軋轢 #8

そこから少しずつ優里と雄司は言葉を交わすようになった。休み時間には聡も交えて3人でたわいもない話をする時間が増えていった。その頃には雄司は優里を見ても琴美を思い出すことはなくなっていた。
 テストも明け、何事にも力が入らなくなってくる初夏の日、優里は学校で大好きなテイラースイフトの曲を聴いていた。「関根さんもテイラー好きなん?」後ろから聞き慣れてきた低い声が、曲越しに聞こえた。イヤホンを片耳だけ外し後ろに向き直すと雄司が目を輝かせ食い気味に優里のスマホを観ていた。「俺もめっちゃ好きなんだよね!来年の秋に日本に来るんだぜ!俺絶対観に行きたいわ!」「私もお父さんの影響でよく聴くんだよ!」会話の最中、雄司はハッと昔のことをまた思い出してしまった。琴美もテイラースイフトが大好きだった。近所の公園で2人で一つのイヤホンでよく聴いていた。淡く寂しい思い出を蘇らせながらも、今の雄司は前向きに捉えられるようになっていた。それは目の前の透き通るような笑顔の少女のおかげだろうか。

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