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塩野米松『るすばんムクドリ君へ』

この連載では、1980年代の当時は話題になったけれど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。

 一年の半分以上も旅をして、「アンクル米松」の名前で雑誌などに寄稿していた著者が、各地で見聞きした自然や人々の暮らしを、父さんから我が子への絵入り手紙の形式で記した紀行文です。タイトルは、著者が子どもの頃、ヒナから育てたムクドリが、学校から帰って来る著者を待っていて、学校での様子をムクドリに話しながら餌をやっていたことに由来します。

 最初の手紙は春先の関門海峡を見下ろす福岡県・部崎灯台から。冬を九州で過ごしたヒヨドリが、春になると本州に渡るために何万羽もの群になり、まるで竜が体をうねらすように飛ぶ描写や、ハヤブサに襲われて命を落とす話にはびっくり。ヒヨドリが渡り鳥だったこと、住宅地でもよく見かけるようになったのは、宅地開発や森林伐採で棲む場所を奪われたからだというのも初めて知りました。
 
 次は秋田県の大深沢から。父さんは、奥羽山脈の山奥でクマやカモシカを捕って暮らすマタギのおじさんたちと一緒に山に入ります。山菜を摘み、狩りのために4、5日滞在する山小屋を作るプロセスが図解され、山の自然を知り尽くしたマタギの知識や伝承技術から、山で生き抜く力がわかります。

 7月、父さんは周囲が18.5キロで人口が500人の新潟県の粟島の漁師の民宿に泊まり、宿の小学4年生の少年と釣りに行ったり、全校生徒が6人しかいない小学校を訪ねたりします。8月、沖縄県の西表島から、本州では見られない植物や生き物たちが、父さんの描いたスケッチとともに紹介されます。

 10月、父さんは高知県の四万十川の写真を撮るために、友だちが借りている小屋にしばらく居候。父さんは、日本でも珍しい「川の漁師」たちに、伝統的な魚の捕り方を教わり、川での地引網を体験させてもらいます。

 11月末には、山梨県の富士山麓の真夜中の森で、ヒメネズミやアカネズミの生態を観察します。1月、長野県の戸隠村で、イグルーというエスキモーの人たちの氷の家作りにチャレンジ。雪を踏み固め、それをノコギリでブロックに切り出し、積み上げて家が出来上がるまでの図解を見ると、実際に作ってみたくなります。父さんたちは、そこに泊まり込んで雪の中で生息するノウサギやキツネを観察するのです。夜明けの雪原で見た動物や鳥の足跡のイラストも面白い。
 
 最後は北海道、知床半島から。漁師の船に乗り、流氷の海に生息する生き物たちを調べます。巨大な海獣トドやオオワシの生態が、著者のイラストで紹介され、とても魅力的です。

 春夏秋冬、北から南まで、日本列島各地から届く父さんの手紙を通して、日本中の「ムクドリ君」たちが、様々な生き物の生態や、自然と折り合いながら暮らす先人たちの技術や知恵を、克明に描かれた図解イラストとともに楽しめるエコロジカルな読み物です。

『るすばんムクドリ君へ』
塩野米松 作
初版 1988年
講談社 刊

文:野上暁(のがみ あきら)
1943年生まれ。児童文学研究家。東京純心大学現代文化学部こども文化学科客員教授。日本ペンクラブ常務理事。著書に『子ども文化の現代史〜遊び・メディア・サブカルチャーの奔流』(大月書店)、『小学館の学年誌と児童書』(論創社)などがある。

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2023年5月/6月号より)


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