軋轢 #16



 雄司達は順当に大会を勝ち上がっていた。優里も彼にあげたものと同じマスコットを握りしめて全ての試合を見に行っていた。初めて目で観るスポーツという世界に彼女は心を奪われていた。1つのボールに全てをかけた男たちの熱い表情が優里の脳裏に深く焼きついていた。こうして迎えた決勝の前日に、雄二は優里に電話をかけた。「明日、勝てたらグラウンドの裏で待っててくれ。」「わかった。私も話さなきゃいけないことあるし...。じゃあ明日頑張ってね。雄司が勝たなきゃ話にならないんだからね!」「あぁそうだな」と2人は笑い合い電話を切った。雄司は今まで恥ずかしくて付けられなかったあのマスコットをリュックに付けて目を瞑った。決勝戦当日の朝、雄司が携帯を開くと一通のメッセージに気が付いた。智からだった。「今日勝ったら優里ちゃんに絶対告白しろよな!」というおせっかいなメッセージだった。「言われなくても」とだけ返した。その後智から「優里ちゃんに何言われても優しく受け止めてやるんだぞ」と少し意味深なメッセージが送られていたが、それには気づかず会場に向かった。案外気持ちはリラックスできていたようだ。中学までの経験もあってか、大舞台ではあまり緊張せずに自分のプレーができる玉だった。こうして迎えた決勝戦、雄司の2得点の活躍もあり無事に優勝し夏の全国大会の切符を掴んだのだ。試合終了後、3年生に「良いとこもってくな!」と頭を叩かれながら、そそくさと待ち合わせ場所に向かう。緑の葉が生い茂るイチョウの木の下で2人は何週間ぶりに目を合わせた。

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