オッドアイ #3

クラスメイト達のため息と同時に1時間目の数学の授業は終わった。そしてやはりクラスメイトが煇の周りに集まる。普段は煇のことなんて目もくれず、教室内で自分の能力をひけらかしている千葉理人、何度か陰口を言われているのを聞いたことがある平原佑美。このような自分とは遠いはずの面々が煇に愛想を振りまいている。「何なんだよお前ら、俺がなんかしたか?安心しろ。普段から俺はお前らなんかに興味ない。力を使うのは必要な時だけだ。だから余計なちょっかいかけるな。」「は?お前何言ってんだよ煇。お前その歳になってまで厨二病拗らせてんのかよ。」と理人は笑って煇の背中を叩いた。煇は薄々気づいていた。彼が嘘をついていないことを。彼らの目から負のオーラを全く感じ取ることが出来なかったからだ。彼らは自分に敵意など全くない。むしろ好意を向けてきている。そして突然煇の思考に一筋の線がスッと差し込んだ。「すまん千葉、俺今日ちょっと体調悪いわ。先生に早退するって伝えておいてくれ。」煇は一言だね言い残して思い立ったように駆け出した。煇が真っ先に向かったのはコンビニだった。新聞を手に取り一通り目を通すと確信した。
       「ここは、俺がいた世界じゃない。」
 新聞には、殺人事件や事故、政治のニュースが羅列されている。しかしこれは彼にとっての普通とは明らかに異なっていた。新聞を最後まで読み終えると煇は子供の頃、母親に"並行世界"パラレルワールドについての話を聞いたことを思い出した。
 「煇、この世界にはね全く同じ時間軸で、全く同じ人間が生活する反対側の世界があるんだよ。」「その世界はどんな世界なの?」「人間が自分の知恵だけで暮らすのよ。能力を持たずに人々が知恵と技術で共存しているの。」「ふーん。そんなの不便じゃん。つまんなそうだし。」過去の煇はパラレルワールドに対して、つまらないという印象を持っていた。しかし、歳をとるにつれ本当にあるなら行きたいとさえ思うようになっていた。我に帰った煇は2つの疑問を頭に浮かべた。
「俺は元いた世界に戻るべきなのか?でもどうやって戻るんだ。後、俺この世界ではどんなやつなんだ...?」

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