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子どもの本の店 MURKELEI(ドイツ)

 2023年10月、フランクフルト・ブックフェアに出張に行った際に、少し足を延ばして、ハイデルベルクにある子どもの本の専門店「ムルケライ」を訪れました。ハイデルベルクは、フランクフルトから特急で1時間ほど。古城やドイツ最古の大学があることでも知られる、小さな美しい街です。
 お店は旧市街にあり、石だたみの通りに面しています。店主のユリア・シュンデラーさんにお話をうかがいました。

 こちらのお店はいつ始められたのですか?
 2018年にオープンしました。
 その前は私は、フランクフルトにある老舗の児童書専門店「エーゼルスオア」に勤めていましたが、子どもの本の店を自分で開くことは、私の長年の夢だったんです。その場所をハイデルベルクにしたのは、学生時代をこの街で過ごし、卒業してここを離れて以来、いつか戻ってきたいと、ずっと思っていたからです。歴史ある美しいこの街が大好きなんですよ。
 現在は私のほか、子どもの本や幼児教育に経験豊かなスタッフが2名、いっしょに働いています。

 お店の特徴を教えてください。
 ほぼ子ども向けの本だけを扱っている、というところです。でも、子どもの本のなかでは、なるべくさまざまなジャンルの本を幅広く扱うようにしています。たとえば、リンドグレーンやエンデ、ケストナーのようなロングセラーももちろん置いていますが、最近の児童文学作品や、エンターテインメント性の高い、シリーズものの読みもの、古典的な昔話やおとぎ話集、ノンフィクション、赤ちゃん向けの絵本などもたくさん置いています。
 日本の作家の作品のドイツ語版もありますよ。いわむらかずおの「14ひき」のシリーズや、市川里美の絵本、「おしりたんてい」シリーズも人気です。
 小さな店ですが、私たちが大切にしているのは、ここにやってきた子どもが「自分は歓迎されている」と思えるような場所にするということ。そのために、さまざまな子どものニーズにえられる品ぞろえを心がけています。ときには、子どもだけでお店に来てくれることもありますよ。
 親御さんが店内を見て本を選ぶあいだ、小さい子が遊んだり本を読んだりできるようなスペースも設けています。

プロイスラーのコーナーの『ちいさいおばけ』


「おしりたんてい」シリーズの一冊


 お店の名前の由来を教えてください。
 ドイツの有名な作家ハンス・ファラダが書いた本のタイトルから取りました。ファラダが自身の幼い子どもたちに語ったお話をおさめた『Geschichten aus der Murkelei(ムルケルたちのお話)』という本です(※日本語版は『あべこべの日』前川道介訳/ハヤカワ文庫)。Murkel(ムルケル)は本に登場する子どもの名前でもあるのですが、「子ども」という意味もあります。お話のひとつに、父親が空想上のきょうだいを考えつき、ムルケルたちが楽しむ、というものがあり、この本はまさに、想像力が新しい世界を開くことや、本が冒険への扉を開くことを象徴していると思ったので、お店の名前にこの言葉を使うことにしました。

 店内には物語の登場人物などフェルト人形がいくつも飾ってありますね。どなたが作られたのですか?
 知人の、ハイデルベルク在住のフェルト小物作家が作ったものです。おかげで店内がにぎやかになっています。


 お店のモットーがあれば教えてください。
 「読書は世界への扉を開く」ということです。本を読むことで、物語のなかに飛びこんで冒険したり、目からうろこが落ちるような新しいものの見方を知ったり、(本を通してではあるけれど)他人の心の中に入ってみたり、自分の視野を広げたりすることができますよね。子どもにとって、読書は本当に大切なものだと思います。
 でも、何よりもまず、読書の楽しさを伝えたい! 本を読むのは楽しい、ということが少しでも子どもたちに伝われば、私もスタッフもとてもうれしいです。

 お店でイベントをされることはありますか?
 はい。周辺の学校や幼稚園にときどき声をかけて、子どもたちをお店に招待しています。店内を案内して読み聞かせをしたり、書店の仕事を紹介したりします。
 また、作家や画家を招いて、朗読会や、子どもむけの講演会、ライブペインティングなどをしてもらったりすることもあります。

木のぬくもりを感じる、居心地のいい店内。
木のおもちゃやパズルなども並んでいます。


 お客様との印象的なエピソードが何かあれば教えてください。
 たくさんあるので、ひとつを選ぶのは本当にむずかしいのですが…。ユニコーンが大好きだという夫婦が来店して、ユニコーンのことが少しでも書かれている本を片っ端から買い、うきうきした様子で帰っていかれたことがありました。ふたりともきっと、子どものころから変わらない心を持ち続けている方だったんだと思います。
 私たちも、そんなふうに長く子どもたちの心に残る本を提供していけたら、と思います。

 ありがとうございました!

お店の情報
Kinder & Jugendbuchhandlung
MURKELEI
Plöck 46a
69117 Heidelberg
Germany
(火〜金)10:30〜18:30
(土)11:00〜16:00
定休日:日、月曜日
アクセス:ハイデルベルク中央駅からバスで約10分

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2024年3月/4月号より)


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