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09 A.D.I.O.S/The Mirraz

 目が、醒めたら。

 いやさ意識の上では瞬きをした間に、全てが終了していた。

 左腕、関節の辺りに点滴を挿され、それが麻酔であるという説明を受けたかどうかの内に落ちた、給電ケーブルを引き抜かれたみたいにがくんと視界が。

 そして次に光が戻った時には部屋が移っていた、寝台の上に仰向けで横たわっていた。おむつをあてられ脱いだ筈の下着を穿かされていた、GUで購めた三枚1,000円のボクサーパンツだ。トランクスタイプは都合が悪い、なにしろ途端に股ずれを引き起こし歩行を不快たらしめるのだ、個人の感想です。

 全てが終了した、そう、全てが終了したのだ。

 心を許した、或いはひと時は心を許した相手だけが俺のペニスのサイズを知り得ていると無邪気に信じられていた季節が終焉を迎えたのだ、俺のペニスのサイズを誰か、心を許した、或いはひと時は心を許した相手ではないものもまた知り得ていると常に意識をしながらでないと生きていかれないのだ俺は、今後。

 ただ街を歩いている時も、コインランドリィで洗濯物を掻き出している瞬間も、気になっていたネパール料理屋の店内を外から覗き先客の多さに、いやさ仲間連れの客の多さに気後れして入り口を開けられずに独り踵を返した場面に於いてさえも、向けられているかも分からないのだお前のペニスのサイズを知っているぞという視線を。

 今、視界に在るものの誰も俺のペニスのサイズを知り得てはいないと心の安らぎを感じられる瞬間をもう俺に過ごす事は出来ないのだ、生涯。

 ただ心を許した、或いはひと時は心を許した相手だけが俺のペニスのサイズを知り得ていると無邪気に信じていた己自身を殺して行かねばならない、別離を告げねばこの先へは進めない。

 やがては蜃気楼、心の安らいだ状態を俺は忘れてゆくだろう。

 お前と過ごしたこれまでの季節がどれだけ得難き時間であったのか、これから訪れる時代を過ごす内に俺は十全に思い知るのだ。

 ありがとう、ありがとう、ありがとう。

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 地球外生命体によるアブダクションの体験談ではない、痔核の結紮切除術を受けた後の個人の感想です。

('23.12.24)

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