軋轢#14


インターハイ予選前日、聡の頭の中から彼女の存在は、晴天の時の水溜りのようにジワジワと消えかかっていた。せっかく交換したLINEも「よろしく」の一言だけが寂しく残り続けている。決戦前日の部活を終えた聡が独特の緊張感を持ちながら駐輪場に向かうと、青いクロスバイクの隣に寂しく立つ黒い影を見つけた。「聡君お疲れ様」「優里、どうしたんだよこんな時間に。」「どうしても渡したいものがあってね。はいコレ。じゃ明日頑張ってね。」聡の周りに先輩が居たからか、寂しげな笑顔を浮かべ優里は小走りで去っていった。この10数秒感の久しぶりの会話の中に2人が目を合わせる瞬間は一時もなかった。先輩に茶化されながら、聡が小包を開けると中には「必勝」の文字と聡の背番号22が縫ってある手作りのサッカーボールのマスコットが入っていた。「先輩、俺ちょっと帰ります」「コレはさすがになぁ」と先輩も深刻そうな顔をして答えた。聡は変速ギアをいつもより3つ高く設定し颯爽と自転車を漕ぎ始めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?