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著者と話そう 番外編 阿部美樹子さんのまき

 今回は、本の装丁を手がける、デザイナーの阿部美樹子さんにお話をうかがいました。

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Q どんなお子さんでしたか?

A 子どものころから絵を描くのが好きで、よくお絵描きをしていました。また、本を読むのも大好きで、小学生のころは図書室や図書館に入り浸っていました。でも、中学、高校の間は、陸上に夢中で…。大学では英語を学びたいと短大に入学したのですが、ふしぎなもので、受かったら英語熱が冷めてしまったんです…。なぜあんなに英語を勉強したいと思ったのかわからなくなってしまい、ほかの事情もあって、大学は1年で辞めてしまいました。

 その後、デザインの仕事につかれたきっかけは?

 学校をやめてから、就職しようと求人誌をめくったんです。デザイン関係の仕事につきたいと思っていたら、ちょうど「本を作る会社」とあったデザイン事務所にアシスタントとして入社することができました。

 それでは、デザインについては、すべて現場で学ばれたんですね?

 そうですね。最近ではデザインの仕事をしたいと別の分野から転職してくる人も多くなりましたが、私が入社した90年代には、そういう人はあまりいませんでした。ですから、周囲にいたのは、美大や美術専門学校を卒業した人ばかり。そんななかで、最初は届け物やコピー取りをしながら、三角定規の使い方から打合せのやり方まで、社長に教わるほかは、見て学ぶことが多かったです。また、文字の種類等の知識は本で勉強しました。雑誌などのデザインを担当し、入社して2、3年経ったころ、単行本を1冊任されたんです。本全体の構成、紙、印刷のことまでデザインの領域の広さに驚きました。本を作るのって、なんて楽しいんだ、と思ったんです。その後も、年に何冊か単行本を任せてもらうことがあり、それがとても楽しみでした。

 独立されたきっかけは?

 独立は、わりとはじめから考えていましたが、時間がかかりました。もともと絵本が大好きだったので、もっと子どもに関わるものを作りたいと思うようになったんです。ちょうどそのころ、事務所では、私が関心のある絵本やタイポグラフィにこだわった書籍よりも、歴史物が多くなったり、立体の技術を生かした誌面づくりが多くなっていき、作るものの方向が変わっていったんです。結局入社九年目に事務所を辞めました。すぐに、自然分野にくわしい人たちと子ども向けの図鑑や写真絵本を作る機会があり、そこからつながって、いまでは児童書、実用書、人文書、辞書など、さまざまなジャンルの装丁を手掛けています。

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阿部さんが装丁した徳間書店の子どもの本

 絵本がお好きだったとのことですが、思い出に残っている絵本はなんでしょう?

 特に好きだった絵本が、『うみべのハリー』『げんきなマドレーヌ』『おばけりんご』『きんぎょのトトとそらのくも』、どれも大好きで、大人になってから買いなおしました。とくに『きんぎょのトト~』は、何度も何度も読んでもらって、自分でも赤い金魚の絵を描いていたのを覚えています。母が本好きで、家には絵本がたくさんあり、読み聞かせもよくしてもらいました。小学生のときに読んだ好きな本もたくさんありますが、子どものころ一番好きだった本は? と聞かれると、やはりこの4冊なんです。

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子どものころから大好きな、4冊の絵本。

 独立後、台湾で暮らされた時期もあったそうですね。

 台湾の花蓮というところに、半年ほど住みました。ずっと前から、海と山があり、田舎だけど文化もあって……という漠然とした、でも温かな感じのする住みたい場所のイメージがあり、その場所を探していたんです。台湾を旅行中、花蓮に立ち寄ったときに、「ここだ」と、はっと感じるものがありました。ここに住みたい、と強烈に思い、帰ってからいろいろ調べているうちに、私は絶対にここに住むという、根拠のない確信がわいてきて、その10カ月後には花蓮にいました。民宿みたいなところの部屋を借りて、住んでいました。そこで宿の仕事を手伝いながら滞在している台湾の人たちと仲良くなり、共同生活をしているようなすごく楽しい日々を過ごしました。花蓮でも、装丁の仕事はいくつか続けていました。とはいえ、10年ほど前のことですから、いまほどメールやネットだけで仕事をすることに慣れていませんでしたが、なんとかパソコン1台で仕事を続けられました。台湾に行く前は、仕事がすごく忙しく、充実している反面、自分に足りないものや自信のないことがたくさんあり、気持ちがふさぐことがありました。でも、台湾での生活を経験したあとは、そういったこととも向かい合って、やっていかなくてはいけないんだ、という気持ちに変わりました。台湾に行って、リセットした感じです。

 装丁の仕事をする際に、どんなことを心がけていらっしゃいますか?

 あたりまえのことですが、いい本にしようと心がけています。その本の特徴がベストな形で表れるデザインにしたいと思っています。児童書には絵本や図鑑、児童文学といろいろなジャンルがありますが、どれも書体のセレクトや文字の組み方には、特に気をつけています。組み方の余白の部分や、その言葉の質感みたいなもの、文章や言葉の力が行間から自然と伝わっていくような、読むのに余計なストレスを与えない書体の選択や組み方を目指しています。

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明治・大正期の日本児童文学を集めているという阿部さん。

 いま取り組んでいらっしゃることは?

 グラフィックデザイナーの美登英利さんが開講している、書をデザインに落とし込んでいく「デザイン書」の講座を受けています。筆や割り箸で書いた書をロゴに整え、さらにショップカードなどにデザインを展開していく、という内容ですが、美登先生の書が本当にすてきで……。いま、時間があれば書を練習しています。装丁の仕事でも、もっと手描き文字を生かしていきたいと思っています。

 ありがとうございました。

阿部美樹子(あべみきこ) 
グラフィック・デザイナー。タイポグラフィ学会会員。絵本『4ひきのちいさいおおかみ』『トラといっしょに』「サバンナに生きる」シリーズ、「日本列島 水をとったら?」シリーズ、児童文学『〈死に森〉の白いオオカミ』、『たのしいまきばのイースター』他の装丁を担当。実践女子短期大学非常勤講師。

(2020年11月/12月号「子どもの本だより」より)


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