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八月の陽炎




朝、目が覚めた。

眠気まなこをこすりつつ枕元に置いてある煙草を探す。


蝉がミンミンと劈くように鳴いている。


ベランダに出て無造作に取り出した煙草を燻らせると、強烈な煙たさと鼻を抜けるメンソールが眠たさの微睡みから引っ張りあげてくれる。




煙を肺いっぱいに吸い込んでは吐き出し、早々に火を消した。


「あっつ、、」


八月。

早朝だというのにムンムンとした熱気が僕を支配する。


部屋の中でも吸えるからと思って電子タバコにしてからは、紙巻きの煙草は滅多に吸わなくなった。


どちらかというと、苦手にすらなってしまった。


それでも起き抜けの始まりは紙巻きの煙草と決めている。決まっている?どっちだろう。



「あたしね、あんたのハイライトメンソールを吸ってる横顔が堪らなく好きなの」


そう、笑っていた人は今はどこにいるんだっけ。



茹だるような暑さの陽炎に、僕は誰かの幻を視る。




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