軋轢 #最終話

 「お疲れ様。カッコよかった。」爽やかな春の風が吹きつくイチョウの木の下で優里の笑顔が輝く。「ありがとう。コレのおかげかな」手作りのマスコットを嬉しそうに持ち上げて雄司も笑った。もう2人の間に恥じらいはなかった。「それで、あの...」2人が同時に口を開いた。「先に言ってくれ」雄司がそう呟いた。「わかった。あのね... 私去年までね、目が見えなかったの。映画館で倒れたことがあったでしょ?それも強い光に耐えられなくて倒れちゃったんだ。」「そうだったのか。なんでそんな大事なこともっと早く言わなかったんだよ。」「実はね...この目はもともと私の目じゃなかったの。桧山 琴美ちゃん。覚えてるよね。雄司の親友だった子。その子の目なの。」雄司は頭が真っ白になっていた。そしてふと入学式の日、琴美を優里と重ね合わせた理由がわかった。"俺が優里を最初に見た時、琴美を連想したのは、その透き通るように優しい目が同じだったからか"「嘘だろ...」雄司はもう何も言えなくなっていた。"俺が好きだったのは結局目の前の女の子じゃなくて、やっぱり琴美だったんじゃないのか?"その思考が頭の中によぎる。遮るように優里が言った。「だから私も...雄司君のこと、初めて会った時からずっと何故か懐かしくて安心感があったの。それであなたにどんどん惹かれて行った。でもこの話を聞いたら絶対に雄司は私を私としては見てくれないって思ったの。嫌われるかもしれないって。だから今まで隠してたの。ごめんなさい。」"俺はバカだ。琴美の目を持ってるからって、優里は優里じゃないか。"雄司は固く閉じていた口をようやく開いた。「俺は琴美のことが好きだった。正直今後誰も好きになれないと思ってた。だけど優里に出会って変わった。俺は優里のことが好きだよ。それは優里の中に琴美がいるからじゃない。とにかく、上手く言えないけど、好きなんだ。良かったら付き合って欲しい。」顔をあげると優里は泣きじゃくっていた。雄司は自分が話すことに集中しすぎて彼女の表情を見ていなかった。「ありがとう。絶対もう会ってもらえないと思ったから。そうだよね。雄司君なら絶対わかってくれるよね。私ってバカだね。私も雄司君のこと好きだよ。」彼女はそう言って笑った。2人の新しいスタートを祝福するかのように西日が2人を照らしていた。


 「ほら、こっちだよ。いいよって言うまで手放すよ?」「うん。」「いいよ!!」彼女が手を離すとどこまでも永遠に続く瑠璃色の世界が広がっていた。「本当にありがとう、雄司、夢が叶ったよ。」「毎年来よう。ここが俺たちの思い出の場所になるように」 そう言って2人は写真を撮った。海岸のそばに見慣れた青いクロスバイクと赤い自転車が止まっていた。

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