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ハワイの恋が終わり苦しみの先に悟りへの道が開けた 5


ホノルルの黄昏時


第一章 3 フォーが好き


クリス牧師をテレビのゲストとして招待したインタビューは、楽しく放送することができた。牧師だから、話すのは慣れているし、笑う場所もあって、リスナーにも受けが良かったと思う。番組が終ってからは、お礼を言われて、局内で別れた。ゲストから食事に誘われることも多いが、クリス先生は何も言わずに帰って行った。

私がまた合唱を教えに行き終った頃に、クリス先生が現れた。

「先日はインタビューをありがとうございました。次の日に、信者さんたちに褒められました。りささんのお陰です。」

「それは良かったです」とりさ

「ご迷惑でなければ、今度お夕食にお誘いしたいのですが、お礼もかねて」クリス先生

「そんな、こちらも楽しかったですから」りさ

「いや、是非行きましょう。何がお好きですか?」クリス先生

「考えておきますね」りさ

Eメールでは、放送後すぐにお礼が入っていた。丁寧な牧師だった。

りさは、20年間ホノルルに住んでいる事、メディアの業界にいるから、どこのレストランが新しく開店して、美味しくて、どこに行けば何が買えるなど、ハワイのトレンドや、日本のニュースが常に耳に入ってくる。もちろん興味があるから、知っている事も多い。一家に一人ほしい、便利な人物だと思う。

ハワイに来て2年目、その上、宗教という狭い世界で暮らしているクリス先生に、そんな人が必要なニュースを、そして情報を話し人を紹介する。クリス先生にとって、得なことばかりだ。後に彼が言う、感謝をしても仕切れないと言う言葉は本当だ。

クリス先生との初の食事会は、フォーにした。それは安くて、りさも好きなメニューであり、クリス先生のお財布を考えての選択だった。

その店は、カイムキと言う、ホノルルの東側の地域で、ワイキキとカハラの間に位置する。ハレ・ベトナムと言うベトナムレストランにした。

昔、りさに夫がいた時に話題の店だった。

中国文化プラザ1階のPho Huong Lanのフォー野菜がたくさん付いてきます

そのころは、フォーに載せる野菜はオーガニックを使っているとうたっていて、新鮮なノコギリコリアンダーやバジル、もやしが沢山盛り付けられてきたと記憶している。それらは、お好みでちぎって、フォーのスープの上に入れる。日本人は、香草が苦手な人がいるが、そのコリアンダー(香草)が全てのフォー屋さんで出てくるとは限らない。ベトナムの地域性で、野菜は変わるのだ。ハレ・ベトナムでは、コリアンダーは出なかった。

今回は、食事に行きましょうと言われて来たのだし、私はご馳走になるつもりだった。だから安い店にした。なんせ、16歳も年が離れているから、割り勘になるのかな、割り勘だったら、これを最後にしよう、とも思っていた。

今思うと、その頃のりさはモテていた。次から次へとお誘いがあり、出会いがあった。

フォーは、何種類もあるから、初めての人は選び方が分からない。私はゲテ物好きだから、トライプとテンドンとビーフフランクに、レアビーフ、アウトサイド。トライプとは、牛の胃袋、テンドンは腱、ビーフフランクは胸肉、レアビーフアウトサイドは、薄切りの生肉をしゃぶしゃぶのように、スープに入れて食べる為、別皿でもらう。ベトナム人や、フォー通な人はそうやって食べるが、スープが早く冷めてしまう欠点がある。スープも濁る。でも私はいつも、レアスビーフアウトサイド派。クリス先生は、もちろんインサイド。いかにも田舎者で、チャレンジしなさそうな感じ。

出てきたフォーに入れる野菜が、すごく貧相だ。

「あれっ、野菜少ないねー、日本人観光客だと思っているのかも」りさが言った。

ホノルルのレストランは、フライトアテンダント達が、他のレストランの味も知らないくせに、美味しいと褒めたたえて、雑誌に紹介する。それを読んだ日本人観光客が、押し寄せてしまう・良い店はそのままの状態を保つが、悪い店は観光客だと手を抜く。レストラン自体を悪くする時が多々ある。

クリス先生との会話は、スムーズに弾んだ。お互いの過去の話、特に音楽留学した経験者同士だから、それぞれ海外で苦労した話や、日本の先生とのレッスンの違いについて、そして、クリス先生が受けたコンクールの話などだった。

食事が終わり、お支払いの時にも、この店でのバッドラックが訪れた。

クリス先生が、現金の札を払うと、釣り銭が返ってこなかった。米国のレストランでは、チップが必要だ。そんなことは十分に承知だが、給仕はまずはお釣りをもってきて、サービスが良かったか悪かったかで、チップを15%にするか18%、20%にするかを、お客は考える。この日は、いくら待ってもお釣りが来ない。

「お釣りが来ないのだけど?」クリス先生が聞いてみた。

給仕はお釣りがいるのか?という顔で持ってきた。多分、あげても良さそうな金額だったのかもしれないし、多めだったのか、私にはわからなかった。が、私達が嫌な思いをしたことには違いなかった。

また、あれっ、前と何か違うな?と思うお店は良くある。その場合は、経営者が変わったケースも多い。従業員込みで売れば、お客にはわからない。ただ、経営方針やその人の特徴などから、味だけでは無くて、雰囲気で店は変わっていく。店内のエネルギーが変わるのだ。ハワイの店は、年々移り変わりが早くなっていった。それは、土地の値段が高騰し、物価が上がり、賃貸料金があがるから。

 りさの彼、龍一はイタリアンレストランを経営していた。オーナーシェフだ。だからりさはこのような事にも詳しかった。

クリス先生との食事は、歳の差がある割にはまあまあ楽しく過ごせた。

パンチボウルと呼ばれる火山凝灰岩で円錐形の国立太平洋記念墓地

家に帰ると龍一が待っていた。

「あれっ、今日来る日だったっけ?」

龍一は、遅く帰って来たりさに、少し腹を立てて、ビールを飲んで待っていた。

「そう言ったじゃないの!」

キッチンには、美味しそうなクリームコロッケが揚がっていた。

「ごめんごめん」

りさは謝った。

「すごく美味しそうだけど、コロッケは明日食べるね」

龍一は勘が良い。

りさは、前のように付き合っている訳では無い龍一に、全てを話す気も無かった。

実際、テレビの出演者と、夕食を共にしただけなのだから。

龍一はキスをしてきた。そして、りさの服を脱がしにかかった。

「あっ、ここでえ」

もう5年も付き合った龍一なのだ。彼の気持ちはわかっている。服を脱がせて、りさの小さな胸をむさぼり始めて言った。

「誰と食事に行ったんだ」龍一

「テレビのゲストよ」りさ

「男と二人か?」龍一

「違うわよ、奥さんと三人よ」りさは嘘をついた。

龍一は、精一杯相手を気持ち良くしようとしてくれる。特に、りさの行動に不信感がぬぐえない今夜は、嫉妬心もかきたてて、丁寧にりさの大事な場所を舌を這わせて、りさはあっという間にいってしまった。


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