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『吉祥寺かるた』がグッドデザイン賞を受賞しました

もう昨年10月のことになりますが、『吉祥寺かるた』が2021年度の「グッドデザイン賞」および「グッドデザイン 私の選んだ一品」に選出されました。(受賞詳細はこちら

ご報告としては完全にタイミングを外した感がありますが、受賞に至る経緯や感じたこと、受賞のポイントなどを、とりあえず一度書いて残しておきたいと思い、遅ればせながらnoteに向かっております。

グッドデザイン賞応募のきっかけ

みなさん、グッドデザイン賞って、どうやって決まるかご存知ですか?ただオシャレなものを作っていれば「グッドデザイン賞さん」がやってきて「君の製品オシャレだねえ、グットデザイン賞をあげよう」って言ってくれると思ってませんか?僕は、そう思ってました。もう何十年もデザインの仕事やってるのに。
実はそうではなくて(考えてみれば当たり前ですが)、エントリーは自分でするのです!全国から「われこそは」というデザインに自信のある猛者たちが手を挙げて(2021年度の応募総数は過去最多の5,835件あったそうです)、そこから1次審査(書類)、2次審査(現物)を経て、2021年は1608件の製品やサービスが「グッドデザイン賞」を受賞しました。そこからさらに「グッドデザイン大賞」「グッドデザイン金賞」「グッドデザイン・ベスト100」、70名ほどの審査委員の方がひとり一品だけを選出する「グッドデザイン私の選んだ一品」などが選出されます。

『吉祥寺かるた』は、その「グッドデザイン賞」および「私の選んだ一品」に選出していただきました。5800件ものデザイン自慢揃いの対象製品の中から1600に選ばれるだけでもすごいことですが、70個しか選ばれない「私の一品」にも選んでいただけたことは、望外に嬉しいできごとでした。

グッドデザイン賞に応募するきっかけとなったのは、2021年の3月だったと思います。吉祥寺のシェア型本屋「ブックマンション」のオーナーである中西さんからの「吉祥寺かるたはグッドデザイン賞とか応募しないんですか?」という一言でした。

「へ?グッドデザイン?応募?かるたが?」
最初はそんな感じでした。みなさんも「かるたがグッドデザインってどういうことよ。だってかるたはかるたでしょ?100年前から同じフォーマットでしょ?」と思いませんか?僕は思いました。

でも実は、グッドデザイン賞には「家電」「建築」「身につけるもの」ほか全部で18ものカテゴリがありまして、今回『吉祥寺かるた』が受賞したのは「地域の取り組み・活動」というカテゴリなのです。
つまり、審査対象はいわゆる「見た目のデザイン」だけではなく「どうやってつくったのか」や「それを作ったことで地域に何が起きたか」「どんな風に地域やコミュニティが盛り上がったか」などを含めた「活動全体としてのデザイン」になるということです。

それを知って、
「あ、それだったら、もしかしたら取れるかも?」
と、思いました。

というのは、『吉祥寺かるた』を作ろうと決めてからの約1年半の間に、かるたを巡って僕の周りに起きた熱量の変化はものすごいものがあったからです。

そもそも『吉祥寺かるた』はなぜ生まれたのか

『吉祥寺かるた』が生まれた2019年。実は、最初はそこまで「かるた」を作りたいとは思っていませんでした。ただ、「吉祥寺の何か」を作りたいとだけ思っていました。
僕たちの会社クラウドボックスは「デザイン会社」で、普段はお客様の広告やウェブサイトなんかを制作しています。お客様の「想い」を受け止めて、伝えたい相手に伝わる「カタチ」にするというその仕事を、僕たちは「ラブレターの代筆屋」なんて呼んだりしています。
その年、吉祥寺にオフィスを構えて10年を超えたのを機に、僕たちは「そろそろ自分たちのラブレターを書こう。そしてその送る相手は『吉祥寺』にしよう」と思っていました。

僕は、高校生の頃から約40年間、ずっと吉祥寺をホームグラウンドとして遊んだり働いたりしてきました。
ただ、ここ数年は「吉祥寺大丈夫かな?」と思うような場面もちらほらと感じるようになっていました。吉祥寺は「住みたい街」として知られる街ですが、近年、駅前はチェーン店などに占領され「街の個性が失われつつある」といった声も聞こえるようになっています。
だから、僕たちは、ただ誘客するだけの活性化や情報発信だけではない、吉祥寺の「場の熱」を上げるような活動を自分たちからできないものか、と思っていたのです。

そんなわけで、僕たちのつくる「吉祥寺へのラブレター」の条件は

  1. 吉祥寺愛のあるみんなを巻き込んで一緒に作れるもの

  2. ステレオタイプでない吉祥寺の「活きた魅力」を伝えられるもの

  3. 完成後も継続的にみんなで楽しめる「場」を生み出せるもの

というものになりました。
そしてその条件に合致したのが「ご当地かるた」だったのです。

「かるた」の持つ驚異的な「巻き込み力」

「ご当地かるた」を作ると決めてすぐ、「あれ?このフォーマットやばくね?」ということに気づきました。

なんと言っても一番すごいところは、「日本人なら誰もがルールを知っているゲーム」だということです。全国津津浦浦、老若男女、誰もが一度は遊んだことがあって、誰もが同じ形状のものを想像できるゲーム。そんなの「じゃんけん」と「かるた」くらいしか思いつきません。このことは、想像以上に強い吸引力を生み出しました。

たとえば、かるたを作ることになってからは、吉祥寺で会う色んな人に「今度吉祥寺のかるたを作ろうと思ってるんで、読み札考えてくださいよ」と言って回っていたんですが、そうすると多くの人が、その場で「へえ、面白そうですね!吉祥寺のかるたかあ、そうだな、僕だったらどんな札にするかな…」と、その場で考え始めてくれたのです。
つまり、その「今度吉祥寺のかるたを作ろうと思ってるんで、読み札考えてくださいよ」というたった2秒のセリフで、僕がやろうとしている「プロジェクトの説明」「プロダクトの形状やルールの説明」「どのプロジェクトにどんな役割で参加してほしいと思っているか」といったプレゼンテーションがすべて完了し、その場でプロジェクトにジョインしてもらえちゃったということなのです。
これがもし「吉祥寺のゲームをつくろうと思ってるんで一緒に作ってくださいよ」だったらこうはいかないはずです。「ゲームって?アプリなのボードゲームなの?一緒に作ってってどういうこと?転職しろってこと?」となって怪訝な顔をされてしまうでしょう。
この「かるた」というプラットフォームの持つ驚異的な参加障壁の低さによって、吉祥寺を愛する人たちがどんどん『吉祥寺かるた』のまわりに集まってきてくれたのです。

かるたの読み札は、主にSNSで募集しました。「かるたの参加障壁の低さ」を損なわないようにするために、応募ルールは「採用されても賞品も賞金もなし」「応募するには名前もメールアドレスもフォローも必要なく、ハッシュタグで投稿するだけ」という、極めてシンプルなルールだけにしました。
これによって、吉祥寺愛のある人たちがみな気軽に、偏愛とも呼べる私的な吉祥寺の風景を投稿してくれるようになりました。

もしこれが、住所名前必須、採用された方には10万円、という条件だったら、みんな「正解」を狙った札を書いてしまっていたでしょう。
井の頭公園を描いた札はきっと「みんな大好き井の頭公園」とかになっていたでしょうし、焼鳥のいせやの札は「老舗のいせやの美味しい焼き鳥」とかの、正しい説明みたいな札になっていたに違いありません。
それが、前者は「まゆげスワンが一羽だけ」になり、後者が「いせやのお兄さん、息できてるの?」になったのは、この応募のハードルは極力下げる、という設計が効いたものだと思っています。

吉祥寺を代表する名所を描いた札は、吉祥寺在住の人でも知らないようなニッチな豆知識
焼鳥の味のことには触れていないが、ちょっとお店に行ってみたくなる

グッドデザイン賞審査の流れ 第一次審査は書類審査

話が脇道にそれてしまいました。かるたの魅力を書き始めると本一冊分になってしまいそうなので、グッドデザイン賞の話に戻しましょう。

グッドデザイン賞の一次審査は、書類審査です。
書類には、製品の概要や応募者についての説明、製品写真、購入可能な場所などの情報のほか、

  • 仕様(200字以内)

  • デザインのポイント (3点以内、各50字以内)

  • デザインが生まれた理由/背景 (400字以内)

  • デザインを実現した経緯とその成果 (400字以内)

  • デザインの改良、競合・類似デザインとの差異について(400字以内)

  • これまでの実績(400字以内)

  • 応募対象の特徴や当事者として伝えたい点などの自由記入欄(400字以内)

なども書かなくてはいけません。この、文字数制限の中で過不足なく伝える、というのはなかなか大変な作業でした。
とりあえずここには最初の「仕様」と「デザインのポイント」だけ転記してみます。要は、さきほど上げた「ラブレターの条件」を、製品完成後一年が経った視座から見直して書き直したという感じです。

【仕様(200字以内)】
吉祥寺かるたは、吉祥寺の「ご当地かるた」です。地域の「愛のあるコミュニティ」を螺旋状に活性化していくための、【制作方法】(SNSを活用したフラットな参加型)【内容】(コミュニケーションを活性化するユニークな構成)【継続性】(地域の変化とともに進化する「時間軸をもつかるた」)を含めたデザインとなっています。

【デザインのポイント (3点以内、各50字以内)】
・SNSを利用した、フラットな、不特定多数の人の地域愛が収集・増幅される、かるた読み札の募集方法
・地域への偏愛を大切にして共感を生む、コミュニケーションを活性化させるかるた本体の構成とデザイン
・地域コミュニティを螺旋状に育てていく、街の変化にあわせて進化する「時間軸を持つかるた」という仕組み

といった内容でした。
また一応、応募カテゴリの審査員の方にはどんな方がいらっしゃるのかも調べ、著書を読んだりもしました。特に審査員の方に合わせた対策をしたわけではありませんが、一応、気が合いそうな活動をされている方がいるのかどうかは知っておきたいじゃないですか。

この一次審査の〆切は2021年5月下旬でした。

グッドデザイン賞審査の流れ 第二次審査は現品審査

一次審査通過の通知が来たのはそれから1ヶ月半ほどが過ぎた7月初旬。
そこから今度は2次審査の現品審査に向けた準備が始まりました。
2次審査は、8月の中旬に愛知国際展示場で、クローズドなかたちで行われます。そこで、与えられた90センチ四方のスペースの中で(これはカテゴリや応募内容によって違います)、一次審査で訴えた内容をわかりやすく伝えるための展示を考えて持っていかなくてはなりません。
僕たちは、かるた本体の展示はもちろん、前述したようなコンセプトをまとめたパネルなどを制作しました。

これは、『地域の「愛のあるコミュニティ」を螺旋状に活性化していく』とはどういうことなのかを説明したパネルです。この図についての詳細は前に書いたので、こちらの記事を御覧ください。

緊急事態宣言真っ只中、名古屋まで搬入に行った。

この2次審査のパネルを作ってるあたりから、僕は何度か作業中に涙ぐんでしまうようになってきていました。それは、1年半の活動を見返す中で、この応募が本当にかるたの「見た目のデザイン」だけではなく、吉祥寺を愛するみなさんが、このコロナ禍の中で、街のコミュニティを盛り上げるために、かるたを中心にどれだけ熱をもって活動してくれたかという、まさに「活動全体としてのデザイン」を見てもらおうとしているのだと再認識してしまったからでした。

かるたの読み札を投稿してくれた人、一緒に作ってくれた人、買ってくれた人や遊んでくれた人、協力してくれたお店やイベントを開催してくれた人、「コロナで出かけられない日々も毎日かるたをめくって吉祥寺に想いを馳せています」とメッセージをくれた人、「昔吉祥寺に住んでいて今は施設に入ってしまった友人に、かるたを送ってあげたい」とお電話をくれたご婦人…『吉祥寺かるた』を通じて出会ったたくさんの方々の顔が浮かんで、なんだか本当にぐっときちゃったのでした。本当にたくさんの人が愛をつないでつないで、『吉祥寺かるた』の愛の螺旋を育ててくれたのです。(今、これを書きながらまた涙ぐんでます)

それこそが、『吉祥寺かるた』がグッドデザイン賞を受賞できた唯一にして最大の理由だと、確信を持って言うことができます。

受賞のお知らせ 〜吉祥寺のみんなへ

受賞の通知がきたのは9月の2日でした(公式な発表は10月20日)。はじめてグッドデザイン賞にチャレンジしてみようか、と思った日から半年が過ぎていました。

受賞した瞬間ももちろん嬉しかったのですが、さらに嬉しかったのは、受賞をお知らせした皆さんが、みんな我がことのようにものすごく喜んでくれたことでした。
いや、「我がことのように」ではなく、『吉祥寺かるた』を「我がこととして感じてくれている」からこんなに喜んでいるのだということが感じられて、それが嬉しかったのです。

僕たちの『吉祥寺かるた』がグッドデザイン賞受賞というカタチで認められたこと、僕たち「吉祥寺のみんなが褒められた」ことが、めちゃくちゃ嬉しかったのです。

グッドデザイン賞、選考コメント

誰もが知っている「かるた」という形式を用いてプロジェクトを進めた点が秀逸である。デザインを先鋭化しすぎて素人が関わることのできない状況を作ってしまうと、珍しさによって注目されることはあっても、長く愛されることにはならないことが多い。ハッシュタグによって多くの人が制作に関わることができたのも、「かるた」という形式が持つ公共性によるところが大きい。その結果、偏愛的な楽しさが札の各所に生まれている。住民参加で進めるプロジェクトが大切にすべき視点がいくつも含まれているプロジェクトだ。

担当審査委員| 山出 淳也 飯石 藍 岩佐 十良 山阪 佳彦 山崎 亮

かるたの札をつくるプロセスを開き、住民の吉祥寺への偏愛を可視化・共有化していくことで、個性が失われつつある街の魅力を楽しく再発見していくとても良い取り組み。
かるたを作って遊ぶという取組そのものが時代の変化とともに繰り返されていくことで螺旋状にコミュニティが醸成されていくという視点も素晴らしい。

「私の選んだ一品」選考コメント
飯石 藍(都市デザイナー 公共R不動産 コーディネーター/株式会社nest 取締役)

「グッドデザイン」って何なんだろう(僕の感じた受賞作の共通ポイント)

グッドデザイン賞には、公開されている「審査の視点」というものがあります。それは以下のようなものです。

《人間的視点》
・使いやすさ・分かりやすさ・親切さなど、ユーザーに対してしかるべき配慮が行われているか
・安全・安心・環境・身体的弱者など、信頼性を確保するための様々な配慮が行われているか
・ユーザーから共感を得るデザインであるか
・魅力を有し、ユーザーの創造性を誘発するデザインであるか
《産業的視点》
・新技術・新素材などを利用または創意工夫によりたくみに課題を解決しているか
・的確な技術・方法・品質で合理的に設計・計画されているか
・新産業、新ビジネスの創出に貢献しているか
《社会的視点》
・新しい作法、ライフスタイル、コミュニケーションなど、新たな文化の創出に貢献しているか
・持続可能な社会の実現に対して貢献しているか
・新たな手法、概念、様式など、社会に対して新たな価値を提案しているか
《時間的視点》
・過去の文脈や蓄積を活かし、新たな価値を提案しているか
・中・長期的な観点から持続可能性の高い提案が行われているか
・時代に即した改善を継続しているか

https://www.g-mark.org/activity/2021/project.html

あらためてこれを読むと、『吉祥寺かるた』も確かに該当しているようないないような…ですね。「ユーザーから共感を得る」とか「魅力を有し、ユーザーの創造性を誘発するデザインである」「過去の文脈や蓄積を活かし、新たな価値を提案している」あたりは間違いなさそうです。
でも、2021年度のグッドデザイン大賞を受賞した株式会社オリィ研究所の『「分身ロボットカフェDAWN ver.β」と分身ロボットOriHime』などを見ると、「すべての項目に合致している!」と唸ってしまいます。さすが大賞です。グッドデザイン賞が、自分たちの理念や視点を大事にしながら選考している賞なのだということが感じられます。

10月には、六本木で「グッドデザインベスト100展」と、丸の内で「グッドデザイン私の選んだ一品」の展示が行われました。

クラウドボックスのメンバーで見に行きました

そこに選ばれている「ベスト100」の製品やサービスを見ていて、僕がすべての受賞作に共通していると感じたのは、

  • (考えが)尽くされている

  • (美しく)仕上げられている

  • (広く知らしめる)意味がある

デザインだな、ということでした。特にこの3つ目「意味がある」が大きいのだな、と感じました。

グッドデザイン賞の理念に書かれているのですが、「グッドデザイン賞はデザインの優劣を競う制度ではなく、審査を通じて新たな「発見」をし、Gマークとともに社会と「共有」することで、次なる「創造」へ繋げていく仕組み」なのだそうです。1957年に創設された古い賞で、当初は「デザイン」という概念を普及するという意味合いも強かったのではないかと想像しますが、小学生でも「デザイン」を語る時代になった今、デザインの果たすべき役割とは何なのか、ということを真摯に向き合っているのだと思います。
だから、ただ単に「カッコいいものを褒める」のでなく、「Gマークをつけて世に知らしめることに意味があるか」ということを吟味されているのだと思います。

僕たちの会社クラウドボックスのミッションは「デザインで、もっと、愛と感謝を」という言葉です。そして、『吉祥寺かるた』を制作し、その後も『まちカタルカ』などを制作している社内部門である「ぺろきちプロジェクト」のミッションは「デザインと遊びで、コミュニティを楽しく育てる」というものです。
この2つのミッションの方向性はグッドデザイン賞という賞の方向性と近い部分があるのではないかと、今回の受賞の流れの中でちょっとだけ感じました。今後も、この賞に恥じないものづくりを続け、知っていただく意味のある活動を続けていけたら、と、思いを新たにしています。

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