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一月中旬、平日の午前十時過ぎ。 保育所に通う双子の妹を見送った後の二度寝、布団の誘惑に積極的に負けて以てのそれは至福だが、いよいよ目が冴えてしまい、指の爪が伸びる瞬間を目撃しようという非生産的段階に突入したなら起きるしかないだろうと思った。 出掛けねばならぬ時間までゲームでもして過ごそうと、三塚松理(ミツヅカマツリ)が居間へ行くと、居る筈のない父がいた。 「しばらく対戦出来なくなるから、少し、相手をしてもらおうかと思ってな」 高価な辞書ほどの大きさで威容を誇る
黒のロングヘアーをまとめてちびのミイみたいにしている所為か、顔つきも柔らかく歳相応に、鏡の中の彼女はそう見えた。 「だってあたしの場合は或る程度は自分で責任を取るって事でやってるからさ、線引きが出来てるっていうかさ」 二十歳の叔母、一ノ瀬綾子(イチノセアヤコ)が一人暮らしをするアパートに。 「それだったらおれも、しっぺ返しをいつかくらう事があるとしてそれも自業自得だって思ってるけど」 六歳の甥、三塚松理(ミツヅカマツリ)が押し掛けて以て始まった共同生活。 「と
目覚ましが鳴る。 起きる。 絶対に起きる。 絶対に全力で起きてロフトから居間に移動する。 昨夜の内にセットしたタイマーの通りにちょうど回り終えた洗濯機から洗濯物を取り出して干す、これは三塚松理(ミツヅカマツリ)の仕事。 その間に一ノ瀬綾子(イチノセアヤコ)はトーストとスープを作る。育ち盛りの松理に食べさせる分、なのでインスタントではなく調理したものでなければならない、利便性よりも気持ちの在りようを優先してそのように決めた。だが、固形コンソメや顆粒だしにつ
メガドラもPCエンジンもネオジオも全てファミコン。 という大胆不敵な認識の持ち主であったから。 「おかあしゃんからまつりしゃんに、ぷりぜんとがあるのです」 と、妹のるるが小鼻をうごめかせ、合皮製の黒のリュックを背負った茶色のくまのぬいぐるみ型のリュックから。 「すーぱーのはみこんなのです」 母親に持たされたと言うSFCのカセットを取り出した瞬間にもそれが。 「じゃじゃーん」 自らの趣味嗜好に合うものであるか、過剰な期待は抱かなかった。 「じゃじゃーん
道具一式は道すがらに百円ショップで見繕った。 「シャトル打ち返す時に気合が乗るようになんか掛け声みたいなのがあるといいな」 「る」 立ちはだかるのは瀧八千代(タキヤチヨ)、これを双子の兄妹、三塚松理(ミツヅカマツリ)とるるがペアを組み打倒しようという構図、そんなふうに三人がバドミントンに興じる様子を一ノ瀬綾子(イチノセアヤコ)は、広げたレジャーシートの上に座って眺めていた。 白と黒のモダンな市松文様とセクシーなくびれが印象的、彼らの奥にはとっくり型の給水塔が見え