名場面がある漫画の力強さ (漫画家や漫画家志望者向けの話)
商業で漫画を連載している人の場合、一話完結型の漫画を描いている人はともかく、連続するストーリー型の漫画を描いている人は「時々漫画の中に名場面をきちんと入れる」というのはやはり強く意識すべきだと思います。
ストーリー漫画なのに名場面があまりなく話が進んでいく淡泊な漫画もわりとあり、そういう作品は人気面でもコミックの売れ行き面でも厳しい事になりがちです。
一方、名場面がきちんといくつもある漫画は人気も売れ行きも大きくなりやすい。
うしおととら、からくりサーカス、宇宙兄弟、MAJOR、僕の地球を守って、その他挙げ出すとキリが無いのですが、色々な名作漫画は必ず漫画の中で読者の心を深く動かす名場面がいくつもあります。
最近私は徳弘正也さんのジャングルの王者ターちゃんのコミックを少しずつ読み返しているのですが、この漫画も名場面が多いです。
中国拳法の村の大会でターちゃんが涙を流しながら「ちくしょう、おれは頭が悪いので、こ、これ以上説明できないのだ」と言うシーンでは思わず涙ぐんだ人達も多いのではないでしょうか。
ターちゃんには他にもいくつも心を強く動かされる名場面が存在し、また徳弘正也さんは他の作品(狂四郎2030やその他色々)でも強く印象に残ったり感動させる名場面が盛り込まれていて、だからこそ徳弘さんの作品に魅かれる人達は多いのでしょう。
徳弘作品は下ネタとかハードなエロ要素が人を選ぶ部分もありますが。
<名場面のある漫画は他の人にその感動を伝えたくなる>
心を強く動かされる名場面は「何度もこの感動を味わいたい」と言う事で、雑誌や漫画アプリで読んだ後も、繰り返し読めるようコミックを買いたくなります。
逆に名場面が無いストーリー漫画の場合は、漫画アプリや雑誌で読まれただけでコミックは買われず済まされてしまうという、作者泣かせな事になりやすい。
キャラクターの魅力が強い作品ならキャラ目的でコミックが買われますが。
また、名場面で強く感動させられた時は自分で味わうだけではなく、「他の人にもこの感動を味わって欲しい」と思うようになり、「この漫画是非読んでみて!!」と他人にその作品を布教する人も多いのです。
<そもそも「名場面」とは?>
漫画における名場面とは、バトルシーンだったり絶妙な駆け引きなどのシーンもありますが、やはり「心が強く動かされるシーン」だと思います。
・かなり印象に残るシーンである
・読者の心が強く動かされるシーン
というのが名場面となるシーンの条件だと思います。
漫画に限らず他のエンターテインメント作品もそうなのですが、「どれだけ強くユーザーの心を動かすか」というのは本当に作り手がしっかり意識すべき重要な点だと思います。
ユーザーの心をあまりきちんと動かせていないエンターテインメント作品は淡泊な感じがして、あまり受けが良くありません。
<名場面はそう簡単には入れられない>
読者の心を強く動かすには前もって仕込みだったり、丁寧なストーリー展開が必要、登場キャラ達へしっかり感情移入させる、ある程度の溜めなども要るため、そう簡単には入れられません。
だから読み切り漫画だったり、数話で終わる漫画は名場面は普通は入れにくいのですが、それでも読み切りや数話完結作品できっちり名場面を入れてくる強者の漫画家もたまにいます。
ストーリー構成能力がかなり高いというか。
読み切りと違って何話も使えるストーリー連載ではその都度しっかり読者を楽しませるのはもちろん、「どの段階で強く心を動かす名場面を入れるか」をあらかじめきちんと計画しておき、それに至るまでの丁寧な仕込み作業をしていく必要があるでしょう。
名場面は「思いついたらぱっと入れる」という事はできないからこそ、前もってどういう名場面をどのタイミングで物語に入れるかをきちんと考えている必要があります。
<人間の感情表現を恥じる事なくきっちりやってみる>
最近の漫画でも感情表現をしっかりやっている物がある一方、昔の漫画より感情表現がずいぶん浅い漫画もわりとあります。
キャラが一応喜怒哀楽の感情を示していても、なんだかその感情表現がいまいち弱いというか。
読者の心を深く動かす名場面を作るには、キャラの感情をしっかり深く表現する必要があります。
浅い感情表現では読者はあまり心を動かされず、名場面にはなりえません。
昔の漫画は感情をしっかり表現する物もあり、そういう濃い感情表現は今の時代だと泥臭かったり汗臭かったりうざく感じる人もいない事はないのですが、やはり人間というのは感情がメインの生き物です。
漫画内でキャラの感情がしっかり強く表現されていると、読んでいる人もつられて心が大きく動かされやすくなります。
「キャラクターの感情をどれだけ深く表現できるか」は、良い漫画を生み出すために重要なポイントだと思います。
漫画家はこの能力を特にしっかり磨くべきではないでしょうか。
ポーズなどの作画練習も大事ですが、色々な感情表現の練習も日頃から繰り返し行ったり、SNS用のページ数の少ない漫画で感情表現が濃いめの漫画を時々描いて公開したりして試行錯誤をしてみてはどうでしょうか。
SNS用のページ数の少ない漫画でも人の心を強く動かす物ができたら、そのミニ漫画はわりと多くの人に読まれ、自分のフォロワー数を増やす事にもなるでしょう。
<名場面のある漫画は自然と売れていく>
名場面がきちんとあっても知名度がなかなか増えず売れ行きが伸びていない漫画も無い事は無いのですが、やはり名場面がきちんとある漫画は先ほども書いたように「この感動を他の人にも味わって欲しい」と思う人が多くなり、他の人にも買って読んでみるよう薦める人が出てきやすくなります。
このnoteの記事の見出し画像の金田達也さんの「あやかし堂のホウライ」という漫画は今時点では残念ながら知名度があまり無い作品です。
しかし全三巻ながら各巻に人の心を強く動かす名場面がきちんと入っている素晴らしい漫画となっています。
この漫画もたとえば漫画アプリで全話読ませるようにしたり、kindle版は全巻kindle unlimitedで読めるようにしていると、読んでこの漫画に感動した人達が「この漫画すごい良かったよ!!是非読んでみて!!」と他の人に布教しだし、今からでもこのあやかし堂のホウライは売れ行きがどんどん伸びていくのではと思います。
全三巻のため全巻買った時も出費が少なく、コミック全巻を一気買いしやすいという利点もあります。
kindle unlimitedで最終話まで読んだ後に、ストーリーに感動して手元に残そうとそのままkindle版を全巻一気買いする人も出てくるでしょう。
自分の漫画を売れる漫画にしたかったら、「漫画の中に時々読者の心を強く動かす名場面をきちんと入れる」というのは漫画家は意識すべきだと思います。
<無名な漫画家も、kindleインディーズで全一巻か二巻くらいで強く感動させる漫画をリリースしてみるとか>
今時点でなかなか思ったように自分や作品の知名度が上がらず苦しんでいる漫画家さんも多いでしょう。
連載中の漫画がストーリー連続型の作品ならやはりその漫画の中にきちんと読者の心を強く動かす名場面をいくつも入れていくべきだと思います。
一過性の娯楽として読者を楽しませるのももちろん大事なのですが、心に深く残るようなシーンが時々その作品に無いと、コミックの売れ行きはなかなか増えていかないでしょう。
また、今はkindleインディーズで漫画を誰でも自由に出せるようになっています。
なかなか次の連載が取れず時間が空いている漫画家の場合、全一巻か二巻くらいの尺で「読者の心を強く動かす漫画」というのをkindleインディーズで出してみる事も考えてはどうでしょうか。
商業連載と違って原稿料が出ずアシスタントが使えないので、背景やキャラの作画コストをある程度抑えて作らないといけませんが。
ページ数がそこそこあるのでかなり長い制作期間が必要となるでしょうが、全身全霊を持って本気で強く心を動かす作品を作れたら、kindleインディーズは無料な事もあって口コミでダウンロード数もどんどん増えていき、気が付けば100万ダウンロードを突破してそれなりのお金と自分の知名度の大幅アップになるのではと思います。
またその漫画は漫画投稿サイトでも読ませた上で「kindleインディーズ版も出しているので無料でこの漫画をkindleライブラリに追加できます」と宣伝もしたり。
本当に良い作品を生み出せたらその作品があなたの代表作の一つとなって、今後の漫画家活動の大きな助けになるでしょう。
商業連載と違って時間はいくらでもかけられるからこそ、ストーリーや演出、キャラクターの感情表現などはしっかり磨いて完成させる事ができるでしょう。
エンターテインメントの世界は「その都度ユーザーをきちんと楽しませる」というのがもちろん大事ですが、それと同時に「時々強く感動させる」というのも意識して作品作りをしていかないと、今の競合が多い時代にはなかなか生き残りが難しいのではと思います。
ストーリー連続型でなく一話完結型の作品であっても、時々読者の心を強く動かすようなエピソードがあると、その作品の評価や売れ行きもずいぶん違ってくるのではと思います。
<作画担当でもできる事はある>
最近は物語は別の人が考え、作画だけをするという漫画家さんもいます。
なろう系作品のコミカライズも多いですよね。
その場合はストーリーの方は自由にできなくても、コマの構成だったり演出、キャラクターの深い感情表現などで物語中の名場面をより素晴らしい物にできるでしょう。
日頃からキャラクターの感情表現だったり、漫画の演出をよりレベルの高い感じになるよう鍛錬していくと、自分が作画を担当した漫画の売れ行きもずいぶん違ってくるのではないでしょうか。