコミュニティのDX化です。
もちろん、これまでの旧ジャニーズ事務所のファンクラブもウェブサイトで申し込むことができましたし、所属タレントによるブログなどの機能もありましたので、ある意味ファンコミュニティは既にデジタル化していたと考えている人もいるとは思います。
ただ、ここで福田さんがファンコミュニティのDX化と言っているのは、ウェブサイトで明言されている「独自の音楽配信サービス」との組み合わせで、おそらくはBTSを擁するHYBEが提供する「Weverse」のような新しいタイプのファンコミュニティを想定していると考えられます。
「Weverse」とは、HYBE所属のLE SSERAFIMのようなK-POPのアーティストだけでなく、最近ではAKB48などの日本のアーティストも活用するようになっている、ファンコミュニティとSNSやライブ配信サービスのハイブリッド型のサービスです。
福田さんは、XのようなオープンなSNSにおけるリスクについても言及されており、WeverseのようなファンのためのクローズドなSNSを「スタートエンターテイメント」で提供することで、所属タレントとファンによるコミュニケーションや、音楽配信の新しいビジネスモデルを模索する可能性が高いと思います。
当然、こうしたサービスは一朝一夕では完成しませんが、おそらくは既存のファンクラブの方向性も完全クローズドな形から、徐々にハイブリッドなものにシフトしていく可能性が高いと考えられるわけです。
■4.ファンによる推し活のDX化
また、比較的容易に踏み出すことはできる上で、インパクトが大きいと考えられるのが、ファンによる推し活のDX化です。
これまで、旧ジャニーズ事務所は、ネット上の肖像権の管理に最も厳格な事業者の一つで、2018年頃までは、メディアですら所属タレントの写真をネット上ではほとんど活用させてもらえないことで有名でした。
そのため、ファンも所属タレントの画像や動画のSNS投稿に対して、自粛し続けている人が多いのが現状です。
しかし、実は旧ジャニーズ事務所の姿勢は、2018年から明確に転換します。
これには一説によると、前年にジャニーズ事務所を退所し「新しい地図」を立ち上げた元SMAPのメンバーが、ABEMAでの番組でファンによる写真キャプチャを推奨し、大きな成功をあげたことなどが影響しているようです。
最近では、メディアが所属タレントの写真を利用しやすくなったのはもちろん、旧ジャニーズJr.のイベントのアンコール場面においてファンによる撮影を許可したことが大きな話題になったように、旧ジャニーズ事務所も徐々にファンによる写真の利用などに寛容になっているわけです。
ただ、ファンの間では従来の厳しいルールの印象が残っているため、厳しい自主規制が残っているのが現状です。
こうしたファンに対して、「スタートエンターテイメント」が明確に、推し活における写真や動画の利用を許可するかどうかは非常に重要な注目点と言えます。
K-POPでは、BTSのARMYに代表されるように、そうしたファンのSNSを通じた推し活のエネルギーが、アーティストの人気をグローバルに拡げる上で大きな役割を果たしたと言われていますし、日本でもSKY-HIさんが代表を務めるBMSGでは2年前の段階で、ファンによる応援投稿を許容するガイドラインを発表しています。
さらに今年、滝沢秀明さんによって設立されたTOBEでは、今年の9月にSNSに投稿されたアーティストの画像や動画をファンが使用することに対しては「著作権侵害を主張しない」ことを明確に宣言されています。
「スタートエンターテイメント」が、こうしたSNSガイドラインを早期に発表するかどうかは、新会社のデジタル化やグローバル展開の本気度を測る上で非常に重要な分岐点になると言えるでしょう。
新会社のDX化は、間違いなく日本の芸能界を変えるはず
いずれにしても、現在様々なメディアの取材やインタビューから聞こえてくる福田さんの発言から伝わってくるのは、旧態依然としたビジネスモデルで、テレビ局などのメディアの忖度を引き出していた旧ジャニーズ事務所が、今回の「スタートエンターテイメント」への転換によって、大きな変化の一歩を踏み出そうとしているということです。
この変化への一歩が、日本の芸能界に良い方向への変革を導くことは間違いないとも感じます。
福田さんが話されているように、日本の芸能界という古い業界を近代化する上で「スタートエンターテイメント」がリーダー的役割を果たす可能性も高いはずです。
今年1年は、事件の被害者の方々にとっても、旧ジャニーズ事務所の所属タレントにとってもファンにとっても、本当に大変な1年であったことは間違いありません。
もちろん、スマイルアップによる被害者の方々への補償や謝罪がちゃんと進むことが大前提ではありますが、今回の事件を通じた議論が日本の芸能界の健全化につながり、「スタートエンターテイメント」の所属タレントや日本の才能が、さらに海外に知られるきっかけになったと振り返られることが、全ての関係者にとって本当に重要な変化になるのではないかと感じます。
まずは、「スタートエンターテイメント」のDX化に向けた本気度に注目したいと思います。
なお、水曜日13時の雑談部屋「ミライカフェ」で、このテーマについて皆さんと雑談できればと考えています。
タイミング合う方は是非ご参加下さい。
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