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初めての学校は不安がいっぱい!/『がっこうのてんこちゃん はじめてばかりでどうしよう!の巻』/文:編集部 田代翠

 『がっこうのてんこちゃん はじめてばかりでどうしよう!の巻』は、漫画家の細川貂々による小学校低学年向けの読み物です。これまでにも細川がさし絵を担当した児童書は多数ありますが、本書はお話も自分で書いた初めての作品です。

 てんこちゃんは「初めてのこと」がとても苦手。小学一年生になり、ドキドキしながら登校した最初の日、ひとりずつ名前とすきなことを言って自己紹介をしよう、と担任の先生が言います。
 わたしのすきなことってなんだろう? と、てんこちゃんが考えこんでいるあいだに、クラスメートが順に自己紹介をし、自分の番がきてしまいました。
「みんなが見てる。なにかいわなきゃ。すきなこといわなきゃ」「はやくはやく」「なにもおもいつかない」
 てんこちゃんは泣きたくなり、思わずカーテンにくるまって隠れてしまいます。そのとき、ひとりのクラスメートが、自分もカーテンにくるまって、言いました。
「わあ! まっ白。なるほど、白にくるまると、いままでとちがうせかいにいるみたいデスね」
 すると、ほかの子も順番にカーテンにくるまって、お日さまのにおいがする、とか、ドレスを着たお姫さまになったみたい、など、それぞれ思ったことを言います。いっぽう、自分はやりたくないからくるまらない、と言う子もいます。
 みんなの様子になんだかおかしくなって、くすくす笑っているうちに、てんこちゃんは自分のすきなことを思い出し、「わたしはてんこです。おフトンにくるまるのがすきです」と、自己紹介ができました。
 お弁当や休み時間、遠足など、全部で五つのエピソードを通して、てんこちゃんが少しずつ不安を乗り越えていく様子が描かれます。

 福音館書店のウェブマガジンに掲載されている作者自身の解説によると、自身も学校が大の苦手だったそうです。学校は、決められたことに一斉に取り組まなくてはならない場所。なぜそうしなくてはいけないのか、ちゃんと納得したかったのに、そんな質問はもってのほか。「なぜ周りと同じようにできないの?」と怒られてばかりだったといいます。

 本書では、大きな出来事が起こるわけではありません。てんこちゃんは、窓から空をながめたり、学校の玄関の横にただ座っていたり…。てんこちゃんの考えごとをたどるような、ほとんど何も起こらない章もありますが、吹き出しやコマ割りなど漫画の手法も取り入れたさし絵がたっぷり入り、テンポよく読み進められます。てんこちゃんがどんなにもじもじしていても、クラスメートたちは決して否定したりしません。学校が「考え方も物事の受け止め方もそれぞれ違っていていいよ」と言ってくれるような安心できる場所だったらいいな、という作者の思いがこめられているそうです。
 不安や悩みは、その存在と内容をまずはっきりさせることが、克服の第一歩となるもの。学校でのささいな心配事をすくいとった本書で、勇気が出る読者もいるのではないでしょうか。初めて自分で読む読み物としてもおすすめです。

文:編集部 田代 翠

(2023年5月/6月号「子どもの本だより」より)

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